A.私が正義だ
無かったことにしてくれと自称魔王が頼むので、仕方なく勇者一行はうなずいた。お礼に魔王城の中、玉座の間へ案内してくれると言われた。有無を言わさず斬り捨て御免というのも悪いので、聖剣を王子さんに渡し、ひとまず私一人で魔王についていくことにした。王子さんたちは近くの町へ戻り、私を待つと言う。
「玉座の間ではなさそうな?」
「あっ、えっはいそうです。あっ違った、そうじゃな!」
広間に入り、私が尋ねると、前を歩いていた魔王が答えた。キャラが違うとつっこんでいいの? まあいいか。さっさと仕事を終わらせてしまおう。私は丸腰。魔王も剣の類いは持っていない。兵士に囲まれているわけでもなく、私たち二人きり。話し合いにはもってこいの状況だろう。
「魔王。隣国への侵攻をやめていただきたい。いや、戦争に関して、部外者の私が口を挟むのはよくないだろうけど……その、凌辱とか、暴虐の限りを尽くしちゃうのは、よろしくないのでは?」
「ああ。やっぱり。あー、お主は、見たのか? 現場を?」
「えっ」
この展開は不穏。魔王の問いかけには、見ていないとしか答えられない。事実確認ができていないのに、私は、魔王を責めたわけだ。気が咎める。いくらこの異世界に興味がないからって、早く帰りたいからって、悪かったかも。
「お主がここにいるということは、前の勇者は、行ってしまったのじゃな。知ってた。ああ、あれは一ヶ月前のこと……」
だから回想シーンは全カットだって言ってるじゃないか。
魔王は手のひらを私に向けた。その手のひらの中心から、シャボン玉のようなものがふわふわと発生する。それぞれ、何かの映像をモニター代わりに映している。
この世界のこと。イケオジの王様が悪役っぽいこと。王子さんたちは祖国の腐敗を糺したいこと。前の勇者のこと。その前の勇者のこと。自称魔王の、こと。