表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
元空手マンの異世界転生録  作者: 間宮緋色
36/53

一方その頃

「くそっ! なんなんだよ!」

 ベロニカたちの一味であったフードの男ゴーチェは悪態をつきながら走っていた。目的は逃亡。このままクオーリアを出て、一刻も早く安全な場所へと逃げたかった。

 赤青の剣鬼の報告でターゲットが強いのは知っていた。それと同時に仲間を見捨てられないお人好しなのも。ならば、人質を使えば簡単にけりがつく。

 情報を集め、アリアを人質役に決め、万が一に失敗した時のために、ジンと戦って生きているという化物には毒も盛ってあった。

 完璧な作戦だったはずだ。実際、アリアはあっさりと捕まえる事が出来たし、ソフィアの報告でターゲットも捕まえたと言っていた。後に残ったのは戦闘力のないもう片方のターゲットだけ。

 だが、そこに予想だにしない壁が存在していた。その残ったターゲットであるセラがフランと呼んでいた少女。情報にはなかったが、問題は無いだろうと高をくくっていた。冗談じゃない。あれは化物だ。

 自分の奇襲を当たり前のように防ぎ、おまけに自分をセラの訓練の道具として戦わせた。そう。フランという少女は、自分の事を道具としてしか見ていなかった。利用できるだけ利用して捨ててやろうという感情がその目から読み取れた。

 ゴーチェが今まで任務に成功してきたのは、その観察眼のおかげだった。だから、今回も頭を直ぐに切り替えて全力でその場から逃げ出した。

 任務に失敗した自分は恐らく組織には戻れないだろう。だが、それでも死ぬよりはましだ。このままアイベルン側へと逃げ切れば、組織の追っ手もそう簡単にはこれないだろう。

 それだけを考えながらただひたすらにゴーチェは走っていた。なのに、何故なのか。嫌な予感がぬぐえない。その事に気づきたくなくて、ゴーチェは必死に走り続ける。走り続け、そして、ついに東門へと辿り着いた。無人のその場所へと。

「は?」

 ありえない。いくら夜でも門に人がいないなどありえない。いや、そもそも、自分が逃げ出してから一人でも他の人影を見かけたか?

 ゴーチェがついにその事実に直面したのと同時に、声が聞こえてきた。一番聞きたくない声が。

「鬼ごっこは終わりかな? 丁度よかった。ボクも強くなったとはいえ、この先まで複製する力は流石になかったからさ。でも、本当に凄いな。契約前のボクの作れた範囲より倍は広くなってるよ」

 そう言って、唐突にフランはその場に現れた。ゴーチェにはフランの言ってることの意味が解らない。解らないが、それでも自分が追い詰められていることだけは解った。

 心が折れそうになる。だが、それでも死にたくない一心でゴーチェは口を開く。

「と、取引をしないか?」

「無理」

「待てよ。まず話だけでも」

「ごめんね」

 フランはゴーチェの言葉に耳を貸さない。

「セラの成長のために、キミには役に立ってもらったでしょ? あの時点でキミを生かす選択肢は無いんだよ。だって、それがユーリの耳に入ったら絶対怒られるだろ? ユーリは過保護だから」

「なっ」

「それにキミには知ってることを全部話してもらわないといけないんだよ。黒きかいなに所属してるのはキミとソフィアって人だけなのに、ソフィアはユーリが壊しちゃったみたいだし」

 普段となんら変わらない口調で喋りながらフランがゴーチェへと近づく。

「ひっ」

 その姿にゴーチェは後ずさろうとするが、見えない壁のようなものへとぶつかり動けなくなる。

「大丈夫だよ。キミは死にたくないんでしょ? ボクはキミを殺さない。クオーリアへと引き渡さないといけないしね。ただまぁ、」

 そう言ってフランはにこりと笑って言った。

「ちょっと廃人みたいになっちゃうかもしれないけど、そこはごめんね?」


 こうして、今回の事件は幕を閉じたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ