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>コマンド?  作者: オムライス
第九話
87/120

*2*



布団の中で震えるばかりだった廻は、ぐったりとしたナミの顔をナギの肩越しに見て我に返った。彼女は布団から這い出ると、二人を抱き寄せて肩を震わせはじめた。


そんな三人が全く目に入っていないような冷淡さで、スミレは横たわっている侵入者を検分していた。彼らのベストやポーチからは、何度もこの家を吹き飛ばせる量の手榴弾が出てくる。なのに、そうしていない。


スミレは抜き取った短銃を弄びながら考える。

こいつら何が目的だ。


彼らの動きを察知した時から疑問だった。

暗殺や制圧が目的ではなさそうだ。

状況から考えて、やはり拉致が狙いと考えるしかない。


驚いたことに、米軍は虎の子の魔術師まで動員していた。相当に重要な標的ということだ。子供三人相手に大層な人数を投入している事でもそれが分かる。


階下では銃声が響き始めていたが、スミレは意にも介さない。

彼女はお互いに抱き合って泣く子供達へと怪訝な視線を向けながら、首を傾げていた。


・・・重要?この子供たちが?申し訳ないが、それは無い。


カエデが強硬に主張しなければ、優の家族であることを考えに入れても見殺しにしていた。

ここにカエデを転送させるということは、貴重な処理能力を大量消費するという事であり、指揮官が現場を放棄するという事でもある。それはこの世界の未来をかけた戦いを投げ出す事に等しい。

そんな価値のある者達など、どこにも居るはずがない。


スミレは剥ぎ取った銃器や手榴弾を運び、部屋の隅にドサドサと置く。


この子たちは重要ではない。なのに誘拐されそうになった。

なら、この子たちを重要だと考える者こそ、彼らの標的ということだ。


そいつはこの戦局を変える者なのかもしれない。


不意に考えが浮かんだ彼女は、慌ててジャージの袖をまくり、その下にあった腕時計を覗き込んだ。





階段を降りて廊下を歩き始めるなり、鉛の雨がカエデに向かって降り注ぎ始めた。

玄関では、数人の男が半身を乗り出して銃を乱射している。


足も止めずに、カエデは木刀を振り下ろした。

直後、大量に注ぐ紫色の稲妻によって男達は玄関ごと吹き飛ばされる。


煙の中を、カエデは悠々と出ていく。

その顔は一見おだやかだったが、漂ってくる怒気は遠巻きに近づくことすら遠慮したい程だ。その圧力に押されている訳でもないだろうが、庭で遮蔽物に隠れている兵士達は撃つのをやめていた。


しばらくののち、門柱の影から中背の男が一人立ち上がった。彼は自然体で棒立ちしているカエデの前へと歩くと、五メートル程を残して立ち止まった。そこでライフルを投げるように置いてヘルメットを脱ぎ、目貫き帽を頭から抜き取る。月明りに照らし出された顔は、典型的な中年の白人男性だ。短く刈り込んだ金髪に、精悍な顔つき。目は緑か青か・・・この暗さでよく分からない。


「もっと近くに寄りなさいな。話しづらいでしょう」


カエデの言葉に、彼は流暢な日本語で答える。


「遠慮させてもらう。悩ましい姿の美女を前に、理性を保てる自信が持てない」


その戯言をカエデは鼻で笑った。


「こんな老婆に欲情するの?で、今日のあなたはジョニー・ブラウンなのかしら。それともエルトン・グレイ?イーサン・シルバーバーグ?あとはええっと、そう、フレドリック・グリーンだっけ?」


どうでもいいという様子で、男は肩をすくめた。


「今回は我々の敗けだ。戦闘を覚悟してはいたが、まさか最大戦力を送ってくるとは思わなかった。ご存知の通りこの体は僕のものじゃないから、哀れに思ったなら殺さないで頂きたい」

「夜中に押しかけてきて、子供を容赦なく撃った挙げ句に殺さないでとはね。あなた達には教育が必要だわ」


そうは言いながらも、カエデは強いて自らの怒りを鎮めていた。先ほどの雷や銃声で、近所の窓に次々と明かりが灯り始めている。警察や消防が来るのも時間の問題だ。


「・・・でも、ま、やめておく。あなたたちを皆殺しにしても、何の得もないものね。・・・それで、何でまた米軍の精鋭が一般のご家庭に押し込み強盗の真似事をしたのかしら。理由が分からないんだけど」


その言葉に、男はあきれたような笑い声を上げた。


「白々しいな。我々がここにいる理由を本当に知らないなら、貴女の行動こそ説明がつかない。重要な戦いを途中で放棄し、他ならぬ貴女自らがここに足を運んでいるんだ。よもや、気まぐれで来たとでも言うつもりか?」


カエデは眉間を寄せた。


「・・・私はここに、友人を救いに来ただけですよ」


その表情には、一切の濁りがない。しばらく彼女を凝視したあと、男は破顔した。


「はは!滅茶苦茶だな」


彼はひとしきり笑うと、目尻を拭いながら言葉をつづけた。


「我々が懸命に考え抜いて行動しても、何も考えていない貴女が何度もそれを出し抜いてくる。自分達が道化に思えてくるよ。・・・まあいい、長い付き合いもこれが最後だ。見逃してくれるお礼に、一つだけ良いことを教えて退散するとしよう」


彼は自分のライフルや目抜き帽を拾い上げながら、楽しそうな表情で言う。


「間もなく貴女に朗報があるだろう。楽しみにしておくといい。では、貴女の気が変わらない内に失礼する」


そう言って彼が踵を返した頃には、他の気配は消えていた。二階や庭に転がる負傷者を回収せずに撤収したらしい。


あきれた薄情者どもだ。救助を許さないほど冷酷なつもりはないんだが。どうせ救急車が来るだろうし、そちらに任せておけばよかろう。


「・・・それ以上面倒を見る義理もなし」


脅威がなくなったことを確認したカエデは、男の言葉を反芻しつつ玄関に戻り始めた。

朗報?何を言っているんだ。こちらの敗北が決定的な今、どんな良い知らせも朗報になどなり得ない。あと四日でこの宇宙は終わりを迎えるのだから。


思考に没頭しながら引き戸を開けようとした彼女は、そこに何も無いことに気づいて我に返った。


これを玄関と呼んでいいのだろうか。

ダンプに突っ込まれてもこうはならないだろう。引き戸は当然のように四散して燃え尽き、散らばったガラスは溶けて飴細工のようになっている。柱も壁も、裂けたり燃えたりと悲惨な有様だ。せっかく直して返した自転車も、また壊れてしまっている。


人様のお家だというのに、勢いでやりすぎた。


優君と廻さんは、許してくれるだろうか。

カエデは更に増えた問題に心を重くしながら、瓦礫の中に足を踏み入れていった。





屋内に入るや否や、スミレが階段の上から叫んできた。


「姉貴、優君が帰ってくるぞ!」


階段を昇りながら、カエデは怪訝な表情を浮かべる。


「何を言ってるんです?」

「そうじゃないと奴らがここを襲う理由がないだろ!」


二階の廊下ですぐ隣に立ったスミレが、カエデに腕時計の盤面を突き付ける。

安物のデジタル時計のような盤面だが、表示が普通の時計とは違っている。



------------

888:88

------------



「見ろ!!」


暗い屋内が明るくなるような笑顔で、スミレが叫ぶ。

カエデはその数字を見て顔をしかめる。


「・・・壊れたのでは?」

「この端末が?あり得ないね。アタシが保証する」


その保証が信じられないから疑っているんですよ・・・。


カウントダウンが突如260以上進行し、005:13になったのが一昨日。

今朝確認したときは、数値は004:21、つまり四日と21時間という表示だったはずだ。


「・・・しかし、仮にこの数字通り破局が先伸ばしになったとして、優君とは無関係だと思いますが。彼にそんな力があるとは思えません」

「じゃあなんで奴らはこの家を襲ったんだよ!タイミングが良すぎるだろ!」


スミレの反論を聞き流しながら、呆然と何もない空間を見つめ続ける。


優君が帰ってくる。そんな幸せな出来事があるとは思えない。彼は無限の迷路に迷い込んでしまったのだから。


無駄な希望を抱かせる事だけはやめて欲しかった。

だがその希望はあまりに甘美で、捕らえられずにはいられない。彼をこの世から失わせた罪悪感は、既に重すぎて耐えかねている。


「・・・スミレ、一度帰りましょう。廻さんたちも連れて」

「分かった!」

「あと」


取り出したスマホに何か入力していたスミレは、手を止めて顔を上げた。

カエデは未だぼうっとしたままで言う。


「関西弁が消えていますよ」


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