*3*
敗戦処理という後ろ向きな覚悟で、うんざりしつつ優はエクスカリバーの作製を続けた。
ツバキはその様子を呆れ果てた顔で眺めていたが、10分もしない内に興味を失って寝転がってしまった。
およそ一時間後。
先端に巨大な大人のオモチャがねじ込まれた、一本のアルミパイプが完成した。
オモチャの部分も含めて、その長さは1メートルと30センチほどだ。オモチャをパイプに押し込むためには物凄い力が必要だった。今はギッチリとはまり込んでいて、二度と取り外せる自信がない。
そのパイプの中には、単1電池がぴったり、かつ大量に納まっている。工具やら電線やらビニールテープやらを使って、オモチャの電源と接続済みだ。
スイッチも手元に移設してある。電源を入れたら、大電流によって激しく振動する事になるだろう。モーターが耐えられればだか。
突貫で作ったわりに、良くできていた。しかしオークションの詐欺出品者ですら、エクスカリバーと偽ってこれを送りつける勇気は持てないだろう。
悲惨な結果だ。その一言に尽きる。
「・・・ツバキ、これ、使ってみてくれよ」
もうどうとでもなれという気分で、優は隣に転がっているツバキにエクスカリバーを差し出す。
彼女は頭を持ち上げると、しかめっ面をこちらに向けた。
「・・・オメー、まさか自分の性癖を満足させるためにオレをハメたのか?」
「僕に使えって言ってるんじゃないから!試しに振ってみてくれって言ってんの!」
「はあ?なんでオレが」
「こいつの説明文に、装備可能クラスがサムライって書いてあるんだよ。ツバキは剣道やってるし、どのクラスかといえばサムライだと思うんだけど」
「剣道じゃなくて剣術な。・・・わーったよ、どうせ暇だから付き合ってやる」
サムライと言われてまんざらでも無いらしく、ツバキは鼻の頭を掻きながら起き上がり、エクスカリバーを受け取った。
「アホなモンを作りやがったなぁ、おい」
彼女は立ち上がって上段に構えると、二度三度と滑らかに振り下ろす。
恐ろしくシュールな絵だが、素人目にも、ツバキが並々ならぬ研鑽を積んでいることが感じられた。あまりにも自然なため、棒を振っている、ではなく、こういう生物が腕を振っているとでも言いたくなる。
「思ったより普通に振れるな、バランス悪いだろうと思ったけどそーでもねえし、オレが道場で使ってる八角木刀に比べりゃ全然軽い」
「どこの流派なの?」
「こんなもん振ってっときに名乗れるか!!」
だよなあ・・・。
あ、そういえば。
「ツバキ、君の剣技スキルに何か新しい項目が増えてないか?」
「あ?・・・あ~。ちょっと待ってろ」
ツバキは腕を下ろして伏し目がちになった。
真剣な表情をしているときは、三白眼が本来の凛々しい目になる。
いつもこうしてればいいのに。
「なんか技っぽいのが増えてんぞ」
何となく予感していた優は、ウィンドウの説明文を読んでいるであろうツバキの言葉を待った。
その彼の背後で、突然、タコ部屋の扉が乱暴に開かれる音が鳴り響いた。
*
タコ部屋の入り口に立っているアゴは、ほぼ全裸だった。
ピッチリとしたブリーフだけが、日焼けした肉体のなかで白く輝いている。そのチョコレート色の体はローションか油でテラテラにぬめっていた。
二人居る取り巻きは一様に顔に怒りを浮かべていたが、アゴだけは笑みを顔に貼り付けていた。
優の血の気が引いていく。
シナリオでは、聖剣で彼らを打ち据える予定だった。
しかし完成した物は性剣。計画は破綻した。
そこまで考えてから、優は思い出したように棒立ちのツバキからエクスカリバーを奪い、それをカーテンの後ろに押し込んだ。これが見つかったら終わりだ。
「何だよ」
「アゴが来たんだよ、座って!」
エクスカリバーを取り戻そうとするツバキの頭を押さえ込んだ直後、アゴが手を叩いた。
「みんな~傾注ね~」
アゴは凍り付いている少年たちを見渡すと、一呼吸置いてから言葉を続けた。
「驚かないでねぇ、ちょっと前、誰かが僕の部屋に入り込んだみたいなんだよね。携帯を取り返しに来たのかな?ここは圏外だって言ったのにねぇ」
アゴはあからさまに芝居がかった泣き顔を作った。
「一人の過ちはみんなの過ち!僕はね、悲しいけれど、ここにいるみんなを罰さなければならない・・・そこの君、こっちに来なさい」
呼ばれた小太りの少年は、自分の顔を指さして左右を見渡した。周りの者達は全員目を伏せている。
彼は観念すると、青い顔でアゴの元へと歩いた。ここから見ても足が震えている。
「みんな、よく見ておきなさい。これが悪い子の末路です」
その動きは素早く、突然だった。
アゴは逞しい裸体で少年を抱きすくめると、直後、床に押し倒した。そして彼を組み敷いた状態で、ウナギのように激しく体をくねらせ始めた。
湿った音が部屋に響き渡る。
地獄のような時間が30分ほど過ぎた。実際には1分ほども無いだろうが、アゴが立ち上がると、そこには真っ白になった少年が気を失って横たわっていた。
アゴは口元を逞しい腕で拭うと、全身から湯気を立ち昇らせながら満足げに頷いた。
それを見ている者達全員が、総毛立った状態で凍り付いている。
「とまぁ、こんな感じの罰を、全ての男の子に順番に受けてもらいまぁす。女の子はもうちょっとソフトな罰をあとで発表しますね。じゃあ次の子、こっちへおいで」
指名されて腰を抜かした少年が無理矢理立ち上がらさせられた瞬間、それまで呆然としていた優は我に返った。
自分のせいで、無関係な少年が変態の餌食となってしまったじゃないか。
もう一人?全員?!冗談じゃない!!
優は弾かれたように立ち上がった。
「やめろ!!」
アゴは驚きの表情を浮かべ、肩をいからせて歩いてくる優に視線を送った。やがてアゴの前に立った優は、震えながら宣言した。
「部屋に入ったのは僕だ!罰するなら僕だけにしろ!」
アゴは優を見下ろしながら、わざとらしく肩をすくめた。
「どの道、もっともっと凄いことを男の子全員と一緒に味わう予定なの。ここで頑張っても仕方ないわよ」
いつの間にかオネェ言葉になってきているアゴを、優は必死に踏ん張って見上げた。その姿が琴線に触れたのか、アゴの顔はますます上気だち、口許はよだれを垂らさんばかりに乱れはじめた。
彼は興奮を抑えるように、低い声で優に宣言した。
「覚悟なさい」
大蛇が牙から垂らす毒液のように、アゴの全身から粘液が滴っている。
その小さな瞳は純真で美しく、耳まで届かんばかりの巨大な口は、あまりにも淫らで邪悪だった。
最初の犠牲者の時と違って、アゴはゆっくりとこの状況を楽しむつもりらしい。優の顔に、荒く熱い息がかかる。今更沸いてきた恐怖のせいで、優は頭から魂が引っこ抜かれそうな感覚を覚えていた。
丸太のような腕が、彼の両脇を優しく通りすぎていく。
その時だった。アゴの側頭部を、ピンク色の何かが直撃した。