魔力操作
「おほん、そろそろいいかの」
皆が初めて使うスキルではしゃいでいるとヴェリアが咳払いで白純達の意識を集める。
「鑑定のスキルは皆使えたようじゃの。お主達の持つスキルには中には鑑定と同じように念じるだけで使えるものもある。あとで試してみるといいじゃろう。さて、次は魔法について説明しよう。魔法を使うには適正が必要なのだが適性を持っていない奴も聞いておいて損はないと思うぞ」
魔法を使うには適正と魔力が必要らしい。適性が無くともある程度魔法を使うことができるが、適性があるのと無いのとでは違うらしい。
ヴェリアが手の上に火の球や水の球、風の球、土の球が出現させる。
「儂は四つの適性しかないが、このようにそれ以外の魔法も練習すれば使えるようになる」
それを見たクラスメイト達が歓喜の声を一斉にあげた。
さらに追加で光の球と闇の玉を出現させる。
「次に魔法とは自身が持つ魔力を詠唱によって変換することで使用可能になる。魔法には様々な種類があり、火属性、水属性、風属性、土属性、光属性、闇属性と水属性の派生魔法、氷属性と風属性の派生魔法、雷属性の八属性の属性魔法と回復魔法、結界魔法、複合魔法、精霊魔法が存在する」
属性魔法はその名前の通り、その属性に関する魔法が発動することができる。先程ヴェリアが掌に出現させた魔法がその属性魔法らしい。
回復魔法もその名の通り、傷を回復したり、毒を解毒したりすることができる。更に通常、魔力は自然回復でしか回復できないのだが、回復魔法を極めることで魔力を回復させたり、魔力を人から人へ譲渡することも可能になる。だが、そのためには多大な時間と鍛錬が必要らしく、使い手のやる気が試されるらしい。
結界魔法は物理結界や魔法結界など、様々な結界を張ることができる。ただしかなりの集中力が必要になり、その分強力なものができるが使用者は少ない。
複合魔法は様々な魔法を複合して発動させることができる。だが、何とでも複合できるというわけではなく、相性の問題で複合が出来ない魔法もある。
精霊魔法は基本的には人族は使用できず、ほとんど妖精族しかいない。人族にも稀に精霊魔法の使い手が現れるがここ五十年現れていないそうだ。
なので、このクラスにも一人精霊魔法の使い手、精霊使いがいるのでかなり珍しいとのこと。
「次に魔力じゃが、魔力とはこの星の中心から溢れ出る星の生命力のようなものじゃ。各地の地中深くには龍脈が通っており、そこから魔力が溢れてきておる。魔力は常に空中に漂っており魔力が無い場所などは現在確認されておらぬ。他には全ての生物は魔力を必ず保有しており、魔力の無い物質は存在するが魔力を持っていない生物は存在しとらん」
魔力はとても便利で様々なことに応用が可能なものらしい。例えば魔力を体中に循環させることで『身体強化』のスキルを持っていなくても『身体強化』より性能は低いが身体強化が出来るようになるのだ。
武器に魔力を纏わせたり、魔力を放出したり飛ばしたり、他にもいろいろあるそうだ。
「魔法を扱うにおいてまず、魔力を把握しないといかん。まずは魔力の把握の仕方を教えよう」
魔力は人それぞれによって感じられる場所は違うらしい。心臓の辺りだったり、腹の辺りだったり。中には手足や頭に魔力を感じる人もいるらしい。要は、イメージが大事らしい。
何かコツは無いのかと聞いたところ、
「そんなものはない。自分の体の中に新しい器官があるとイメージしろ。それで違和感があればそれが魔力じゃ。一度魔力と認識してしまえばあとは簡単じゃ。感じることができれば次は体中に循環させろ。それができたのなら報告せぇ」
とのことらしい。
白純は目を瞑って集中する。白純は新しい器官があるのをイメージせずに、心臓に魔力があることをイメージするようだ。
意外にも魔力を感じとるのは簡単で、白純はそれを体中に循環させる。これは先程より簡単だった。心臓にイメージをしたので血液と共に魔力を循環すればいいだけなので、イメージが簡単だった。だが少し、疲労感が溜まっていく。というか、この感覚はあの感覚に似ている。
白純が地球にいた頃から度々起きていた、未来視。その度に起こっていた状態だ。あれより症状は軽いが間違いない。
つまり、あの映像は魔力を使って発動されていた。だが疑問がある。地球には魔力という概念は無いし、使える人などいない。
ではなぜ、あの感覚に酷似しているのだろうか。いや、そもそもあれは魔力を使って発動されていたのか。
疑問が尽きない中、白純はある一つのスキルを思いだした。『未来視・ 』、おそらくこれがあの映像と関係しているのだろう。ここで試してみたい気持ちもあるが今発動させて何が起こるか分からない。せめて一人の時に、夜にでも試すとしよう。
白純は取り敢えず、魔力の操作に集中することにした。魔力を全身に行き渡らせる。血流と共に魔力を送り出す。だが、魔力がドンドンと減っていく感じがして、疲労感が溜まっていく一方で魔力がうまく循環させられない。
「おいおい隻腕少年。魔力がダダ漏れになっておるぞ。その左腕から」
「え?」
ヴェリアにそう声を掛けられ、白純は一度魔力の操作を止める。
「君は左腕が無いのに左腕があった場所にも魔力を流そうとしている。そのせいで魔力が霧散しておる」
そう言われて白純は気が付いた。確かに白純は魔力を全身に行き渡らせるイメージをしていた。そのイメージには今は無い左腕にも流すという意識が入っていたのだ。
「お主はちゃんと魔力操作が出来ておる左腕が無いということさえ意識して操作すれば完璧じゃ」
ヴェリアがそう言って二カッと笑った。先程鑑定しようとしてばれたときの表情が嘘のようだ。
それに驚いているとふと視線を感じた。いつものごとく、輝一の視線だった。輝一は褒められた白純が気に入らないのか、物凄くこちらを睨んでいる。
白純はそれに面倒臭そうに顔を顰めそうになるが内心に押し止め、無視を決め込み、魔力操作に集中する。
次は先程のように左腕があった場所には魔力を流さないイメージ。きちんとイメージをして魔力を流していく。今度は上手く行ったようで魔力が先程より抜けていく感覚が少なくなっていた。まだ魔力が抜けてしまう感覚があるのは魔力操作が未熟だからだそうだ。練習を繰り返していけば無駄なく出来るようになるらしい。
周りを見渡してみると魔力操作ができたのは白純が最初というわけではなく既にできていたクラスメイトが数人いた。だが、その者達はスキルに『魔力操作』を持った者達で魔力操作のスキルを持っていない中でできたのは白純が最初のようだ。
まだできていない者達が多いので、全員ができるまでに時間があるので白純はそのまま魔力操作を継続する。魔力操作はほどほどにしておかないと直ぐに魔力切れになってしまうそうだが、白純の魔力値は異常に高いので心配いらないだろう。
魔力切れ、つまり体内にある魔力がゼロになってしまうと頭痛や吐き気、倦怠感が体を襲ってくるそうだ。これを魔力欠乏と言いかなりキツイ状態らしく、魔力管理はしっかりした方が良いとのこと。
その後、全員が魔力操作をできるようになると火属性の初級魔法を教えてもらった。“灯火”と言う名の初級魔法でただ蝋燭並みの火を手の上に出現させるだけの魔法だったが、それでもクラスメイト達は十分なようで興奮していた。
その他の属性の初級魔法を教えてもらい今日はここまでとなった。各自自室で何度も練習するようにとのことだ。
白純は部屋に戻って一人で練習しようと思うが他の者達は未だ興奮が冷めやらぬようで会話を続けている。そのおかげでこっそりと部屋を出て行く白純には気づかなかったようだ。
メイドの案内で部屋へと戻った白純は早速『気配感知』を発動させた。その効果は名前の通りのようで、周囲に存在するすべての生物の情報が白純の頭へと入り込んでくる。
白純はそれに驚き、すぐにスキルを解除してしまった。どうやら初めての気配感知では、無視や動物などの気配も感知してしまうようで上手く調整ができないようだ。白純は何度も気配感知を繰り返し、ようやく人のみの感知に成功した。あとはこれを日常で無意識に使えるようになればかなりの強戦力になるだろう。
(さて、気配感知の方はこれでいいとして次は問題のあのスキルだな……)
白純はステータスのスキル欄にある『未来視・ 』を見つめる。幸い、周囲に人がいないことは先程の気配感知で分かっている。
白純は深呼吸をすると覚悟を決めて『未来視・ 』を発動させた。それと同時に、白純の意識が深い、闇の中へと沈んでいくのが理解できた。
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目を開くと視界に入ってきたのは様々な方向から照らされる光だった。相変わらずの灰色世界だが、その眩しさに煩わしさを感じて、手で遮ろうとするが手が動かないことに気が付いた。そちらに視線をやると何と右手が枷で固定されていたのだ。その枷は頑丈そうに作られており、とても壊せそうにない。
周囲を見渡してみるとそこには白衣を着た集団が白純を囲んでいた。手に何か持っているようだ。器具のような感じはするが、光が強いため見えない。白衣が持つ、何かを注視していると、一人の白衣の男がその手に持つ器具を白純の左腕に向けて近づけて来た。
白純はその白衣の行動に酷く嫌な感じがした。身を捩って何とか回避しようとするが固定された体は動かず左腕にその器具が触れた。
「ぐ、あああ――」
白衣が持つ器具はナイフのような物だったようでそのナイフで白純の左腕の傷口がえぐられた。白純は痛みで叫ぶが直ぐに口に布を詰め込まれてしまい、叫べなくなってしまった。
悲鳴とは、痛みを逃がすために行う行為だ。それができなくなった白純は痛みを逃がせずに、しかも体も固定されていて動かせないので目を見開いたり閉じたりすることしかできず体のあちこちを刻まれていく。
――ブツッ
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「――はぁっ、はっ、はっ」
白純はガバッと体を起こす。汗が大量に出ており、息も絶え絶えだ。それに魔力が大分少なくなっている気がする。
白純は先程の映像を思い出す。痛みで自分の体がどうなっているのか把握できなかったが、何か白純の体で実験しているのは分かった。
今すぐ逃げるべきだろうか。そう考えたが、地図も無いのにここから逃げて外に出るのは危険すぎる。それに追手が来ないとも限らない。
ならばどうするべきか。白純は無意識に『並列思考』を使って考えるが、あまりいい案は思い浮かばなかった。
――コンコン
「榮倉様、そろそろご夕食の時間です」
その声でハッとする。もう既にそんな時間になっていたようだ。白純は汗でぬれてしまった服を着替えて、メイドに案内されて食堂へ向かう。
食堂にはまだそれほど人は集まっていなかった。白純は隅の方の席へ向かう。と、そこへ美恵が近づいて来た。
「……榮倉君、今日の夜、私の部屋へ来てね」
これだけ聞けば勘違いしそうだが、そういうことではないことくらい分かっている。
「分かりました」
白純はそれだけ返し、席に座り食事を始めた。
そして、その後食事を取り終えた白純は現在、美恵と向かい合っていた。白純達は食堂であった出来事について話し合っていたのだ。
人が集まり、食事を取ろうというところで騎士団長のガルドから報告があったのだ。それは二週間後、シヴノス帝国近郊に存在する迷宮で実戦訓練するとの報告だった。
迷宮とはこの世界に存在する龍脈の上に自然にできる構造物のことだそうだ。迷宮には定期的に龍脈から魔力を吸い上げ、その魔力で迷宮を維持、魔物の生成をする機能が備わっている。
迷宮は階層ごとに生成されており、現在確認できるのでは最大で百階層、最小で五階層らしい。
今回、白純達が向かう迷宮は全二十階層の初心者向けの迷宮だそうで、そこで魔物との実戦訓練をするとのこと。
それまでに白純達を鍛えるのでこれからの訓練はより一層厳しくなるそうだ。
「迷宮での実戦訓練、早過ぎじゃないですか?」
「そうよね。それほど時間が無いということかしら。生徒達は深く考えていないみたいだけど」
「実戦で何をするのか分かっているのですかね」
この質問に美恵は肩を竦めるだけで何も言わない。
その後、少し情報を交換して白純は部屋を出て行った。それと、白純は自身の役職スキルがないことと『未来視・ 』については一切話さなかった。情報が少ないので信じて貰えるか分からないし、余りあの人に手の内を明かしたくはなかった。『鑑定』があるのでそれも時間の問題だろうが。