二転三転
爆発が収束した後、そこには静寂だけがあった。フランのヘリオスはその詠唱の通り、極点を閉じる事により高密度の爆発を直接相手へ発生させる魔法であり、完全詠唱で放たれたそれはゼノを戦闘不能にするのに充分だった。
誤算はゼノが限りなく近くにいた事であり、咄嗟に楽園創造をセラが放ったが、それでもその余波は凄まじく、結果、ゼノだけではなく、ユーリ、セラ、アリア、フランの全員がボロボロの状態で倒れ付していた。
故に静寂。だが、そこに一人動く影があった。バンホルトである。バンホルトだけは全員から充分な距離をとり尚且つ防御に専念できる状態であったため、殆ど影響を受けなかったのだ。
バンホルトはゆっくりと倒れ付すユーリへと近づいていく。そして、それを止めるものは存在しない。
何の障害もなく、バンホルトはユーリの直ぐ傍までやってきた。そして、一息つくと拳を振り上げた。
ユーリは動かない。セラも、アリアも、フランも動かない。誰も動けない。ただ、無慈悲にバンホルトの拳がユーリへと叩き込まれ、衝撃が走る。
「!?」
いや、そのように見えただけだ。バンホルトは驚愕と共に周りを見渡す。何故ならその攻撃の寸前でユーリの身体が掻き消え、バンホルトの拳は地面を抉るにとどまったからだ。
その事実に驚き、周囲をうかがったバンホルトに、更なる衝撃が訪れた。
相変わらず意識が無いまま倒れ付したユーリがそこにいた。そして、その横に立つのは八色の髪色をした少女。その少女を見てバンホルトの口から言葉が漏れる。
「あり得ん……カノン……」
混乱するバンホルト。そのバンホルトに向かってカノンと呼ばれた少女は申し訳なさそうに笑いかけた。
「ごめんね、バンホルト。でも、ユーリを殺させるわけにはいかないの」
そう言ってカノンは手を振った。それと同時にゼノとバンホルト以外の身体が薄れて行く。
「待て、カノン! 何故だ!」
その言葉はバンホルトにしては珍しく、必死の形相で紡がれたものであり、そしてその問いは様々な意味を含んでいた。
何故、ユーリを助けるのか。何故、今ここにいるのか。何故、姿を消したのか。
だが、バンホルトの問いにカノンが返した言葉は求めていたものではなかった。
「いずれ会いに行くわ」
その言葉だけを残し、完全に姿が消えるカノンたち。
残されたバンホルトはただ呆然と、カノンが先ほどまでいた空間を見つめ続ける事しかできなかった。
身体が、温かさに包まれていた。冬の日に包まった毛布のような安心感と温もりに、ユーリの意識がゆっくりと覚醒していく。
「ここ、は……?」
周りを見渡すユーリ。そこは不思議な空間だった。宇宙空間のような暗黒の筈なのに、視界はしっかりと行き届き、浮こうと思えばどこまでも浮けそうなのに、重力のようなものはしっかりと感じる。
ユーリはそんな不思議空間で横たわっていた。周りを見渡すとセラたちの姿も存在している。
何が起こったのか混乱しすぎて逆に冷静になってしまったユーリがこれは一体どういう事かと首を傾げた時、ユーリに声がかけられた。
「目が覚めた?」
声をかけられ、そちらを向くとそこには八色の髪の少女が立っていた。外見年齢は十二歳ぐらいにみえるが、その瞳には何ともいえない深みが宿っている。
「えっと……」
初対面であるはずの相手に名前を尋ねようとするユーリ。しかし、それよりも早く少女はその目に涙を浮かべながらはっきりと言った。
「やっと、会えた……久しぶりだね、お兄ちゃん」
「は?」
その少女の様子と言葉に、ユーリはただ呆けたような声を出す事しかできなかった。




