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平穏な暮らしを求めて  作者: リュウ
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不運の始まり

拙い文章ですが読んでいただけると幸いです

 熱い。痛い。体が重い。悲鳴が聞こえる。何かが破裂する音が聞こえる。誰かが倒れる。声が聞こえる。うるさい。うるさい、うるさい、うるさいうるさいうるさい。


 ――俺が何をした。



 朝、カーテンの隙間から射す陽の光で俺、榮倉(えいくら)白純(あきすみ)は目を覚ました。


「……何であんなの思い出すかな……」


 白純は布団から起き上がり、夢のせいで掻いた汗を拭う。


 布団から抜け出し、服を脱いで鏡の前に立つと、そこに映るのは生々しい傷跡の残る体。


 火傷、切り傷の他にも様々な傷痕、これらの傷跡は全て白純の体質によって負った傷痕である。


 白純の体質、それは不幸体質。それも超がつくほどの不幸である。それと、不幸が訪れる瞬間、何が起こるか一瞬だけ見える。しかも、その不幸が小さかろうと大きかろうと、白純自身に降りかかる不幸のみが見えるようになった。


 白純は見慣れた醜い自身の体に溜息を吐きつつ、学校へ向かう用意を済ませ、居間に置かれている仏壇へ手を合わせる。この仏壇には白純の両親二人の遺影が飾られていた。


 両親は四年前、白純の不幸体質に巻き込まれて死んでしまった。白純はあれほど自身の存在を呪ったことはない。


 両親が死んでから絶望にくれた白純は何度も自殺を繰り返した。たとえ、両親が白純に生きることを望んでいたとしても、白純は死にたかった。だけど死ねなかった。覚悟が無かったわけではない。自殺をする度に邪魔が入り、必ず自殺未遂で終わってしまう。


 白純はさらに絶望をした。死ねない自分自身に、そして自身を死なせないとするこの世界に。


「……行ってきます」


 両親に向かってそれだけ呟いた白純は家を出た。その際、ポストをチラッと見てみると、やはりいつものごとく大量に手紙が入れられている。白純は大量の手紙を鞄の中に突っ込み、学校へと向かう。


 学校に向かう最中、様々な視線が白純を突き刺す。好奇、嫌悪、憎悪、恐怖、そして殺意。これらの視線にはもう慣れた。


 なぜ、このような視線が白純に向けられるかというと、


「見ろよ、また学校に来やがったぜ、あいつ」

「うわ、マジかよ。よく堂々と学校に来れるな」

「ホントだよ。アイツ人殺しだろ? なんで捕まらないんだか」

「さあ、なんでだろうね」


 白純と同じ制服を着た生徒達がコソコソと会話をしている。その内容は友好的ではないとわかるだろう。


 その生徒たちの言う通り、白純は人を殺した。それも一人や二人じゃない。十人以上も殺したことがある。


 だが、白純は人を殺して楽しむ快楽殺人鬼ではない。白純が殺したのは全て犯罪者だ。それも、人を殺した犯罪者。だからと言って殺していいというわけではないのだが。


 何故、白純が人を殺したかというと、あれは四年前、両親が死んだ時だった。



「父さん、お金はあるのか?」

「ああ、今は財布の中すっからかんでね。今から銀行に行って下ろそうと思っている」

「あなた、財布の中身の確認くらいしっかりして下さいね」

「わ、悪かったよ」

「まあまあ、落ち着いて母さん」

「もうっ」


 白純の横を歩く二人の男性と女性は白純の父親と母親、榮倉翔(しょう)()と榮倉よしえだ。この日は白純の十五歳の誕生日。それを祝うため家族で、外食をする予定だった。


 だが、父親の翔真は財布の中身を確認しないで持って来たらしく、これから銀行に行ってお金を下ろしに行くところだ。


 母親のよしえは、顔は怒っているように見えるがどこか楽しげだ。翔真も困っている顔をしているが、どこか嬉しそうな声をしている。


 この時は白純の体質を自覚しておらず、幸せな日々を過ごしていた。そして、こんな時間がずっと続くと思い込んでいた。だが、それは唐突に終わりを迎えた。


 銀行のATMでお金を下ろしているとき、突然白純の視界が真っ黒に染まった。


 ========================================

 視界が暗転したかと思えば次に映ったのは色が一切ない、白黒の世界だった。どこかに移動したわけでもないようで、視界には暗転する前の光景が入っている。


 白純は突然の出来事に理解が追い付かずしばらく動けずにいると、右後方から何かが弾ける音と途轍もない衝撃が白純を襲った。


(……え?)


 気が付けば、白純は床に倒れ伏せていた。慌てて起き上がろうとするも、力が入らず、起き上がれない。なにか、温かいドロリとした液体が身体を伝う感触がしたので自身の体に目を向けると、そこからは血が流れていた。


 なぜ、白純がこの白黒だけの世界でそれを血と認識できたのか。それはその血だけが白黒に染まっておらず、赤く彩られていた。


 そして、白純は気付いた。白純の身体を伝うこの血は自身の身体がから零れていることに。


(なんで血が出ているんだ?)

(何がどうなっているんだ?)

(俺は死ぬのか?)

(母さんと父さんは?)


 頭の中に次から次へと疑問が生まれる。


 そこで白純はふと体を揺らす存在に気が付いた。視線を向けるとそこには焦燥を顔に滲ませた翔真とよしえがいた。そして、その後ろには覆面を被る、黒ずくめの服装をした集団。その手にはなんと、銃が握られている。


 その銃口は父さんと母さんに向けられている。俺はその覆面の集団が何をするのか察した。

 白純は急いでそのことを伝えようとするも口が動かない。視線で問いかけようにも焦点が合わなくなってきた。


 そして、破裂音が聞こえた。一発、二発と。何度も破裂音が響く。


 白純の近くで、何かが倒れた。


 その何かとは……目を見開いたまま倒れている白純の父親の翔真と母親のよしえだった。


(あ……あああ、あああぁ、ぁああああああああああ!!!)



 ――ブツッ

 ========================================


 そこで再び視界が暗転し、視界には白黒の世界ではなく、様々な色で彩られた光景が映っていた。


 先程の白黒世界、普通ではありえない光景なのだが白純はどうしてもあの白黒世界で見た光景に嫌な感じが酷くした。


(このままここにいたら危ない!)

「父さん、母さん! 早くここを出よう!」

「うぉっ、どうした白純。いきなりびっくりするだろ」

「いいから早く!」

「どうしたの? 汗でびっしょりじゃない白純」


 よしえの言葉で白純は体中から汗が噴き出していることに気が付いた。あの光景を見せられてから物凄く体がだるく感じられ、動くのも億劫なくらいだ。寒気すらも感じる。


「そんなことはいいから! 早く出て!」


 騒ぎを聞きつけたのか、周囲にいた人達がなんだと注目し始める。


 それに気づいた翔真とよしえは、騒がせてすみませんと謝罪し、白純にもう少し声を抑えるよう諫める。


「……本当にどうした? お腹の調子でも悪いのか?」

「違うんだ、本当に、ここにいたら、危ないから!」


 白純は二人の背を押し、ここから急いで出ようとする。が、遅かった。


 ――ダァン!! ダァン!!


 破裂音が二度、響いた。それと同時に、白純が押していた二人が急に勢いよく進む。否、白純に押されていた二人が前のめりに倒れたのだ。白純もその二人と共に倒れこむ。


「……え?」


 そんな間抜けた声を出して、床に倒れ伏せていると、ドタドタドタッという激しい足音を立てながら銀行内に入ってきたのは、白純が見た白黒世界の中にもいた、黒ずくめの服装をした覆面の武装集団が銀行に入ってきた。


「動くなお前らぁ! 動くと撃つぞぉ!」


 謎の武装集団は手に持つ銃を白純達に向けながら脅してくる。


 白純は動けずにいた。その目には地に倒れ伏した両親が映りこんでいる。白純はその二人の姿を、ただただ何も言えずに、呆然と眺めることしかできず、気が付けば両手を拘束され、銀行内にいた人達と一纏めにされて、隅に寄せられていた。


 どうやら、謎の武装集団は銀行強盗らしい。現在も銀行員を脅しながらバッグに金を詰め込ませている。


 ふと周囲を見渡していると、ATMの前に血を流したまま動かなくなった両親が視界に入った。


 その姿を見た白純は頭の中が真っ白になった。


 二人の姿から目が離せない。二人を呼ぼうにも、喉が震えて叫ぼうにも声が出せない。胸の奥底から何かが湧きあがってくる。


 隣からヒィッと悲鳴が聞こえた気がする。


 銀行強盗の一人がその悲鳴を聞き取ったのか、こちらに寄って来た。白純はその男を睨みつける。


「おい、どうした……。なんだ、お前。その目は」


 銀行強盗の一人が白純の目を見て顔を顰めた。どうやら、白純の目付きが気に入らないようだ。だが、白純は睨み続けることを止めなかった。


 そして、そんな白純に苛立ったのか、男は白純の胸を掴み、持ち上げた。


「今お前を殺してやってもいいんだぞ? アァ?」


 そう言って、男は白純に拳を振りかぶった。


「うぐっ」


 白純は男に殴り飛ばされ、床に強く叩き付けられる。その衝撃のおかげだろうか。白純の腕を縛っていた縄が緩んだ。男はそれに気づいた様子はなく、そのまま持ち場へと戻っていった。どうやら、白純の体で上手く隠れたようだ。


 白純は遠ざかっていく男の腰元を見やる。そこには他の銀行強盗達も持っている物、拳銃があった。


 白純はそれを目にした瞬間、少しずつほどいていた縄をほどき男へと向かって走る。男は油断しきっていた。人質が下手な動きをするわけがないし、ましてや、縄が解けているとは思いもしなかっただろう。いとも簡単に、白純に拳銃を奪われる。


 白純が男の銃を奪うと、男に銃口を向ける。


「う、動くな!」

「っ、ちっ。てめぇ、今すぐそれを返しやがれ! ……って、お前。あそこで死んでる夫婦の子供か? くっははは! なんだ? 敵討ちでもするのか? やめとけやめとけ。その銃を返せ。そしたら俺が両親のもとに送ってやるよ」


 男は白純が一番最初に殺された夫婦の子供だと気付いたようだ。男はにやにやと顔を面白そうにゆがめながら、こちらへと近寄ってくる。


 呼吸が荒くなる。銃を持つ手が震える。男もそれに気づいたのか、太腿に吊るしてあったナイフを取り出し一気に距離を縮めてきた。白純はそれに驚き、引き金に手をかけた。かけてしまった。


 ――パァン!!


「――ぁ」


 男が走ってきた勢いそのままに、倒れて、白純の足元まで滑ってくる。手に持っていたナイフがカランカランと音を立てて、転がっていく。手に持つ銃からも薬莢が排莢され、薬きょうが跳ねる音がやけに響いた。


 奥からドタドタドタと大人数が走ってくる音が聞こえる。どうやら、銃声を聞きつけたようだ。



 そこからの記憶はなかった。


 気が付けば、ベッドの上で寝かされていた。口元には呼吸器が付けられている。周りを見渡してみると、白一色の清潔そうな部屋だった。どうやら、ここは病院のようだ。白純は覚醒しきっていない頭を必死に働かせ、その結論に至った。


 あれから一体どうなったのだろうか。そんなことを考えていると、ガラガラッという音と共に誰かが入ってきた。


 音のした方に視線をやると、どうやら看護師が入ってきたようだった。看護師はこちらを見て固まっている。どうやら、白純が起きているのを見て驚いているらしい。すると、固まっていた看護師がハッとしたように、急いで誰かを呼びに部屋を出て行ってしまった。


 しばらくすると、白衣を着た医者を連れて、先程の看護師が戻ってきた。


 医者は、白純の体をあちこち触ったり、質問などされて診察していると、再びドアが開く音がした。


 今度は、スーツを着た男性が二人、入ってきた。二人は胸元から手帳らしき物を出すと、それを白純に見せてくる。


 その手帳には警察の象徴する紋章が描かれており、白純にあの事件の事について事情聴取に来たよう警察の方らしい。


 白純は、まだ起きかけの脳を働かせ、あの日起きたことを一から話した。もちろん、あの白黒世界の光景を除いて。あのことを話しても、信じて貰えないに決まっている。そう思っての考えだ。


 話している途中で、あることに気が付いた。白純があの男から銃を奪い、引き金を引いてからの記憶がない。


 刑事にそのことを伝えると、二人は互いに顔を合わせ、困ったように顔をゆがめる。


 二人から話を聞いてみると、銀行強盗達、総勢十四名は十二名が重症、二名が意識不明。全員、白純がしたことらしい。強盗達は全員、警察病院に隔離されているそうだ。幸いにも人質は無傷らしい。


 白純は自分がこれからどうなるかを聞いた。


「君はこれから裁判を受けることになる。もちろん、動けるまで回復してからだが」

「……俺は、どうなるんでしょうか」

「……おそらく、今回のことは正当防衛となるだろう。だが、君が人を殺したことは世に出る。つまり君はこれから生きにくい人生を歩むことになるだろう」

「ちょっと、葛城さん!」


 もう一人の警察官が男の言葉を咎める。


 白純は男の言う通りだと思う。だが、どの道白純にはもう……。


 警察官たちは、また来ると言って今日は帰っていった。



 数日後。


 動けるまで回復した白純は裁判所へと連れて行かれた。そして、警察官の人の予想通り、白純は正当防衛となり、罪には問われなかった。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

誤字、脱字などがあれば報告していただけるとありがたいです。

その他にも何かあればお気軽にコメントください


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