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>コマンド?  作者: オムライス
第一話
1/120

*1*




宮ヶ瀬 優。高校一年生。身長158cm。体重78kg。男。

入学三ヶ月目から引き篭もり、はや半年。


目を覚ますと、目の前にRPGのメニューウィンドウが浮かんでいた。


今はベッドに身を起こし、頭を抱えている。

外では、のどかに鳩が鳴いていた。


引き篭もっていると、頭がだんだんおかしくなってくる奴が居るという。自分は平気だと思っていたが、まさか半年も耐えられないとは。


メニューウィンドウは何も無い空間に浮かんでいる。近くにあるように見えるんだが、手を伸ばしても触れることはできない。


白い枠の中にひらがなでコマンドが並んだそれは、国民的RPGのアレと全く同じデザインだ。ドットが見えるところまで律儀に。


並んでいるコマンドの隣には三角形のカーソルがあり、優が念じるとそのとおりに動く。自分の妄想なのだから、思い通りに動いても感動はない。むしろ滑稽である。



コマンドは、


・はなす

・つよさ 

・さくせい


この3つだった。

カーソルで、「はなす」を選んでみる。メッセージが表示された。


----------------------

「このせかいは あと 340 にちご に リセット されます。 それまで ごじゆうに おつかいください」

----------------------


一文字ずつ順に書かれる表示方法も、効果音も、例のアレと全く同じだ。しかし世界がリセットされる願望とは。そんな破滅的な事を望んだ記憶は一つもない。


優は不快な疑念を脇に置いて、次のコマンドも試してみる。


----------------------

つよさ


 ・ちから   3

 ・かしこさ  4

 ・すばやさ  3

 ・たいりょく 4

 ・こううん  1

 ・みりょく  1

----------------------


スライムでもこんなに酷くねえぞ!!


草食動物のようにおとなしい優も、これにはさすがに立腹した。


これは、僕の能力を表してるんだよな?

この数値から推測するに、おそらくMAX値は10か9。それでも1はどう考えても最低値なんだろうから、僕の魅力はこの世で最低ということになってしまう。


誰が何と言おうと、それは無い。絶対に無い。


優は自分の妄想に怒り覚めやらぬまま、その勢いで次のコマンドを実行する。


----------------------

さくせい


----------------------


このコマンドに至っては、ついに空欄である。



やはり自分の妄想にふさわしく、どれもクソ役に立たない。それどころか心を傷つけてくる。


まあこの程度の嫌がらせには慣れたもんだが、それ以上にキツい事がある。目を閉じてもこのウィンドウは消えないのだ。さすがに何とかしたい。


優はベッドから降りると、きしむPCデスクの椅子に腰を下ろし、マシンを立ち上げる。そして馴れた手つきでブックマークを開き、知恵の袋というサイトを選択する。


このサイトは、匿名の素人に様々な相談をするという、あまりにも無謀なサイトである。優はなにかと、このサイトに頼って生きてきた。



・[至急]目の前にずっとRPGのメニューがうかんでいるんだけど、消し方を教えて



この質問をゲーム板、ヘルス板、オカルト板、哲学板、軍事板などに片っ端から投稿した。お礼コインも用意したので間違いなく答えがもらえるはずだ。


待っている時間は長かった。

一時間は待っただろうか。

実際には15分程度なのだが、優は我慢しきれず、PCに再び張り付いた。


・荒らしは○ね

・マルチ投稿すんな○○が

・病院に行くことをお勧めします


以上のような回答が来ていた。

優は無表情で最後の回答にお礼コインを渡すと、PCをそっとシャットダウンした。



たったこれだけの事で疲れ果てた優は、そのままベッドに潜り込むと目を閉じてしまった。暗闇に浮かんでいるメニューウィンドウが本当にうざったい。





夜、空腹で目が覚めた。


優は目を擦りながら部屋を出ると、階下のリビングに向かう。

テーブルにはラップされた皿があり、そこにノリが巻かれた握り飯とサラダ、鳥のから揚げが盛られていた。


妹のめぐるが毎日作ってくれている晩御飯だ。


廻は一つ下の14歳。高校受験を控えて大変な時期なのだが、仕事に忙殺されている母に代わって家事を一手に引き受けている。


優は皿ごと晩御飯を部屋に運ぶと、PCデスクに座ってマシンを立ち上げた。相変わらず視界の端に映っているメニューウィンドウに、イラつきが止まらない。


冷え切った握り飯にかぶりつきながらブラウザを開き、いつものサイトを巡回する。何個目かのサイトを見つつ冷やかしのコメントを投稿していたとき、優はふと「知恵の袋」を思い出した。さっそく移動してみる。


どの板に投げた質問も変化は無かったが、珍しいことに、回答リクエストが一つ来ていた。


回答リクエストとは、特定のユーザーに自分の質問の回答をお願いする機能だ。人気のある回答者には、こうやってリクエストが多数来ていることだろう。


数えるほどだが、優もリクエストされたことがある。

「○んでくれないか?」とか「おまえを○す方法」とか、そんな物騒な質問ばかりだったが。


今回もそんな嫌がらせ質問なのだろうが、煽りも楽しめねば上級者とは言えない。優はリクエスト一覧のページを開く。

そこにはこんな質問のタイトルが表示されていた。



「340日後のリセットについて、直接お会いして相談したいです」


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