旅は道連れ
まさか、気を失った少女(しかもさっきまで追われてた)を放置するわけにも行かず、俺は少女を介抱することにした。
とりあえず、そのままの場所にいると逃げ出した男が仲間を連れてくるかもしれないので、街道を挟んで反対側の森に移動しておく。その際少女の手枷を外そうと試みたらあっさり外れた。もちろん、バキッとかいう感じで。
そろそろ俺も気づいたんだけど、ひょっとしなくてもこの身体強すぎなのでは? まあ、考えてみれば滅ぼされたとはいえ魔王が作った身体だし、これぐらいは普通なのか? 基準が解らん。
そんな事を考えていると木に寄りかからせていた少女がぴくりと動く気配がした。あれから体感十分ほどか。そろそろ目を覚ましそうだ。
目を覚ます前に改めて少女を観察してみる。年齢は多分小学生高学年か中学生成り立てぐらいの金と緑の混色の髪の少女。肌の色はちょっと白すぎるかなってぐらいで、手足は華奢な感じ。そして、着ている服は服って言っていいのかってレベルのボロ。
まあ、恐らく予想通り、所謂奴隷って奴なんだろうな。んであのおっさんたちは奴隷商人。そうなると、あのおっさんを逃がしたのは痛いな。と言っても俺もちょっと動揺しすぎててあの時はどうしようもなかったんだけど。後はただあまりでかい組織じゃないことを祈るのみだ。
しかし、衝撃はあったが人殺したのに思いのほか落ち着いてるな俺。まあ、人買いがいるぐらいだし、今後そういう事に躊躇ってる余裕とかなくなるかもしれないし、ありがたいのはありがたいが。
「ん……」
少女の口から吐息がもれ、そのままうっすらと目を明けた。そして、
「ひっ」
俺の姿を見て後ずさろうとする。まあ、そうなるだろうなとは思ってました、はい。だが誤解? は解いておかないとお互いのためにならない。とりあえず、出来るだけ怖くならないように苦心しながら声をかけることにする。
「オチツイテ、オレ、ヒドイコトシナイ」
慣れない事はするもんじゃないな。考えながら喋ってたら片言になってしまった。余計に怖いわ。
だが、少女は意外にもその言葉を信じたようで、少なくとも騒ぎはしなかった。自分の手枷が外れているのを確認して、恐る恐るというように声をかけてきた。
「あの、助けてくれたんですか?」
「まあ、成り行きで」
正直に答える。元々腹芸は得意ではないのだ。それに嘘をつくような理由もないしな。
少女は俺の言葉を聞いて、数回俺と自分を交互に見た後に、深々と頭を下げた。
「ありがとうございます」
「いいって。さっきも言ったけど成り行きだしな」
というより正当防衛だな。まあ、首を突っ込みにいったのは確かなんだが。と、そう言えば自己紹介がまだだったな。
「俺は有……ユーリ・アリサカ。君は?」
「あ、私はセラっていいます」
「セラか。えっとご家族は?」
「それは……死にました」
少し辛そうに答えるセラ。まあ順当だろうな。
「ここから少し先にあるイゾルデ様がおさめていた国に住んでたんです。でも数日前にバンホルトって魔王に滅ぼされて……私はそこの生き残りなんです」
とか思ってたらまさかの同郷だった。残された記憶にある母親の名前と一致する。しかし、バンホルトね。一応覚えておこう。
でも、同郷の割にはセラの身体はどう見ても生身だ。アストラルではない。という事は人間? まあ、別に魔族の国に人間がいてもおかしくは無いのか?
「そうだったのか。大変だったな」
「はい……」
とりあえず慰めの言葉をかけておく。しかし、さてこの子どうしたものか。一人で生きていけるようにも見えないしなぁ。
俺がそんなことを考えているとセラのほうから話しかけてきた。
「あの、あなたはどこから?」
「え? 俺? 俺は、その、遠いところから、かな」
聞かれて咄嗟にそう答えた。何となく話すことを躊躇われたのだ。それに嘘も言ってない。日本はここからめっちゃ遠いはず。
「だ、だったら、私を連れて行ってくれませんか? 私、治癒能力を持ってます。お役に立てると思うんです。だから……」
「解った。いいよ」
「え?」
「特に目的もないけどそれでもいいなら」
俺は咄嗟にそう言っていた。一人じゃ寂しかったのもある。能力に興味があるのも事実だ。だけど、それ以上に生きるために必死で言葉を紡いでいるその姿をそれ以上見ていられなかった。なんだか妹をいじめている気分になってしまったのだ。
あいつ、俺が死んで泣いてるだろうな……。ごめんな。
届かないのは解ってるけど心の中で謝っておく。その変わりってわけじゃないけどこの子は泣かせないようにしよう。
「本当に、いいんですか?」
「ああ。これからよろしくな、セラ」
そう言って俺は右手を差し出した。その手を何も言わず見つめるセラ。そういえばこの世界にも握手ってあるのか? とか不安になった頃。セラはようやくその手を掴んでくれた
「はい、よろしくお願いします」
そう言って、出会って初めてセラは笑った。その笑顔に不覚にも若干ときめいてしまったが、俺は断じてロリコンではない。ただ、女の子に慣れていないだけなのだという事をここに明言しておく。生前の付き合いとか家族除いてだいたいゴリラばっかだったしな、うん。




