フランとの対話
「で、ボクのところは最後なわけだ」
しばらくセラの頭を撫でて癒された俺は次にフランの部屋を訪ねた。そして、フランに許可をもらい部屋に入ったら待ち受けていたフランの言葉がこれだった。
「でってなんだよでって。見てたのか?」
「見てたっていうかこれぐらいの大きさの建物なら、誰がどこにいるかぐらいは解るよ。ユーリにもできると思うけど」
「言われてみれば確かに」
試しに気配を探ってみると確かに解るな。位置だけじゃなくてどれぐらい強いかみたいなのも何となく感じ取れる。流石はカノンの用意した身体である。
「それにしてもフランがそんなことを言うのは珍しいな。いや、そうでもないか?」
「そうだよ。ユーリと混ざり合ってからからかいがいがなくなっちゃってちょっと残念」
ああ。そういう意図があったのか。確かにちょっと前の俺なら最初の言葉から続く展開でフランにいじられてただろうなぁ。
「俺は対応力があがってホッとしてるぞ」
じゃなかったら、アリアにもセラにもここまで上手く対応できなかった気がする。
「確かに。セラとお楽しみだったみたいだし」
「ハハハ、解ってて言ってるな?」
「えー、だって二人であんなにくっついてたら、ねぇ?」
「やましいことはしてませーん」
「むぅ、本当に動じなくなってる」
フランがちょっと口をとがらせる。ふふふ、だがちょっと間違ってるぞフランさん。動じてない訳じゃなくて表に出さないようにできるだけだ。正直これ以上これ系の話題が続くとボロがでかねん。
という訳でそろそろ真面目な話をするか。
「で、フランはカノンの話、どう思った?」
「そうだね。色々納得いったって感じかな」
俺の言葉にちょっと首を傾けながらフランはそう言った。ちょっと可愛い仕草で似合ってるがフランは男である。定期的に思い出さないと忘れてしまいそうだ。
「そういえば、フランはカノンの弟子だったんだよな?」
「そうだよ。ボクが大賢者なんて呼ばれるようになったのも師匠の教えのおかげみたいなところが大きいよ」
「フランにしては謙遜するな」
「事実だからね。何せボクはセラたちと同じ混色だから。師匠に出会ってなかったらとっくに死んでたよ」
「その辺の話って聞いてもいいのか?」
俺の言葉にちょっと驚いたような顔をした後、フランはちょっとニヤニヤしながら言った。
「なんだいユーリ。ボクの事が気になるのかい?」
「そりゃ気になるさ、仲間なんだから」
「う……そ、そう」
俺の答えにちょっと照れるフラン。どうだ、フラン破れたり! からかってくる奴には真顔でマジレスするに限る。
なんて俺が心の中でドヤ顔してることには気づかなかったらしく、フランはコホンと一度咳払いをした後、語り始めた。
「ボクが生まれたのは二百年ぐらい前の事かな。混色として生まれたボクはあっさりと親に奴隷商人に売られた。ボクが六歳の時だった」
「マジか」
いきなりヘビーな話から始まったな。
「ボクを買ったのは混色の奴隷を集めるのが好きなコレクターだった。ボクたちの仕事は持ち主の機嫌をとること。怒らせたり不興を買った奴隷はおもちゃにされたり死ぬより悲惨な目にあわされ減っていった」
「…………」
「ある時、最年長の奴隷がそこから逃げることを提案した。それにボクたちは賛成した。まあ、そんな計画はもちろん当たり前のようにばれて、ボクたちはハンティングゲームの的にされた。必死に逃げて一人一人と減っていき、最後に残ったボクももう限界だった。そんな死にかけのボクを師匠が拾ったんだ」
そう言ってフランは笑った。いつもとは違う儚い笑みで。
「師匠はボクに聞いた。ボクがしたい事を。ボクはそれに迷わずに答えた。混色の人たちが生きていける世界が欲しい。それを作りたいって。そうして、ボクは師匠の弟子になったんだよ。まあ十年ぐらいしたらいきなり師匠は消えちゃったんだけどね」
「記憶を取り戻してこの空間に来たんだな」
「だね。そこからは魔法の修行をして、固有能力を鍛えて、それでずっと待ってた。師匠と一緒に開発した、王となるべき者を探す魔法を使いながら。そしてユーリと出会ったんだよ」
「正直、俺は王って器じゃない気もするけどな」
「ボクもそう思う」
「おい」
「ふふっ、冗談だよ」
そう言って笑ったフランはもういつも通りで。でも俺はさっきのフランを覚えている。だから、ちょっと悩んで、それから右手を差し出した。
「これは?」
流石のフランもいきなりすぎて俺の行動がつかめないらしい。そんなフランに俺は言う。
「握手だよ。セラだったら頭撫でるんだけど」
それは流石に男相手にどうだと思ったので結果こうなったのだった。笑わば笑え。男の娘とかいう存在に対する扱いとか未知の領域ってレベルじゃないんだよ。
俺のそんな思いが伝わったのかどうかはともかく、フランはちょっと笑った後に俺の手を取ってくれた。
「よく解んないけど、励ましてくれてるんだよね?」
「ああ、そうだよ」
「そっか。じゃあボクも悪戯するのは今はやめておこうかな」
「怖いから何する気だったかは聞かないぞ」
「え、そりゃあもちろん」
「聞かないって言ってるだろ!?」
そんないつも通りなようなちょっと変わったようなやり取りをしつつ、俺とフランはしばらく一緒に過ごしたのだった。




