表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
元空手マンの異世界転生録  作者: 間宮緋色
41/53

VSゼノ

 最初に動いたのはまたもアリアだった。というかアリアの能力は燃費がいい上に自分からある程度離れた場所で展開できるため先手を取りやすいのだ。

 先ほどと同様に今度は二人ごと生成された魔剣が取り囲み、いっせいに射出される。それに対してバンホルトは最小限に攻撃を弾きながら戦線を離脱する。いくら弱っていようとも最高ランクがAランクの魔剣では話にならないらしい。

 魂魄契約ソウルエンゲージでSランクに上がったとはいえ、それ以降新しい魔剣を解析する余裕がなかったのが悔やまれる。Sランクでもバンホルトに通るかは怪しいが。

 そして、残されたゼノはまるでコマのようにくるりと回転すると同時に全ての攻撃を弾き飛ばした。その動きははっきり言って俺たちのレベルからしてみれば雑だ。だけど、ダメージは一切負っていない。

 しかし、ゼノの動きが止まる瞬間、既に準備され撃ちだされていた魔剣がゼノの目の前に迫っていた。常識的に考えて回避は不可能。だが、ゼノはそれを片手を無造作に突き出すことであっさりと弾いた。

「ちっ」

 アリアが舌打ちする。それに対しては俺もアリアと同じ気分だ。アリアの攻撃で隙すら出来なかったため、俺とフランはその場からまだ動いていない。

 いくら奴が強いと言っても限度がある。実際、バンホルトはアリアの魔剣を丁寧に弾き飛ばしていた。だが、ゼノにはそれが無い。ならば答えは一つ。奴の緑髪がそれを物語っている。

「まずいな……」

 思わず俺の口からそんな言葉が漏れた。あの防御力では恐らく、アリアとセラの攻撃は完全に通じないだろう。そして、俺の魔力はすっからかんで身体はボロボロ。頼みの綱はフランだが、バンホルト相手ですら全員の攻撃でやっとダメージを与えたのにフラン一人でバンホルト以上の防御能力を持つゼノをどうにかできるとは思えない。

 こんな事なら虐殺魔弾カルネージシュートにこめる魔力は半分にしておくべきだったのかもしれない。この辺はまだ実戦経験が足りてないせいなんだろうな。もし、これを無事に退けられたらその辺の訓練もしておきたいところだ。

 その時、身体が少し軽くなった気がした。いや、気がしたんじゃない。ダメージがわずかだが回復してる。これは?

「ユーリさん!」

 俺の名前を叫んだのはセラだ。そうか。楽園創造イデアルの回復能力。何気に使ったところを見るのは初めてだが、身体の調子はだいぶマシになった。

 アストラルである俺の身体は普通の回復魔法はあまり効果が無いらしいが、セラの楽園創造にはその縛りが無いらしい。これなら、何とか動けそうだ。

「フラン!」

 悠長に指示をしている余裕は無い。俺はフランに声だけかけてゼノへと肉薄した。

「せあ!」

 俺が繰り出したのは上段回し蹴り。かつてセラとであった時に使った技であり、その時は相手の頭が粉砕されてしまったあれである。しかも、あの時と違い今回のは完全に手加減抜きだ。恐らくフランですら防ぐのが難しいだろう一撃。だが、

「やるねぇ」

 ゼノはそれを難なく片手で受け止めた。力がそこで相殺され、俺の足とゼノの腕からメキリと身体がきしむ音がする。だが、それだけだ。お互い多少の痛みがあっただけで全くのノーダメージ。

 直後、俺は弾かれたように距離をとり、

「ピアシングストライク!」

 フランの魔法が、ゼノへと撃ちだされた。極細のレーザーのような魔法で恐らく貫通属性が高めであろうその攻撃を、ゼノは手のひらを突き出し受け止めた。

 当然ゼノの損傷はほぼ皆無。そして、その傷とも呼べない小さな攻撃痕も一瞬で消えていく。本格的にまずいな。打つ手が無い。

「ユーリ、ボクを信じてくれる?」

 その時、フランがふとそんな事を言った。驚いてフランの方へ振り向くと、フランは真剣な眼で俺を見ていた。その表情から読み取れるのは決意と覚悟。なんだか知らないが、フランにはまだ打てる手があるらしい。だったら俺の返事は決まってる。

「当たり前だろ。それが仲間だ」

 俺の言葉にフランは嬉しそうに笑った。そして言った。

「解った。じゃあ、ゼノの動きを止めて」

「オーケー」

 簡単に言ってくれるとは思わない。そこに勝利への道筋があるのなら、俺たちは自分たちにできる事をやるだけだ。

「いいねぇ。そういう信頼関係は嫌いじゃない。調停者サーティーンに足りないものだな、それは」

 フランとのやり取りの間、ゼノはその場から動こうとしなかった。恐らく自分の能力に絶対の自信があるんだろう。付け入る隙はそこにある。

「さて、そんじゃ再開するとしようか!」

 言って動き出したゼノの向かう先はフランだ。流石にそこまで慢心はしてくれないらしい。だが、それでも。

「行かせない!」

 俺はその前に立ちふさがる。

「おぉおおおおおお!」

 一撃で駄目ならもう一撃、更に一撃。流れるような動きで攻撃を繰り出す俺に、流石のゼノも防御に回らざるを得ない。何故なら俺の攻撃はその全てが急所を狙ったものだからだ。

 心臓、頭、首、股間、関節。正中線を中心に人体で脆そうな所を狙っていく。

 後ろからはフランの詠唱が聞こえてくる。それも結構な長めの奴であり、間違いなくフランの本気の一撃を準備しているのがわかる。

「ちっ」

 それを理解したゼノは舌打ちをするものの、俺を抜けていく事が出来ずにいる。最初のアリアの攻撃の時にわかったが、ゼノの動きは我流で、しかもジンのように研ぎ澄まされてるわけでもない。

 もちろん実戦経験があるのだろう動きで隙だらけというほどじゃないが、それでも半分ぐらいは身体能力と固有能力に頼っている雑さがある。

 体感時間はかなり長かったが恐らく十数秒程度しか経ってないその間に、ついにフランの詠唱が完成した。

 だが、それと同時にゼノも仕掛けてきた。いくつかの被弾を覚悟の上で俺にタックルをかましてきたのだ。

 そして、空手がベースになっている俺の動きでは、咄嗟のそれに対処する事が出来なかった。反射的に避けようとし、そして、後ろに仲間がいることに気づき、その瞬間に衝撃。

「しまっ、がはっ!」

 まともに受けることの出来なかった俺は大ダメージと共に弾き飛ばされる。そして、詠唱が完了したとはいえ、まだフランの魔法は完成していない。

 その時、再びアリアが魔剣を放った。幾本もの魔剣がゼノへと飛んでいくが、ゼノはそれを全て弾き飛ばす。時間は一瞬すら稼げていない。

 そのままゼノの攻撃がフランへと迫る。だが、そこに立ちふさがる影があった。セラだ。

「ばっ!」

 無謀すぎる。一瞬の後に起こるであろう惨劇に、しかし、いまだ俺の身体は宙に浮いており何も出来ない。俺は、守れないのか。フランもセラもアリアも……。

 絶望が俺の心を覆う。だが、次の瞬間、バキンと音が響き、ゼノの動きが一瞬止まった。怯えながらもゼノの前に立ちふさがったセラの両手が震えている。だが、それは恐怖から来るものではない。

 セラの楽園創造が一瞬ゼノを止めたのだ。だが、それは一瞬の事であり、楽園創造で作られたバリアは一瞬で砕け散った。その、一瞬でまだフランの魔法は完了していない。

 しかし、そこにアリアの一撃が叩き込まれた。見覚えのあるその魔剣はいつもアリアが背中に背負っていたものであり、銘はベリト。そして、その能力は斬撃の複写。

 SSランクの魔剣によってつけられた僅かな傷。その傷が、一瞬にして拡大し、ゼノの身体が血飛沫を上げる。

「がぁ!」

 ゼノが血飛沫を上げながらたたらを踏む。そしてついにその瞬間、フランの魔法が解き放たれた。

「閉じよ極点、ヘリオス!」

 次の瞬間、ゼノを中心に凄まじい爆発が巻き起こったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ