VS バンホルト
轟音と共に土煙が舞う。どうもアリアの魔剣は文字通りにバンホルトを囲んでいたらしく地面の中からも魔剣が迫っていくのが見えた。
だが、バンホルトがその程度でやられてくれるわけが無い。逃げ場が無いなら全てに対処すればいいだけだ。俺だって同じ状況になったら同じことをするだろう。
しかし、アリアの攻撃は無意味ではない。バンホルトの動きを少しでも止めたのはでかい。その間に俺とフランも完全にここで戦う意思が固まり、次の一手が打てるからだ。
礼を言う暇は無い。だから俺はアリアへと心の中で感謝を告げながら、右手に意識を集中した。
虐殺魔弾。フランとの戦いで得た能力。あの時以来一度も使ってないが、あのフランにすら防御をさせた技だ。こいつを全力で叩き込む。
どうせ俺は他に魔力を使わない。故にもてる魔力を全て注ぎ込み、それを放つ。禍々しい黒いオーラのようなものを纏った赤い弾丸がバンホルトがいた場所へと射出される。
それと同時に土煙の中からバンホルトが飛び出してきた。向かう先はアリア。元々殺す予定だったのか、邪魔をされたからか。どちらかは解らないが、どちらにせよやらせるわけが無い。
バンホルトの目の前には虐殺魔弾。それをバンホルトは顔色一つ変えずに、右腕で弾いた。いや、弾こうとした。
「ぬっ」
バンホルトの動きが止まる。そして、その腕と競り合う俺の虐殺魔弾。均衡は一瞬。次の瞬間、バンホルトの腕はそのまま魔弾を弾き再びバンホルトは自由になる。
だが、バンホルトよ。それは失策だ。貫通属性すら弾くその強さは流石だが、虐殺魔弾には別の能力がある。それは、対象への追尾。本来なら相手の身体を貫通し、追尾し、それを繰り返し相手を文字通り虐殺する魔弾。その猛攻は弾いただけでは止まらない。
バンホルトも魔弾が再び自身へと迫ってきていることには直ぐに気づいた。そして、それが片手間に処理を仕切れるものでないという事も。
故に完全に足を止めたバンホルトは一瞬俺たちから完全に意識を外した。そして、それを見逃すフランじゃない。
「込めるは雷。螺旋を描き、汝の敵を打ち砕かん」
それは短いながらも確かな詠唱だった。その言葉と共に編まれた数十本の雷の槍が、言葉どおりに螺旋を描きながらバンホルトへと飛翔し、螺旋を描いた雷の槍はそのままより合わさり一つの雷に変わりバンホルトに直撃した。
「ぬぅ、おぉおおおおおおお!!」
片手で虐殺魔弾。片手でフランの雷。それを受け止めながらバンホルトが咆哮をあげる。
初めて余裕を失ったバンホルトの姿。それを見て俺たちはいけると確信した。畳み掛けるようにフランが追加で魔法を編み始め、遅ればせながらセラも詠唱を開始し、アリアも魔剣を生成し撃ち込む。
両手の塞がったバンホルトにそれを防ぐ術はなく、それらは全て相手へと命中した。そして、それと同時に俺はバンホルトへと近づいていた。
フランの雷と俺の魔弾。数瞬後には、ここを恐ろしい衝撃が襲うだろう。ぶっちゃけ爆心地へと自分で向かったようなものだ。いくらアストラルの身体でも全身が吹き飛べばどうなるか解らない。それでも、俺はここで決めなければならないと確信している。
大地を全力で踏みしめる。足から腰へ腰から腕へと流れていく力。その力を全て右の拳へと集中させ、防御の取れないバンホルトへとその一撃を叩き込む。
「魔人、正拳突き!」
直後、競り合っていたフランの雷と俺の魔弾が限界を超え炸裂し、俺の視界を光が埋め尽くしたのだった。




