未来視
それから、白純はこの事件を機に、様々な事故、事件に巻き込まれるようになった。あのとき見た映像も、短いが必ず見えるようになった。
しかも、その映像、未来予知で見えた不幸を回避しようとすると、その不幸は白純には降りかからず、他人に降りかかることが分かった。それに気づいたのはこの事件の半年後、バスと大型トラックの追突事故の時。
白純はバスに乗っており、隣町へ移動するところだった。バスに乗っていると、急に未来予知が見えたのだ。
それは現在、白純が乗っているバスがトラックと追突し、事故になる予知。白純だけが大怪我を負っており、他の乗客達はかすり傷などの軽い怪我人のみ。場所は、ここから少し進んだところだ。
白純はもう、耐えられなかった。なぜ自分だけがこんな目に、毎回、これは罰だと自分に言い聞かせてきていたが、それも我慢の限界だ。
白純はバス内を見渡す。白純はなぜか理解できていたのだ。自分が、予知で見えたのと違う行動を起こすと、未来が変わることが。
一番後ろの席に移動し、数分過ぎた頃。バスは交差点に差し掛かっていた。バスが、直進し交差点を過ぎ去ろうとしたところで、
――ズガァァアン!!
すさまじい衝撃が白純、乗客たちを襲った。バスがトラックと衝突したのだ。トラックは信号無視で衝突してきたらしい。
白純は何が起きるか分かっているものの、それでも不安だったようだ。急いでバス内を見渡してみると、乗客たちは打撲やガラスの破片が刺さったなどの軽い怪我だけで済んでいるようで、大事には至っていない。
白純は、自分の見えた未来が無事に変わったことに安堵した。もうこれで自分が不幸な目に合わなくてもいいと。しかし、白純に襲い掛かる不幸はこの程度では終わらなかった。
「――! ――!」
白純はバスとトラックの周囲に人が集まってきたことに気が付いた。何やら叫んでいるようだが、周りの喧騒のせいでうまく聞き取れない。
「……? 何かが漏れている?」
周囲にいる人が叫んでいる内容を聞いてみると、――漏れ出ている。早く出てこい、と叫んでいるのは聞き取れたのだが、肝心の何が漏れているのかが聞こえない。しかし、乗客の一人が聞こえたらしく叫んだ。
「おい! ガソリンが漏れているぞ! 早く逃げろ!」
バスにいた乗客がそう叫んだ。その瞬間、バス内が一気に阿鼻叫喚となった。みんな、バスの外に出ようと必死だ。白純は――動けずにいた。
結局こうなるのか、どう足掻いても一度見えた未来からは逃れられないんだ、と。そんなことばかり思い浮かび、頭が何も考えられなくなった。
そして、ガソリンが引火した。バスの周囲に集まっていた人達が一斉に離れていく。
白純は呪う。不幸な自分を、そして、自分をこんな目にばかり合わせるこの世界の運命を。
その瞬間、バスが爆発した。ガソリンに引火した火が燃料タンクにまで引火したようだ。白純はその爆発の発生源から、一番遠いところにいたおかげか、生き残れた。爆発のせいで大怪我を負っているが、助かったのだ。だが、他の乗客たちは爆発に巻き込まれてほとんどが死んだようだ。
白純は誰かが呼んだであろう救急車か消防車のサイレンが聞こえてくる中、未だ燃えているバスをぼうっと眺めていた。
白純は、あの時のこと、銀行強盗によって死んだ両親の顔を思い出していた。自分のせいで死んだ両親。地面に横たわった目を見開いた両親。
白純はそこで意識がなくなった。次に目が覚めると再び見たことのある光景、病院のベッドの上で目覚めた。
後日、聞いた話では、あの事故のバスの乗客の生存者は白純だけらしい。追突してきたトラックの運転手も爆発に巻き込まれて死亡。白純はあの事故の唯一の生存者として、一躍有名人となった。
悪い意味での有名人に。
あの銀行強盗に次いで、バス爆発事故ときた。更に、乗客運転手含め、白純以外が全員死亡。ここでトラックの運転手が生きていれば乗客関係者の恨みは全てそっちへと向かったかもしれない。だが、事故を起こした張本人は爆発に巻き込まれ、死亡している。
これだけならば、まだ白純に恨みなどの感情は向かって来なかっただろう。だが、白純には銀行強盗達を殺したという噂が広まっていた。新聞やニュースでは銀行強盗達の誤発砲で死亡となっていたが、ネットでは白純が殺したと広がっている。それが、今回の死亡者関係者にまで広まっていたようだ。さらにその後も大なり小なり様々な事件に巻き込まれた。そのせいで、白純が全て仕組んでいるのでは? などと言う根も葉もない噂が流れ始めたのだ。
そしてそれを聞いた関係者たちは、行き場のない怒りをぶつけるに丁度いい人物を見つけたとばかりに、白純へと逆恨みをしたのだ。
それがこの紙袋に入れた大量の手紙だ。手紙は毎日やってくるので、放置しておくとポストがあふれかえってしまう。なので、仕方なく朝はこうやって学校で処分している。
この学校には珍しく焼却炉があるのでそこで処分している。学生は勝手には使えないが、管理している用務員さんが理解のある人で、毎朝処分を手伝ってもらっているのだ。
手紙の処分を終えた後は、用務員さんに預けてあった上履きを回収して教室へ向かう。そうしないと直ぐに上履きが捨てられてしまうからだ。
教室に入ると、いつもと同じ視線、舌打ちの嵐。白純の席は一番後ろの窓際の席。他の席から遠ざけられるように置かれた机には大量の落書きがされている。
白純はそれを見て、溜息を吐く。こんないたずらにももう慣れてしまった。鞄からアルコール消毒液と雑巾を出し、落書きを消してゆく。
周囲の者はアルコールの匂いに眉を顰めるが、こちらには関わって来ない。これはこのクラスでは居ない者として扱われているためである。授業でも白純は一切当てられず、質問をしても返されることはない。
だが、白純はそれなりに頭がいい方だ。学年では十位以内には入っている。分からない所があったら調べたり、何度も解き直してみたりすれば直ぐに理解できた。
それが他人には気に障ったのか、あらぬ疑いをかけられたりもしたが、証拠がないので無意味な注意だけされて終わる。
机の落書きを消し終えると同時に担任が教室に入ってくる。担任は女性の教師で、村主美恵という。ポニーテールの髪に、ふくよかな胸をしている。そして、この人はクラスの中に何人か存在する、白純を居ない者扱いしない人物だ。そして、珍しく白純が名前を憶えている人の一人である。
クラスメイトの名前なんか呼ばないものだから全く覚えていない。それでも何人かは覚えているようだが、圧倒的に少ない。
担任の村主を除き、覚えている者は北垣友香、柏木未来、赤川健吾、成富輝一。
北垣友香。セミロングの髪でメガネを掛けている。無駄な肉が付いておらず、女性からしてみれば羨ましい体格なのだが、胸にも肉が一切ついていない。そしてこのクラスの委員長でもあり、白純を委員長という立場上、見過ごせないのか周囲の者が止めるにもかかわらず何度も関わろうとしてくる。
そして、そんな北垣友香の親友である柏木未来。いつもおどおどしているのだが、その実、運動神経抜群の剣道少女である。道場にも通っているおかげか、服で隠れて見えないが体も引き締まっているように見える。髪は動きやすそうにポニーテールで纏められている。
赤川健吾。坊主頭の脳筋である。それ以外何もない。ただのバカで体がごつくて成績も下から数えた方が早い。だが、白純は知らないようだが赤川は総合格闘技の大会で全国大会に行ったことのある、ただの脳筋ではなくとてもつよい脳筋なのである。
そして成富輝一。爽やかそうな髪に校内一容姿の整った顔。告白も月に二度はあるそうで、他校からなんていうのもよくあることだ。運動神経がよく頭がよい。学年十位以内には入っていたはずだが、白純ほどではない。柏木未来と幼馴染で、赤川健吾と親友だそうだ。学校中で人気があり、同年代だけでなく、先輩後輩、そして教師陣からも頼られている。そして、今年に入ってからは生徒会副会長に選ばれた。誰にでも気さくに話しかけるが、成富は白純にのみ強い当たりをしている。
白純は興味がないので気にしておらず、成富の視線は他の者が向ける視線と大差ないのだがどこか、監視されているような気がして仕方がない。その上、自然に毒を吐くのだ。北垣達にも注意はされているが、一向に直す気配はない。というより、本人に自覚症状がないのだ。
注意されても、ぽかんとした表情で何が悪いのか分かっていないのである。
その発言に白純も成富の幼馴染達も呆気にとられていた。
そんなことを思い出しているうちに出席を取り終えようとしたその時、
――ザッ、ザザ、ザァアアー
視界が、暗転した。
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再び、灰色の世界に来た。
ここはどこだろうか。
全て灰色に見えるからか、どんな場所なのか、全く見当がつかない。だが、まるで神殿のように見えるが、こんな建造物は近くにはないはず。
そこで白純は左側が妙に軽いことに気が付いた
左側を見てみると、そこにはあるはずのものが無かった。左腕が、無かったのだ。
一瞬、何が起きているのか理解できなかった。しかし、左腕から送られてくる痛みに白純は悲鳴を上げ、蹲る。
「ああああっ!? ぐうぅ!」
白純は突然のことに理解が追い付かない。だが、今までこの世界で起きることは現実でも起こる。そのことを理解している白純は痛みを堪えながらも周囲を見渡す。
周囲にはクラスメイト達と何やら変わった服装、鎧のようなもの等をしている集団がいた。視線を正面に向けると、豪華な椅子に偉そうに座っている油まみれの豚……おっさんが座っていた。身に着けている服は高級そうな物でアクセサリーも売れば何百万もしそうな物ばかりだ。
周囲にいる者達は白純の方を見て、驚いている様子だ。鎧を着ている集団もなにやら顔を見合わせている。手には何か、首輪のようなものを持っており、全員がそれをこちらに向けて持っていた。
豚がハッとしたような顔をした後、鎧の集団に何かを命令すると鎧の集団は直ぐにそれを背後に隠す。クラスメイト達はその様子を見ていなかったようで気付いてない。
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そこで、視点が戻った。どうやら気絶したようだ。周囲を見渡すとどうやら一時限目の授業が始まっていた。
白純は先程の未来視で見たあの場所がどこなのか考える。近場に、あのような建造物は見当たらない。クラスメイト全員があの場に存在し、担任もいた。ということは学校にいる間、昼間に起こった出来事であると考えられる。
全員がいるタイミングとすれば、今か最後のホームルームくらいしか思いつかない。と、そんなことを考えていると、窓の外に何かが引っかかっているのが見えた。どうやら紙が引っ掛かっているようだ。半分に折りたたまれているようで中には何かが書かれている。手を伸ばせば届く距離だ。
白純は窓を開け、机と窓は少し距離があるが手を伸ばせば十分に届くので、左腕を伸ばす。しかし、あと少しというところで、体中に悪寒が走り抜けた。
いつも、何か起こるときの前触れだ。今回に関してはあの映像の事だろう。白純はこのままではまずいと思い、急いで左腕を窓の内へと戻そうとするが、遅かったようだ。
「っ!?」
左腕が肘より少し上の部分から動かなくなってしまったのだ。それと同時に教室の床が発光する。そこには複雑な模様が浮かび上がっており、他の者たちもそれに呆気にとられていて動けていなかった。だが、白純はそんな場合じゃなかった。
どうにかして左腕を謎の拘束から外そうとするも、ビクともしない。窓より向こうにある肘から先は動かせるのだが、ちょうど窓枠のところで動かないのだ。
刻一刻と光が強まっていく中、白純は焦りに焦り、がむしゃらに左腕を動かした。
その際に、何か掴んだような気がするがそんなこと気にしていられない。周囲の者達も部屋から出ようとするがまるで見えない壁のようなものに阻まれているようで、脱出できないようだ。
そして左腕が外せないまま、床から発されている光が爆ぜたとき、白純は抗うことを諦めた。
結局は自分だけが傷つく運命なのだ。
――カッ!
光が教室内を埋め尽くした。俺白純達は光に目をやられないよう腕で庇う。
光が晴れると、そこには散乱した机や教科書と、一番後ろの窓側の席には血まみれの窓、窓の外から下を覗くと誰かの左腕が落ちていた。
その後、教室前を通った教師によってこの異変を伝えられ、血が散乱していることから何者かによる集団誘拐事件として扱われるも全く手がかりがないことから不可解な事件として世間に知れ渡ることとなった。
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