はじまり
椎王市に存在する私立高校、『私立鐘銅高等学校』。校庭に建てられた塔に吊るされた鐘がその名の由来となっている。
生徒数は各学年三クラスと少ない人数ではあるものの、決して少子化が影響しているというわけではない。
むしろ、進学校や様々な部の強豪校として市内や周辺の市町村にも名が知れ渡っており、私立校らしからぬ授業料の安さと奨学金制度の充実さも相まって、年々倍率が高くなっている高校だった。
そんな高校の生徒たちの間には、とある噂があった。
【この高校には、オカルトに纏わる悩み事を解決してくれる部活がある】
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「今日も静かだね。」
鐘銅高校の裏手にあるこぢんまりとした一軒家のリビングには二人の男子と一人の女子がいた。
一人は本を読み、一人は宿題をし、一人はスケッチブックに鉛筆を走らせていた。呟いたのはスケッチブックを持っている男子だった。
黄土色の癖のついた長い髪の彼は筆を止め、スケッチブックと鉛筆をテーブルの上に置くと、対面式キッチンの方へと向かって行く。
食器棚から専用のマグカップとティーポットを取り出し、電子ケトルでお湯を沸かし始めた。
「ま、平和が一番ってことで。火龍、俺にも。」
「それもそうだね。美夜は?」
「私も貰おうかな。」
エメラルドのような瞳の彼が答え、花モチーフのバレッタを着けた彼女に問えば、それぞれの手元の物を片付けながら茶会の準備を始める。
専用のマグカップを戸棚から取り出し、冷蔵庫から貰い物のケーキを取り出した。
電子ケトルがカチリと音を立てれば、あらかじめ用意したティーポットにゆっくりとお湯を注いでいく。そしてそれぞれのマグカップに淹れていけば、茶会の準備は完了だ。
「神風、そっち持ってってくれる?」
「了解。」
リビングに戻り、各々が床やソファなど好き勝手に座るとテレビの電源を点けて今日のおやつに手をつける。テレビで流れていたのは去年のサスペンスドラマの再放送だった。
女子に人気の若手の俳優が主人公で、物に宿った人々の思念を読み取れるという特殊な能力の持ち主という設定だった。主人公の仇敵である女が、俳優の実の妹だったとマスコミが暴露した時はSNSなんかでも大いに盛り上がっていた記憶がある。
チャンネルを変えれば、北のほうでも桜が咲き始めそうだとか、どこかの会社の役員が資金を横領したとかいうニュースだったり、どこかの街に新しくできたレストランの紹介なんかもやってる。
ケーキをつつきながらそれらをぼんやりと見たり、今日の学校での話題だったり、今度の予定の話だったりで平和に時間が過ぎていく。
そんな時だった。
インターホンの音がリビングに響き渡ったのは。