カンディルへの道中
事件の日から三日。ようやく俺たちはクオーリア軍から解放された。
もちろん捕まってたわけではなく、事情聴取されていただけなんだが。それでも伝言ゲームやらなんやらが発生して結構な時間がたってしまった。
黒き腕についてはアリアの知り合いのパーティにいたフードの男が色々と素直に話してくれたおかげでこのクオーリアに入り込んでいる勢力のかなりを取り締まる事に成功したらしい。
その流れで聞いたんだが、どうにも最初に俺が殺ってしまったおっさんは、黒き腕の結構上の人物らしく、幹部とまではいかないがそれなりの発言力を持った人物だったらしく、だから追っ手が未だにかかっている状態らしかった。
面子的な問題? らしいんだが、結果として更に被害を受けることになった組織がこれから更に躍起になるのか、それとも諦めてくれるのかは神のみぞ知るという奴だ。
個人的にはもう放っておいてくれと言いたいが、この件に関しては自業自得なんで、今回みたいな事にならないことを祈るのみである。
そう言えばアリアとの契約に加え、セラの能力が成長していた。その件に関してセラに危ない事をさせたのかフランを問い詰めようとしたのだが、セラを盾に使われ上手くかわされてしまった。まあ、そんな訳で二人の能力である。
アリア、攻撃S、防御C、敏捷B、魔力B、性癖SS、能力:黒S、赤S。セラ、攻撃C、防御A、敏捷D、魔力A、魔力運用S、能力:緑B、金C。
とりあえず、アリアは一番高いのが性癖ってのがどうなんだって感じだが、アリアのアレでAランクですとか言われても、逆に怖いのでよしとしよう。攻撃の高さはそのまま固有能力の強さでもある。相変わらず防御手段がないが、遠距離からの攻撃担当であれば問題ないだろうし、セラが守る事によって安定感も増すだろう。
セラは今回魔法の勉強をしたおかげで敏捷以外がアップしている。ちなみにそれだけだと固有能力の成長の説明がつかないのでフランを問い詰めようとした次第である。後はユニークが素直さから魔力運用へと切り替わってる。これは多分魔法を覚えて才能に目覚めたってところなんだろうな。今なら一緒にダンジョンに潜っても十分以上の戦力になってくれそうだ。
ちなみにアリアとの契約の時にキスをしてしまったため、刻印の場所がどうなるのか心配だったのだが、どうもアリアの刻印の場所は舌になっていた。気づいた俺はアリアに全力で内緒にしてくれるように頼んだのだった。
さて、そんな感じで事後処理も終わり、国からの報奨金によりしばらくは働かなくてもいいレベルのお金がもらえたので、俺たちはクオーリアを出発して改めて王国の首都であるカンディアを目指すことにしたのだった。
「そういえばさ、そもそも私たちって何で王様に会いに行くんだっけ?」
クオーリアを出てから二日目の昼ぐらいに、アリアが唐突にそんな事を言った。ちなみに配置は御者台に俺とフラン、馬車の中にアリアとセラという配置である。
「そう言えばそうですね。私も聞いてない気がします」
アリアの言葉にセラもそう相槌をうつ。そう言えばいわれて見れば俺も聞いてないな。
「ボクたちの目的は国を作ること。それは覚えてるよね?」
「はい」
「だけど、いきなり国を作りましたって言ってはいそうですかとはならないんだよね。特に中央大陸は殆ど今ある国の領地になってるわけだし」
「それはそうね」
「だから、まずは王国領地の空いてる場所をもらいに行く事にしたのさ」
「そんな簡単にくれるのか?」
「普通ならそもそも無理。だけどボクはこう見えて大賢者様だからね。王国相手に貸しも結構あるのさ。それでももちろん最初は王国の属国として色々面倒くさい事をしなきゃならないけどね」
「なるほど」
フランの答えに三人で頷く。きっとこの時を見越してその貸しを溜めてたんだろうなフランは。流石うちの参謀様である。
「後はまあ、住人も募らないとね。王様とお妃様の合計四人だけじゃ流石に立ち行かないし」
「ん?」
「え?」
「は?」
フランの言葉に見事に三者三様の反応をする俺たち。いや、俺が王様になるのはいいんだがちょっと待て。
「あの、私たちが姫なんですか?」
フランにそう聞いたのはセラだ。
「ん? セラはおかしなことを聞くね。ユーリが王様なんだから必然的にそうなるでしょ?」
「それは、その、わぁ……」
顔を赤くしながらも嬉しそうにこっちを見てくるセラ。
「んー、それは私たち四人で産めや増やせやしろって事?」
フランの言ってることを把握したアリアがニヤニヤ笑いながらこっちを見てそう言う。
「流石にボクは子供は埋めないよ。でも、ユーリなら全然ありだし、まあそういうことだよね」
「そっかー」
アリアはニマニマしながらこっちを見ている。待って。この状況めっちゃ恥ずかしい。まだ誰にも手は出してないんだけど!? 後、フランは全然ありじゃないんだよ!
しかし、ここで否定してもセラは悲しむだろうし、アリアもフランもそれに便乗してくるに違いない。くそっ、なんて事だ。パーティに俺以外に男が欲しい。フラン、お前じゃない座ってろ。
いやでも、この状況で新しい男の仲間が増えてもそいつも居心地悪いだろうなぁ。アレ、積んでない?
そんな感じで俺たちが盛り上がっていた時だった。
「ん?」
前方に人影が見えた。かなりでかい。筋骨隆々といった感じのシルエットである。というか道の真ん中に立って何をしてるんだ?
俺がそんな感想を抱いたと同時に人影が動いた。次の瞬間、俺たちの馬車は粉みじんになって吹き飛んだのだった。




