ダンジョンへ行こう
手っ取り早く立場と職を手に入れた俺はホクホク気分だった。しかも、本来ならFからスタートの冒険者ランクもCからスタート。絡んできたおっさんには感謝しかない。
っていうかおっさんの口約束だけで本当に試験が免除されるとは思わなかった。あのおっさんひょっとして偉い人だったのか? まあいいか。
というわけで時間も時間なので俺とセラは宿で夕食をとることにした。そんな訳でよくわからんごった煮みたいなものとパンをもらい早速手を合わせる。
「いただきます」
「? いただきます」
そして、そんな俺を不思議そうに見た後、ぎこちないながらも俺の真似をするセラ。そう言えば、ここは異世界だった。
「えっと、ユーリさんは東方から来たんですか?」
「え?」
「いえ、今の挨拶。確か東方ではそのような挨拶をして食べると聞いたような気がするんですが……すいません、うろ覚えで」
「あ、そうなんだ。これは癖みたいなもんだよ。東方ってどんなところなんだ?」
「私も詳しい事は知らないんですが、この大陸から海を渡って東にある大陸の事で、独特な文化があるみたいです。ちょっと詳しくは知らないんですけど……ごめんなさい」
「気にしなくていいよ。それじゃ余裕があったら調べてみるか」
未だに俺の顔色を伺うように謝ることのあるセラに苦笑しながら、俺はまだ見ぬ東方大陸に思いをはせる。文化が似てるなら米とか醤油とかもありそうだな。むしろ、存在するなら商国なら探せば取り扱ってそうだ。値段は高いだろうけど。
まあ、今はまだ見ぬ米よりも目の前の煮込みだ。よく解らん野菜とか肉が入っているそれをスプーンですくって一口頬張る。
正直安宿なんでたいしたものではないと思ったが、一口食べると中々どうしてかなり美味い。保存食と違って熱々なのもいい。っていうかこの世界の食べ物全体的に美味しすぎない?
そんな事を思いながら、二口目に手を伸ばそうとした時、一口食べたセラもほっと一息ついて、そして言った。
「でもよかったです」
「何が?」
「今日の試験の事です」
「ああ。ラッキーだったよな」
「いえ、そうではなくて……」
「?」
疑問符を浮かべる俺にセラは言いにくそうにしながらも、小声で俺にそっと言った。
「てっきり、またこの間みたいなことになるかもしれないと思って……」
「そっちだったかー」
思い出すのはセラと出会ったあの日の事である。っていうかひょっとしてセラが俺の袖を引っ張っていたのは俺の心配じゃなくて相手の心配をしてだったのか。
そう言えば試験終了後もセラはあのおっさんが無事だと知るまでだいぶ不安そうな顔してたもんなぁ。うーむ、ひょっとして俺は怖い人扱いされているのでは? まあ、まだ出会って数日だ。いずれ誤解も解けるだろ。
「とりあえず、明日から早速仕事を開始しようと思うんだけど」
「はい」
「それと並行して魔法を覚えたいんだよな。特にセラには自衛手段が必要だと思うし」
「ごめんなさい……」
「怒ってるわけじゃないって。ただ、俺が守る余裕が無い場合もあるだろうし、ある程度は必要だろうなって」
「はい」
「んでさ、聞きたいんだけど」
これは質問しても大丈夫な奴だよな? とちょっと不安になりながらも俺は言った。
「魔法ってどうやって覚えるんだっけ?」
結論から言うとセラも具体的な方法は知らなかった。一応、魔法学校みたいなところがあってそこで教わったりも出来るみたいだけど、基本的に誰かに師事して教えてもらう事が一般的らしい上に、部外者に教えることは無いそうだ。
まあ、強い人とかは普通に知ってるらしいんだが、そんな知り合いは当然いない。
だが、一つだけ裏技があるらしい。それは魔術書の使用。書という名前だが、読み物ではなく中身を目にすることにより、その書に記された魔法を覚える事が出来るものらしい。
そんな便利なものなんで当然買おうとすると大変値が張る。故に俺たちはそれを探すために、ダンジョンと呼ばれるそこに挑戦する事にしたのだった。




