決着、そして
「っ」
意識が覚醒し俺は急いで状況を確認した。俺は地面に倒れており、どうも衝撃で吹き飛ばされたらしい。まだ土煙が収まっておらず、俺が意識を失っていたのはほんの一瞬の事だろう。
「あぐっ!」
動こうとして痛みに思わず悲鳴を上げた。よく見れば俺の身体はあちこちが千切れかけていて、アストラルじゃなければ即死だったのはもちろん、アストラルで作られた俺の身体ですら大ダメージを負っていた。
もちろん直ぐに再生を始めたのだが思った以上に再生が遅い。とりあえず見た目は完全に元通りだが、まだ身体を動かせば痛みが走る。結構な痛みだが、俺はそれを我慢しつつ立ち上がった。
流石にやれたはずだ。実際俺の拳にもはっきりと感触が残っている。なのに、何故か不安がぬぐえない。
とりあえず、セラたちの安全を確認しないと。そう思った俺が移動を開始したあたりで、ようやく土煙が晴れた。それと同時にセラたちの姿が眼に入った。恐らく楽園創造とフランの防御魔法か何かで無事だったのだろう。俺はすぐさま駆け寄ろうとして、そして、気づいた。
三人の顔に浮かぶ確かな絶望に。馬鹿な、ありえない。認めたくは無い。そう思いながらセラたちの見つめる先に視線を移した俺は、その絶望の理由を知った。
そこにはバンホルトが立っていた。身体はボロボロで息を絶え絶えといった感じだが、ちゃんと自分の足で立っている。だが、問題はそこじゃない。バンホルトの前に立つ緑髪の少年。恐らくこの少年がバンホルトを助けたのだろう。そして、その少年からは最初にバンホルトから感じたものとどうレベルの威圧感を感じた。つまり、バンホルトレベルの新しい敵が増えたのだ。
「冗談きついな……」
流石に心が折れそうだ。全員が万全の体制で臨んで何とか倒したと思ったら、もう一人追加とか笑えないにも程がある。勝算はほぼゼロだ。でも、やるしかない。俺がそう決意したのとその男が声をあげたのは同時だった。
「危なかったなー、バンホルトのおっさん」
「ゼノ……」
ゼノと呼ばれた少年は楽しそうに笑いながら続ける。
「おっさんの言うとおりだったな。おっさんじゃなくてカノアを信じて正解だったぜ」
「…………」
バンホルトはそれには答えずただ息を整えている。そんなバンホルトから視線を俺たちに移し、ゼノは言った。
「悪いな。水を差しちまって。ただまあ、このおっさんはここで失うわけにはいかないんだ」
「そっちから手を出してきた割に随分勝手だね」
ゼノに答えたのはフランだった。だがゼノはフランの言葉にも笑いながら言う。
「悪いな、大賢者様。だけど、あんたなら解るだろ? カノアの名前を聞けば俺たちがここにいる意味が」
「…………」
フランは一瞬ちらりと俺を見た。その視線にこめられた感情はわからない。だけど、フランは直ぐに俺から視線を外すと言った。
「解るよ。よく解る」
「そうか。だったら……」
「だけど駄目だ。ユーリは渡せない」
「ほう……」
フランの言葉にゼノの笑みが変わる。それを確認して、フランは言った。
「セラとアリアは逃げて。ゼノが相手なら二人を殺す事はしないはずだから」
「あんたたちは?」
「向こうの狙いはユーリだ。そして、ボクはユーリを失うわけには行かない」
「そんなの私たちだって一緒よ」
アリアの言葉に一瞬虚をつかれた様な顔をするフラン。その視線の先でセラも頷いている。それを見たフランがフッと笑う。
「そっか。そうだよね。大賢者なんて呼ばれておきながらボクもまだまだだなぁ……」
そう言ってフランたちは明確な意思を持ってゼノに視線を向けた。即ち、徹底抗戦だ。
「はは、モテる男はつらいな色男」
ゼノが俺にそう言う。そして、俺はそれにまったく同感だ。
自惚れかもしれないが、俺はセラとアリアの人生を変えてしまった。そして、その結果今二人は俺を助けるために絶望的な戦いを始めようとしている。
その事が辛くて、それと同時に嬉しくて、だから、俺も覚悟を決めてここで全力を出し切るまでだ。
俺たちが完全に戦闘態勢を入ったのを見てゼノも笑うのを止めた。そして、今までとは違う氷のような眼をして言った。
「来い。絶望を教えてやるよ」
そのゼノの言葉と共に再び戦いの幕があけたのだった。




