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>コマンド?  作者: オムライス
第七話
64/120

*11*




「私の故郷の宇宙を、グランカと呼ぶことにしよう。私のオリジナルがかつて住んでいた領域の名前だ」


ルダそう宣言して一行を見回したあと、静かに語り始めた。


「グランカは君達が想像できないほど熱い宇宙だ。あまりに温度が高く、グランカのあらゆる物質は粒子の雲になっている。君達が見たら、光輝くモヤに満たされた宇宙に見えるだろう。私達はその中で生まれた生命体だ」


ルダは優が理解していることを確認するかのように一旦言葉を切り、再び話す。


「だがある時、長らく続いた平和が終わろうとしている事に私達は気付いた。グランカが説明のつかない速度で冷え始めたからだ。温度が下がればモヤは晴れてしまい、私達は存在できなくなる。状況は切迫していた。私達は全てのリソースを集中し、別のグランカに自分達のコピーを作る方法を編み出した。最初の私達は滅びたが、その記憶は遺すことができた」


優は彼らの採った方法に驚いていた。

コピーだけ?

そんなんでいいのか?!


「こうして私達は次のグランカで新たな歴史を創り始めた。新しいグランカは前と全く同じ物理を持っていたので、私達は長らく平穏を享受した。だが、それも永遠には続かなかった。グランカがまたも急激に冷え始めたのだ。既に私達は前のグランカが冷えた原因を模索していたから、仮説も幾つか提示されていた。その中で私のお気に入りはこれだ」


ルダの姿は笑っているように見えた。


「グランカは、より上位の知性が創ったエネルギーの貯蔵庫だ、という説だ。つまり、私達は電池の中で生まれた生命体という事だな」


「もっとマシな仮説もあったが、今考えれば、どうしてもそれが正解に思えてくる。グランカと同じ宇宙は無数に見つかった。私達は自分達をコピーする作業を自動化した。今頃、私達の数は途方もない数になっている事だろう」


優は、ルダの種族が感じた恐怖が痛いほど分かった。そしてそんな恐怖が必ず来ることを知りながら、自分達のコピーを作り続ける彼らに尊敬のようなものを覚えた。


だからこそだ。


泣いている翳の顔が脳裏を何度もよぎる。胸が破裂しそうなほど気持ちが昂り、目頭が熱くなってくる。優は激情をなんとか押さえ付けると、努力して低くした声を押し出した。


「ルダ、そんな苦しみを知りながら、どうして僕達に同じ事ができるんだよ。お前たちは僕らを、翳ちゃんを苦しめて何がしたいんだ」


優は文字通り無機質なルダの顔から表情を汲み取るコツを掴み始めていた。今は悲しんでいるようだ。


「宮ヶ瀬優、それは先程も話したはずだ。私が謝罪し、償いとして解体されて済むのであれば、不誠実であってもそうしよう。たがその前に君の二番目の質問の答え、君達が何の目的で作られたのかは聞いておきたいのではないか?」


そうだ。その為にここまで来てしまったのだ。秋葉原でカエデ達に話を聞かされてから、こんな所まで。ずいぶんと長い旅をしてきた。その目的の一つを、ここで果たせるかもしれない。


「・・・聞かせてくれ」


ルダは頷いた。


「私達は、一連の災厄の原因はグランカの外側にあると結論付けた。つまりは、グランカが冷えるのは抗えない運命だということだ。そこで私達は、冷えたグランカでどのようにしたら生き延びることが出来るかを模索することにした」


「宮ヶ瀬優、君の宇宙はその冷えたグランカの物理モデルを生み出すための実験場だ。そのために、君の宇宙はこのゴミ箱の宇宙と同様に、物理による裏付けが無い状態で動いている。まるでゲームのように、論理ではなくルールで動いているのだ」


アゴが疑念を挟んだ。


「物理なら高校でも習うわよ。分野だって数え上げれば切りがないわ。私達の宇宙はちゃんと物理によって動いてるわよ」


ルダは首を振った。


「いいや、君達の宇宙は物理では動いていない。君達の宇宙は、何らかの知性が観測行為(・・・・)をしなければ、私の故郷のグランカのように単なる混沌のモヤに過ぎない。知性ある者が観測することでモヤが宇宙の構造を持ちはじめる。そして構造を作ることが出来た知性は、その構造を論理付ける事が可能なのだ。そうでなければ構造は発生しない。これは君達の宇宙の根本的なルールだ。それを積み上げていって全ての宇宙の構造が完成した時、つまり君の宇宙が物理によって動き始めた時に、宇宙を記述する論理もまた完成し、私達は冷えたグランカの物理モデルを得る」


アゴはその言葉に何かを掴んだようだった。

一方、優はさっぱり話についていけないでいた。

彼は焦りを滲ませながら率直に言った。


「すまない、よく理解できない」


アゴがルダに代わって口を開いた。


「優ちゃん、私は何となく分かってきたわ。ルダたちは、熱くなくても自分達が生きていけるような宇宙が知りたいのよ」


そこまでは分かる。優はうなずいた。


「でも、そんな宇宙がどんなものなのか彼らにも分からない。だから私達を使ってそれを探り始めたのよ。私達の宇宙は星を除いてとても冷たいわよね。つまり、ルダ達が考える冷たいけれど知性が存在できる宇宙なの」


優は怪訝な顔をした。話がおかしい。


「なら、ルダ達はどんな宇宙を作ればいいか正解が分かってるってことじゃないですか。もう僕らの宇宙を創ったのに、作り方を知らないなんて変でしょ」


アゴは首を振った。


「ルダ達は作り方を知らないの。だからまず冷たい生き物を設計して、その生き物が自分達の生きていける宇宙を自分達で作るようにしたのよ。自分の家を自分自身で設計して建築するロボットみたいに」


ルダはその言葉を肯定した。


「その通りだ。そして、その試みは今のところ一度も成功していない。だから宇宙はまだ続いている」


見上げたルダの顔には、何の表情も浮かんでいないように見えた。


「終わった実験の為にリソースは消費しない」


彼は淡々と、宇宙の破滅を口にした。



「一つでも理想的な物理モデルの完成があれば、実験は一つ残らず終了される。即座に全ての宇宙が消滅するはずだ」


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