勇者パーティ結成
「じまえ」と呟いて以降、マオちゃんは挙動不審だ。まさか「死んじまえ」ではなかったと思うが、目を合わせないし、どうにもおどおどしている。物理的にも精神的にも距離をとられている。
「勇者! 無事だったか!」
「王子さん」
困ったことに、魔王城の門前で待ち伏せされていた。王子さんも、魔騎士くんも、聖女ちゃんも、君たち自分が言ったこと覚えてる? 町へ戻って私を待つんじゃなかったのか。
「話はついたぞ、王子」
マオちゃんが前に出て言った。王子さんが目を瞬かせる。私もほんの少し驚いた。話とは、いったい何の話だろうか。主に、お互いに異世界人だねーうふふー、という話しかしていない。
「そうですか……では」
「ふむ。ひとつ聞くが、女王はまだ臥せっておるのかの?」
「ええ……」
私にわからない話するのやめてもらえませんかね。それ自体は構わないが、まるで私が当事者の一人であるかのように円陣に混ぜるのはやめてもらえませんかね。
「では王子、かねてよりの依頼、今ここにお受けするのじゃ。よいか、皆の者! これよりワラワは、隣国の王室に巣くう魔を退治しに征く! 我こそはと思う正義の者は、ついて参れ!」
マオちゃんが高らかに宣言すると、周囲から歓声があがった。私には何がどうなったのかさっぱり理解できないのだが、マオちゃんは自称魔王でありながら正義のヒーローを目指すらしい。
他人のふりをしていたのだが、遠征軍に私も押し込まれてしまった。遠征とはいえ、戦いに向かうわけではなく、イケオジ王様を捕まえに向かう王子さんのお供という形になる。他国軍を引き連れていくのはよろしくないのではと私が指摘すれば、魔騎士くんの賛同を受けた。結局、マオちゃんとその従者一人が増えただけで、少人数での復路である。
「……な、何じゃ?」
マオちゃんが落ち込んでいないかと見たら、おどおどした様子で問われた。魔王城を出たときとはまるで別人のようだ。どうやら、私にだけ、挙動不審。私のほうが聞きたい、いったい何なの。
「マオちゃん、軍、連れていきたかったのかなあと思って」
「いや、お主の言う通り、隣国のことに国として介入するのは、都合が悪かったのじゃ。その後の力関係とか云々と宰相が言ってた。ほれ、あいつじゃ」
一緒に来た従者の人、宰相だったのかよ。若い。少なくとも見た目はイケオジより若い。
「それに、人数が少ないほうがRPGのパーティみたいでワクワクするからの。今はこの世界に来て二番目くらいに楽しいのじゃ。勇者・王子・聖女・魔騎士・魔王・宰相で、ちょうど六人じゃなあ。宰相殿は弓矢使いだから、バランスもなかなか悪くないのう」
これはまた話が長くなると思い、聞き流すことにした。楽しそうに話している間のマオちゃんは、私に気を置かないでくれる。
手元に戻ってきた勇者の聖剣をバトンのようにもてあそぶ。宰相殿の魔法で王子さんの国まで一瞬で移動できるなんて、ここまでの旅はなんだったのか。まともに戦争になったら、王子さんの国が勝てるわけがない。魔王軍の侵略はなかったのだから、城に戻ったらさっさと世界に返してもらおうと、薄情なことを考えてみる。けりをつけたら、マオちゃんはどうするのだろう。正直、私は今も、早く元の世界に帰りたい。