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14 聖女なんかじゃない ー沙羅ー

 


「戻れない?」


「当たり前だろう。どれだけ貴重な時間と膨大な魔力を掛けて召喚したか。聖女として、しっかり働いてもらわねばな」


 その人は私を見てニヤリと笑うと、


「魔力の制御が出来ないと使えないからな。早く覚えるよう精進するんだな」


 と言った。それから隣の人に何かを指示して、


「使えるようになったら連絡を寄越せ。それまでこちらは動かん」


 と、今度は白くて長い髭のおじいさんに向かってそう言うと、鎧を着けた4人を後ろに並ばせて、広間から出ていった。





 白くて長い髭のおじいさんは、プルプルと震えながら、ゆっくりと私に言う。


「すぐにでも魔力を制御し、聖なる魔力を使ってもらわねばならぬのじゃ。聖女様には大変なことじゃろうがの」


 そして、周りの人に支えられながら出ていった。何一つ言葉を発することが出来なかった、私をこの場に残して。





 最初の白いローブの人も、嫌な感じの笑いかたをした体の大きな人も、さっきまで目の前にいた長い髭の人も、私の言葉なんて少しも聞く気がなかった。

 一方的に言うだけ言って、私の考えてること、感じてる不安なんて何も考えずに、この場から退場していった。

 じゃあ、私は?追いかければ良かったの?戻れないってじゃあ、ここはどこなのって聞けば良かった?

 だけど。だけどね、体は1ミリも動いてくれなかった。考えても考えても、何が起きたのかも、どうすれば良かったのかも、少しも分からないから怖くて動けないの。

 だから、そのままぼんやりと、みんなが出ていった扉を見つめていた。





「聖女様、参りましょう」


 しばらくそのままでいたら、最後に一人残っていた若そうな男の人が声を掛けてきた。失礼なことに、私と視線を合わせようともしない。

 けれど、よく見れば眉毛がハの字になっていて、申し訳ないって表情をしているように見える。その、弱気な雰囲気になぜか感情が爆発した。


「参りましょうって、どこに?私、ここがどこだかも知らないわ。戻れないってどうして?私を元いた場所に連れていってよ」


 さっきから、言いたくても言えなかった言葉が、突然こぼれ落ちた。涙と一緒に。

 多分、この人に言ってもどうにもならないんだろうってこと位は私にも分かってた。完全に八つ当たりよね。でも、どうにも押さえられなくて。

 胸を押さえて、込み上げる何か。溢れ出す涙と一緒に飛び出した言葉。









「私、聖女なんかじゃない」






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