Q.かわいいは正義か?
色々あったりなかったりしたが、とにかく。魔王城に着いた。こちらは私が召喚された城と違って……ゴシック様式ぽい? 尖っていて黒い。つよそう。人影がなく、どんより暗く、伏魔殿に見えなくもない。つよそう。魔王城と思えばこそか、これが先入観だ。
王子さんたち三人は、結局、帰ってくれないままだ。約束はどうしたんだ。幼馴染みなよい子たち、先生とお約束しましたよね?
「王子さん」
「えーと」
目をそらすんじゃない。
「……あんたが死んだら」
言い出せない王子さんと聖女ちゃんの代わりなのか、珍しく魔騎士くんが口を開いた。私が死んだら、何なのだろう。無敵勇者が死ぬ? 魔王そんなに魔王なの?
「死んだら、聖剣を持って帰る。俺たちの役目だ」
「はっはーん。なるほど。なるほどね。だからさっさと私に死んで欲しかったんだ、魔騎士くんは。危険に近づくより先に」
「殿下を、危険にさらせない」
そうかい、そうかい。納得だ。いい子か。私を殺そうとしたこと計六回、すべて許してあげよう。まあ死ななかったからね。死んでたら祟っていただろうね。
王子さん、聖女ちゃん、魔騎士くん、順に見つめる。私はお気楽な旅をしていたのに、彼らは初めから、命がけだったのだ。どうにも彼らと馴染めなかったのは、年齢のせいでも、世界のせいでもない。心構えの違いだ。
「……聖剣を渡すから、君たちは帰りなさい」
王子さんが目を見開く。聖女ちゃんが口を開きかけて、言葉を探すように、閉じて、開いて、唇を噛んだ。魔騎士くんは不機嫌だ、ワガママだなあ。
「私は無敵で最強な勇者だよ」
道中で逃げるコマンドを選ばなかった戦闘はないけどな。
「心配しなくても、君たち三人より、ちゃんと大人だよ」
「だから……!」
爆発したのは聖女ちゃんだった。何か刺さったらしい。
「だから、だから心配なんじゃないですか。大人は、勝手で、私たちを守るなんて言ったくせに、身勝手で、一人で行ってしまう」
「聖女ちゃん、」
「そうだ。勇者。私たちは、もう、あの背を見たくないのだ」
ほわほわふわーん。回想シーンは全カットだ。君たちの憧れの過去の人は、申し訳ないが私には関係ないので。あと君たちの仲間が私を殺そうとしていたことを都合よく忘れないように。
魔王城の門前でくだらない感動展開はいらない。どうしたものか。水を差すのも悪いが。
「ぶふっ熱い展開……!」
「……」
水を差されたようだ。
王子さんと聖女ちゃんがキョロキョロ。魔騎士くんは構えを改める。最初に不審者を発見したのは私だった。美少女が門柱の陰からこちらを覗いていた。神に完璧に作られたような美少女だった。異世界なら、うち来てピアノやりませんか、私ピアノの先生してて、と勧誘したくなるくらいの。したことないし絶対にしないけど。
「おお、見つかってしまったようじゃな! ワラワが魔王じゃ! 勇者よ、よくぞ参っ、痛!」
とてとて歩いて出てきて、美少女は宣言した。そして転けた。