魔王倒しに行く
与えられた聖剣は手に馴染んでいた。剣など持ったことのない私にも、勇者という肩書が付けば、この程度は余裕ということか。
大の男が三人がかりで運んできたときは、冗談かと思ったものだ。どう見ても鐘、寺社にあるようなやつ。まずこれのどこが剣かと。指示されて私が触れた途端、まばゆい光を放ち、鐘は細剣に変化した。まるでファンタジー。手放しても鐘には戻らなかったが、私が拙く剣を構える間だけ光った。ファンタジー。恥ずかしいわ。
魔王あっちにいるからと適当な方角だけ示されて、そちらへ向かうことに。三人ばかり同行者をつけられたが、正直なところ、死ねと言われているのかと思った。たかだか四人で魔王を退けろとな。魔王軍って何人いるのかな。
だが意外なことに、むしろ彼らは足手纏いだった。聖剣を手にしている間の私はまさに無敵で、攻撃を受けてもダメージ皆無。聖女の再来と呼ばれているらしい回復魔術士のため息が止まらない。
余裕がないという話なので、戦闘は避けて避けて避けまくって、とにかく先を急ぐ。早く終わらせて、王様に誉めてもらって、帰らせてもらおう。戦闘を避けるのには、まあ、できれば誰も殺さず傷つけずという甘えもある。
「あの、王子さん」
「何だ、勇者」
最初の脱落者は魔騎士くんだ。私が脱落させたいと言うのが正しい。王子さんに言って、外れてもらおうとしたのだ。
理由は、無駄に戦いたがるから。いくら私が無敵勇者だからって、私を巻き込む高範囲魔法攻撃はよくないぜ。その魔法攻撃を受けて初めて、私が無敵であることが発覚したのだから、殺す気でやったんじゃないかと思っている。殺したくないし、殺されたくもないので、距離を取りたい。
「しかし、勇者。彼は、私の護衛も兼ねてくれているのだ」
死地に送られる王子であるから、無能か愚鈍かと思えば、わりとまともそうなことを言った。思えば、同行者三人は仲が良さそうだった。ちょこっと聞いてみれば幼馴染みとのこと。
「あー、それなら、王子さんも魔騎士くんと一緒に帰っては? もういっそ聖女ちゃんも」
「そういうわけには……」
聖女の再来ちゃん、聖女ちゃんは、困ったように眉尻を下げて、王子さんを窺った。王子さんも困った顔だ。魔騎士くんは不機嫌そうな顔で、かといって何も言わない。文句あんならとっとと言えよ。なあ。聞いてやるよ。おいこらてめえ聞いてんのかこら。あっ心の声だった聞こえないな。
名誉だとか大義だとかのため、勇者一行に“王子”が含まれている必要があるのかもしれない。初めから三人選ばれたのか、あとの二人は王子さんについてきたのか。三人とも十代くらいだろうに、大変だなあ。同情はする。
とはいえ邪魔なものは邪魔だ。連れが多いと見つかりやすいし、戦闘になれば死なないように目を配らなければならない。本当に、私の精神衛生のために安全な場所に引っ込んで欲しい。
そこを何とか、足手纏いなのは自覚するが何とか、などと頼まれ、仕方がないので魔王城までは一緒に行くことにした。魔王が本拠地にいるのか、前線にいるのかは、誰も知らないが。着いたらすぐにとんぼ返りの約束だ。私が道を知らないことも思い出したし。
野宿の用意をして、聖女ちゃんの作ってくれた食事をありがたくいただく。食事係は魔騎士くんだったのだが、私に何の恨みがあるのか毒を盛ったのでファイア。私が死んでも聖剣は魔騎士くんも王子さんも選ばないだろうよ。
「あーあ」
寝転んで夜空を見上げる。星一つないのに、ほの明るい。異世界である。イケオジ王様が連れならば、もう少し楽しいに違いないのに。そういえば王子さんはあんまり王様に似てな……あっ。
魔王がいい人でなければいいなあ。いい人なら、話がわかる人なら、いいなあ。