1.創造者の憂鬱
《ヒトは神に成り得るのか――?》
その様なテーマを掲げてスタートした、アメリカ・ドイツ・日本三ヶ国合同の電子世界及び人工知能生命群開発プロジェクト、『創世計画(:ジェネシス)』は発足から約十一年が経とうとしていた。
しかし、莫大な予算を使い始まったこの計画は、十一年を超えても殆どと言っていい程進んでいなかった。
最大の難関。それは、人工知能の開発である。情報空間に『自律思考情報生命体』を生み出す事が、この計画に於いて一番重要である。その『メモリアス』を基に、電子世界で生活する生命群を生み出すからである。
これを作り上げなければ『創世計画』自体が完遂しない事になる。ただ様々な情報を基に電子世界を創り上げてもそれはただのシミュレーション世界に過ぎず、開発者が求めるのは、我々の世界の様に未来が不確定な「よりリアルな世界」なのだ。
計画がスタートしてから十一年。これまでは国連及び各国の投資家、更には国家から、電子世界への『意思』の接続による不死化及び高次元の情報生命体への進化といった可能性から多くの投資があったものの、此処まで計画が膠着状態となると目に見える速さで支援する人々は減っていった。
そしてついに、後一年で何かしらの成果を上げなければ計画は中止せざるを得ないという所まで追い詰められていた。
「どうすればいい……」
計画統括者タダユキ・シンジョウは自室で頭を抱えていた。国連から通達された残り一年の猶予で、どの様にして成果を……『メモリアス』を完成させるかについて。
今まで数万台のスーパーコンピュータを使用し、何度も『メモリアス』の開発に挑戦してきたが、どれも失敗に終わっていた。
一見、それらしく見えた未完成品達だったが、それは所詮複雑なプログラムにより、「ヒトらしく」見える様に出来た、ゲームのノンプレイヤーキャラクターより少し賢いだけのものだった。
彼が、開発者達が求めているのは、ヒトと同じ、自ら考え行動する、プログラムで動かない完全な生命体である。神がかつて自らに似せてヒトを生み出した様に、我々も自分に似せた生命と世界を産み出せば、神に近付けるのだ。
「やはり、私の様な者にそんな所業やってのけるなんて……やはり無謀な話だったか」
テーブルに置かれたタダユキと、彼の妻、そして高校生であろう息子が写る写真を見た。この計画に参加してからまともに家族と喋っていない。ふと、久しぶりに家族に電話してみようと思案する。その時だった。彼のスマートフォンが規則的な音色を奏でる。タダユキはそれを手に取ると画面を確認する。『ジャック・ランクリッジ』と、外国人の名前が表示されていた。彼は、タダユキより若いが、アメリカで名のある開発者だった。
「どうした、ジャック。何かあったのか?」
「タダユキ。実は君には内緒で作っていた装置が出来たんだ。サプライズさ。きっと『メモリアス』開発に役に立つ……いや、もしかしたらこれで『メモリアス』を作り出せるかもしれないぞ」
タダユキは耳を疑った。
これまで難航していた『メモリアス』を作れる?
そんな魔法の様な事があるのか?
「ジャック、その言葉を信用していいのか? 十一年かけて模造品しか作れなかった私達だぞ? そんな簡単に……」
「簡単に、とは言ってないぜタダユキ。理論上は『メモリアス』開発が可能な装置が出来ただけで、それが成功するかはまだ分からない。だが、やってみる価値はあると思うぜ?」
「……そうか。なら今すぐ研究所に向かう。実際にその装置を見てみたいからね」
彼はスマホを肩で耳に抑えつつ、壁に掛けてあった白衣を身に纏うと自室を出ていった。
「ああ、待っているぜタダユキ」
ジャックのその言葉と共に通話は切れる。彼はスマホを白衣のポケットに入れると、代わりにポケットから車のキーを取り出し、駐車場に向かった。