一人を楽しむ。クリスマスオンライン。
クリスマスを楽しむ人がいる。家族と過ごす者や、友人や友達と笑いながら過ごす者、楽しみ方は色々だろう。
そんな俺も何年かぶりのクリスマス休暇を取ることにした。
理由はリアルではなく、オンライン。
“エリスファンタジーオンライン”と言うゲームだ。
いい歳こいて、おっさんまっしぐらの俺はオンラインの中ではギルドマスター【ギルマス】をしている。
うちのギルドは年齢層が幅広い、だからついつい、言い過ぎてしまう。気づけば皆が俺をパパさんと呼んだり旦那や親分と呼ぶ。
悪い気はしないが、大型ギルドになってきたので、親分は禁止したいかも……新人さんが面白がって親分発言を連発するからだ。
話がそれたが、今回はクリスマスイベントの為に休みをワザワザ取った。普段ならば絶対に有り得ない事だ。
今回に限りのギルド戦イベントが、その賞品の中に限定のクリスマスアバターとアイテムがある。正直優勝は無理だろうが、クリスマス・イブのギルド戦参加者全員に贈られる限定の参加賞アバターが狙いだ。しかし、ギルマスが参戦しないとギルド戦に出れないと分かり、休みにしたのだ。
「さぁ、時間だ!」
俺はトイレと水分補充を済まし静かに寝転がると頭にオンライン用の機械を装着する。横についたスタートボタンを指でオンにする。
耳から伝わる幻想世界“ネネリア”の音楽と共にギルド本拠地であるネネリアの地を踏んだ。
俺が選んだネネリアは余り人気の無いエリアだ。モンスターが多いがレベルは低い、従って初心者には厳しく、慣れてきたプレイヤーからしたら、邪魔くさいだけのエリアなのだ。
本拠地を創るにはギルドメンバー150人以上、更に100万ロンドを毎月、運営キャラに渡さねばならない。
その代わりにオンラインの世界に1国を創れるのだから悪くはない。
マップにも他に幾つかのギルドの本拠地が印される。つまりギルド本拠地は、其だけでステータスになるのだ。
ギルドメンバーのみが入れる仕組みだが、一般公開すれば誰でも入れるようになる。その為、俺のギルド【ネネリア】は一般公開設定をしてある。
ギルドキャッスルのみを非公開にしてあるので、必要な時にはギルドキャッスルに集まるのが今の流れになっている。
一般公開をして更に運営キャラに5万ロンドを払うと、本拠地内に薬屋、武器屋といったアイテムショップが出現する。此方は非公開にさえしなければ、1度払ってしまえば、あとはエンドレスだ。
しかも薬屋やアイテムの販売の半分がギルドマスターに渡される。それを俺はネネリアの月支払いロンドにしている。
そして、今このギルドは2800以上の超大型ギルドとなっている。
ギルドの人数は間違いなく“エリスファンタジーオンライン”の一位になっている。
無課金者ばかりなので、火力は一人一人が大したことはない、しかし、レイド戦の条件がギルド人数MAXの際には何処よりも早く駆逐する。
そして、今回のクリスマスイベントはギルド人数MAXのガチイベントなのだ。そして、ギルド戦には特別ステータスがプラスされる。
ギルマス限定だが、ギルド人数×2の全ステータスUPが存在するのだ。
そしてギルド戦開始、数分前。
「まったく、よくもまぁ、こんなに暇人が集まったもんだ?」
ギルドメンバー2200以上の参加、まさかに優勝候補ギルドに恥じない参加人数であり、ギルド戦開始時刻が19時と言う事もあり、敵のギルドを瞬殺した。その時点で一回戦参加アバをGET、二回戦も難なく倒し、二個目の参加アバを手にした。
この時点で参加できなかったギルドメンバーの限定アバも手に入り目的は果たしたのだが、勢いから優勝を狙う事になる。
気づけば決勝戦、しかし、時間が過ぎる毎にギルドメンバーのログアウトが増えていく。
まぁ仕方ないよな、クリスマス・イブだし。
決勝戦開始寸前。
「親分、御待たせ」
「旦那、悪い残業してた【笑】」
「お風呂上がったから参加」
「見に来たって! おおお決勝戦」
…………まさかの人数復活。
「たく、暇人だなぁ。最後に勝ちに行くぞっ! 皆いいなぁ!」
「「「ハイなぁ!」」」
「「「やるやる!」」」
「「「ガッテンだ」」」
「「「ワッショイ!」」」
様々な掛け声がギルド戦用のフィールドに雪崩れ込む。
相手は大型ギルド二位の“ペペロエベレスト”課金者達のギルドで参加人数は920人程だ。
大苦戦の結果、何とか勝利したが、2618人のうち生き残ったのは24名だった。実際に勝てたのが奇跡だ。
「皆お疲れ様。まさかの優勝だな!」
「いやいや、むしろギリギリ過ぎでしょ」
「ギルマスバンザーイ!」
「親分に惚れたわ笑」
「アハハ笑」
俺は一人のクリスマスを最高の気持ちで迎える。明日は参加出来なかった皆にプレゼントを渡さないとな、1日インするしかないか。
「皆、お疲れ様。落ちます」
「お疲れ様でした」
「おやすみなさい」
「またのん!」
ログアウトして、外を見てみれば雪がちらつく、冬景色。
「取り敢えず、コンビニでチキンとケーキでも買ってくるかな。一人でクリスマスなんだし。つまみと酒もいるな」
こんなクリスマス・イブも悪くない。なんてらしくないセリフだが、俺は今を楽しんでいる。