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>コマンド?  作者: オムライス
第八話
73/120

*4*




優が見つめ続ける中、ロボットは広げた腕を交互に振り始めた。


「とうさーーーん」


その言葉を聞くや、優は弾かれたように立ち上がった。彼は驚くルダの制止を振り払ってガラクタの壁を乗り越えはじめた。その様子に気づいたのか、ロボットも手を振るのを止めてこちらに歩いてくる。


駆け寄った優が見たものは、これまで散々に戦ってきたロボットのうちの、何てことはない一体だ。ただ塗装は鮮やかで、ボディに傷は見当たらない。まるで新品だ。


「父さん、ひどいありさまだね」


荒い息をつく優をしげしげと見ながら、からかうような調子でロボットが言う。

一方の優は、ロボットを前にして両腕を中途半端に差し伸べたまま固まっていた。


「・・・ああ、このカッコじゃ、調子狂うよね」


そう言った直後、ロボットの背後からひょっこりと女の子が姿を現した。

彼女は夢の中と打って変わって、12歳くらいに成長していた。白いセーターとホットパンツという姿で、チェック模様のタイツを穿いている。

優はその姿を見たとたん、反射的に抱きつきそうになった。その姿はかげりにあまりにも似ていた。

細かな違いはある。眠そうな目は受け継がなかったらしく、茶色の目はしっかりと開かれている。その瞳を覗き込みながら、優は裏返った声を上げた。


「・・・夕陽?」

「そうだよ」


腰に手を置いて困った奴だと言いたげな顔をした夕陽は、背後から駆け寄るルダが視界に入ったとたんに表情を硬くした。ルダはそれが見えていないかのように問いかける。


「優!」


振り返った先に立つルダは武器を構え、銃口をぴったりと夕陽と名乗るロボットに向けていた。


「やめてくれルダ!!この子は僕の娘だ」

「・・・何?」

「すまん、上手く言えない・・・でも、この子は僕の娘なんだ。武器を下ろしてくれ」


優の懇願を聞き入れたルダは武器を下ろした。だが、困惑は増すばかりのようだ。


「理解できない。分かるように説明してくれ。娘?この子?」


優は再び夕陽のほうへと視線を返した。やはりそこには12歳くらいの少女が立っている。彼女はため息混じりに言う。


「そいつには、あたしの姿は見えないと思うよ」


そして胸いっぱいに息を吸い込み、それを一気にルダへと叩き付けた。


「おいルダ公!!このクソったれ!!」


突然の大声に、優は身を硬くした。声はロボットからも発せられているらしく、ルダにも同様に固まっている。


「お人よしの父さんは許しても、あたしは絶対にあんたを許さないから!!これが済んだらキッチリ落とし前つけてやる!!残りの時間は短いけど、楽に死にたきゃ心証が良くなる様にせいぜい努力なさい!」


怒った時の口の悪さがそっくりだ。優は目を三角にした翳の姿を夕陽に重ねていた。

困惑や疑念など軽く流し去る、濁流のような愛情が押し寄せてくる。彼はひざまずくと、夕陽の体を力いっぱい抱き寄せた。


温かく、やわらかい。


優は夕陽の腹に顔を埋めて、堰を切ったように泣き出した。

夕陽はあっけにとられていたが、やがて呆れ顔と笑顔がまじった表情で優の両肩を叩いた。


「父さん、悪いけど泣いてる暇なんて無いよ!もうあと5時間くらいしか残ってない。急がなきゃ」


驚きのあまり涙が引っ込む。優は鼻水だらけの顔で夕陽を見上げた。


「・・・どういうこと?」

「この一帯は、あと5時間くらいで消滅するの。だから急がないと」

「夕陽、なんとかそれ、止められない?」


ぐしゃぐしゃな優の顔を間近に見下ろしながら、彼女は肩をすくめる。


「そんなこと出来るわけないじゃん。できればやってるよぉ」

「だよな・・・」

「さ、いくよ」


夕陽はルダの背後に視線を走らせて呼びかけた。


「トラちゃん、ここでアゴさんを守っててね。すぐ戻るから」


優が同じ方に目を向けると、そこにはいつのまにかトラの姿があった。

トラは薄闇の中ではっきりと一声鳴いた。まるで返事しているかのようだ。夕陽は満足げにうなずくと、再び優の両肩を勢い良く叩いた。


「母さんの所に帰ろう、父さん。みんな連れて。アゴさん、トラちゃん、ククナさんたち、そして、翔さん。みんな一緒に」





かつて敵だったロボットを先頭に、優とルダは武器を抱えられるだけ抱えて塔を駆け登っていた。

隣を走りながらルダが問いかける。


「優、先ほどの君の仕草は一体なんだ?そこに誰かいるかのようだったが」


やはり、ルダにはもう一人の夕陽は見えていないようだ。かなり奇異な姿に映ったに違いない。


「生身の夕陽が僕には見えるんだよ。今もすぐそこを走ってる」

「理解不能もいいところだ・・・優、可能な範囲でもっと説明できないか。その子は何者だ」


優は困り顔でそれに答える。


「だから分からんのだってば。ただ、僕と翳ちゃんの子だっていうことは強く感じる」


ルダは考えているらしい。黙り込んでしまった。

その間も、二人と一体は何の抵抗も受けずに各階を踏破していく。


ルダが再び口を開いたのは、二十九階に差し掛かったところだった。


「・・・推測だが、君の精神構造との融合が、敵の無機的な精神構造に血肉を与えたのかもしれない」

「それじゃあんな可愛い子が生まれるわけ無い。僕だけから生まれたなら、もっと不細工で憎らしいガキじゃないとおかしいからな。むしろ母親の血しか入ってないだろ」

「可愛い、か。私には天敵のようだが・・・それで母親は、君が以前話してくれた大切な女性、翳さんなのだろう?」


優は自分の事を何回かに分けてルダに話して聞かせていた。気恥ずかしかったが、相手の事をあれだけ聞けば自分も話さない訳にはいかなかった。


「そうとしか思えない。夕陽は僕の記憶の中から翳ちゃんを見つけたんだろうな」


ルダは首を横に振った。


「それでは真の意味での誕生にはならない。単なる模倣になってしまう。その子は君の中の翳さんを母親とし、君を父親として情報を受け継いだのだろう。恐らく」


優は怪訝な顔をする。


「はあ?だからそう言ってるだろ」

「いや、違うんだ。記憶からではない。翳さんそのものが、君の中に存在しているのだ。極論すれば、君たちの人格は無数のそれらの連なりとも言える」


こいつの話は毎度本当に分かりづらい。イライラした優がお決まりの台詞を言おうとしたその時、前を走る夕陽とロボットが全く同じ動きで立ち止まった。



その前方には、これまで無数の命を積み上げながらも届かなかった場所・・・三十階へとつづく階段があった。

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