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元空手マンの異世界転生録  作者: 間宮緋色
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仲間を求めて

「ユーリさん!」

 俺が仰け反ったのを見て事態を把握したセラが声をあげる。そして、俺はというと、後ろに仰け反った俺の額の直ぐ傍にある鏃を見つめていた。

 もしこの身体が生身だったら冷や汗が噴出して止まらなかっただろう。完全な不意打ちだった。宝箱が開いたら、その底から地面を伝い壁の中にある仕掛けが連動して作動する罠であり、俺の身体が超スペックでなければ間違いなく命中していた。

 俺が反応して右腕でその矢を掴めたのは本当に奇跡だ。こわっ。このダンジョン殺意高すぎでは? それとも、これぐらいはこの世界では普通なのだろうか。

 まあ、俺の身体はアストラルで出来てるから、身体が損傷しても直せるし、そう簡単に死なないはずなんだけど、それを試す勇気は俺には無い。というか本当に運が良かった。部屋自体に罠が仕掛けてあるという事は、それにセラが巻き込まれていてもおかしくはなかったのだから。

 俺は改めて調子に乗っていた自分を戒めつつ、とりあえず、掴んでいた矢を放し、一息ついてからセラへと大丈夫アピールをして言った。

「一旦帰ろう」

 セラは俺の言葉にコクコクと頷いたのだった。


 その後、短剣をゲットした俺たちは直ぐに見つかった帰還の魔方陣へと飛び乗り地上に帰ってきた。恐らく十分ぐらいしか探索してないため、出てきた俺たちを見る他の連中はやっぱりかーみたいな顔で見てくるが、それも致し方ない。

 そんな若干哀れみの目線を向けられながら俺たちは、半日かけてリオネルへと戻ってきて、時間も時間だったのでとりあえず飯食って寝た。

 そして、翌日。俺たちはたいして懐かしくもない冒険者ギルドのリオネル支部へと顔を出したのだった。

 相変わらずギルド内には結構な人がいて、相変わらずここでも視線を受けるが、もうそろそろ慣れてきた。今はそんなことよりも仲間である。

 というわけで、いつも笑顔の変わらない受付のお姉さんと俺たちは再び出会ったのだった。

「何か御用ですか?」

「はい。えっと、パーティメンバーの募集とかってあります?」

「それは募集するほうですか? されるほうですか?」

「するほうで」

「はい。でしたら、こちらが今パーティを募集している冒険者の名簿になります」

 そう言って、お姉さんは帳簿を見せてくれる。いいのか、こんな簡単に個人情報晒して。まあ、こっちにはオレオレ詐欺とかなさそうだしな。

「どんな人材がいいとか希望はありますか?」

「スカウトとかシーフとかそういう類のスキルを持ってる人で」

「それではこちらになります」

 と、まるで最初から解っていたかのように用意される台帳。っていうかひょっとしなくても解っていたのでは?

 このお姉さんやっぱりただものじゃない気がする。

「ちなみにお姉さんは駄目ですか?」

 だから、俺は冗談でお姉さんにそう言い、それを聞いたお姉さんはちょっとだけ驚いた顔をした。笑顔以外を始めてみた気がする。だが、すぐにいつもの笑顔に戻ってお姉さんは言った。

「面白い事を言いますね。ですが、私は受付ですので」

「ですよねー」

 予想通りの答えだ。だがまあ、貴重な表情を見れたのでよしとしよう。こういうの、イベントCGっていうんだっけか。クラスメイトだった木村が喜びそうだ。閑話休題。

 名簿には名前と特技、そして髪色が記されていた。だが、言い換えればそれだけだ。これだけの情報では判断が難しい。エントリーシートを受け取った人事の人ってこんな感じなんだろうか。いや、動機が書いてあるだけあっちのほうがマシかも。

 俺がそんな事を思いながら名簿と睨めっこしていると、誰かが近づいてくる気配がした。新しく受付に用がある人かと思い、名簿を持ったまま横にずれる。だが、その気配の主は受付ではなく俺の背後で止まり、そして声をかけてきた。

「よう、お困りかい?」

 聞き覚えのあるその声に振り向くとそこにいたのは、俺たちに絡んできたCランクのおっさんだった。ちょっとだけ警戒するが特に敵意はなさそうだ。怖かったのか、セラは一応俺の後ろへと避難した。

「あんたは、えっと……あの時のおっさん!」

 そういや名前知らないわ。

「イゴールだ」

「ユーリだ」

 名乗られたので名乗り返す。苗字を名乗らないのはこの世界では苗字が無い奴や捨てた奴も多いらしいからである。セラもそうだったしな。

 イゴールは一度受付のお姉さんのほうを向き、

「カガリ。こいつは俺が面倒見るぜ。それでいいだろ?」

 と声をかけた。お姉さんの名前はカガリって言うのか。覚えておこう。

「ユーリさんがよければ構いませんよ」

「俺は別にいいけど」

 敵意も悪意も感じないし、受付に溜まり続けるのもアレだしな。というわけで俺たちは名簿だけ借りて用意されているテーブルへと腰を落ち着けた。

 改めて対峙してみて思ったが、イゴールのおっさんガタイよすぎだろ。腕とか俺より二周り以上太い気がする。この世界では腕力=強さじゃないけど、それでも鍛えた筋肉は嘘をつかないのだ。元空手マンの俺が言うので間違いは無い。

 ゲームでよくあるようにこの世界のギルドの建物は飲食店も兼任しているので、とりあえず俺たちは飲み物だけを頼んだ。イゴールはエール、俺とセラは果実水だ。未成年だしね! しかし、朝っぱらから酒とかいいご身分だなおっさん。

「んで」

「ん?」

 イゴールは運ばれてきたエールを一口飲んだ後、ずばり切り出してきた。

「お前ら、仲間を探してるんだろ。それもスカウト系だな?」

「まあな。名簿で解ったのか?」

「いや、カガリと話してたのさ。お前さんが強いのは解る。俺だってこれでもCランクの冒険者だからな。それをあっさりと倒したんだ。戦闘力はばっちりだろ。それでもここに戻ってくるなら戦闘以外って事になる。そんでそっちのお嬢ちゃんは防御と回復が使える。なら後は消去法だな」

 なるほど。意外と頭はいいようだ。まあ、セラは現状防御能力は無いし、回復もそこまでの能力は無いけどな。それは言う必要が無いから言わないけど。

「ついでにネタ晴らしすると、俺はもともとギルドよりの冒険者なのさ。こないだ絡んだのも冷やかしやガキをふるいにかける立派な試験だったって訳だ。だから今のこれも俺にとっちゃお仕事なのさ」

「なるほどな。それで朝から酒が飲めるってわけか」

「そういうことよ。今日は一日こんな感じで過ごす予定なんでな。流石に酔いつぶれるのはまずいが一杯程度ならなんともねぇよ」

 そう言って、豪快に笑うイゴール。更に話を聞くと、どうも昨日の他の男たちはつい最近冒険者になったばかりで、イゴールはその引率をしていたようだ。

 さて、そんな雑談を交えつつ俺たちはいよいよ本題へと入る事にした。

「で、お前らの仲間候補の話だが」

「ああ」

「一人おあつらえ向きの奴がいるぜ。戦闘能力も高いしスカウト能力も高い」

「マジか。ってか何でそんな奴が売れ残ってるんだよ」

「まあ、そこは気づくよな。理由は三つある。一つはそいつもお前らと同じ混色系だって事。そして、もう一つは飛び切りの変人だってことだ」

「おい」

「怒るなよ。俺は真面目に推してるんだ。実際有用な奴だよ。変人だが」

「おい。あんた、不良在庫を押し付けようとしてないか?」

「ま、正直、それもあるけどな。まあ、最後の理由はな。そいつも女なんだよ。そっちのお嬢ちゃんもその方がやりやすいだろ?」

「まあ、それは……」

 話を振られたセラがこっちをチラチラと見ながら頷く。言われてみればその事をまったく考慮してなかったな。なるほど。能力が高くて女の子で未だにソロって条件は確かに他にいないかもな。

 俺は謝罪の意味をこめてセラの頭を撫でながら、まあ、とりあえずお試しといったノリでイゴールへに聞いた。

「解った。まずは一回会ってみるよ。そいつの名前は?」

「前向きな意見は助かるねぇ」

 イゴールはそう言ってそいつの名前や住んでる場所などを教えてくれたのだった。

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