罠
ベロニカとの約束の日。深夜になろうとしているその時間に、仲間を連れてこいと言われたそこへ、アリアは一人で向かっていた。
結局、誰にも相談しなかったのはみんなが優しすぎるからだ。フランはともかく、ユーリもセラも事情を知ったなら絶対に両親を助けようとするに決まっている。
その結果、二人が危ない目にあうのが嫌だった。ユーリなら瞬く間に倒してしまうかもしれないが、人質がいた場合どうなるかは解らない。だが自分ならば関係ない。人質が死んでも構わない。それごと攻撃してもいいだろう。
アリアはそんな覚悟の元、そこへ向かっていた。クオーリアの北門に近い、裏路地のような場所。一応、門や詰め所には兵士が居るが、その注意は外へ向いており、この辺り一帯は無法地帯のようなものになっていた。
荒れている印象の割りに、あまり酷い臭いがしないのは、この場所に居る支配者によるものか。ともかく、そんな場所へとアリアは足を踏み入れた。
時間帯の所為か、目線はあまり感じないし、一度も絡まれることなく、アリアはそこへ辿り着いた。
かなり大きな廃墟のような建物。ボロボロの看板を見れば元は大きな酒場だったらしい。アリアはその建物へ無造作に足を踏み入れた。
警戒していないわけじゃない。ただ、出会いがしらに全員殺してやろうと魔剣を生成しながら勢いよく踏み込み、しかし、そこには誰もいなかった。
「?」
約束の時間を少し過ぎてきたから全員がいると思っていたアリアは一瞬事態を把握できずに動きが止まった。そんなアリアに後ろから襲い掛かる影。
「ちっ!」
気づいたアリアは咄嗟に店の中へと飛び込む。空をきる音。何とか回避には成功したようだ。だが、これでアリアは退路を失った。しかも、襲撃者たちはそのまま扉を閉めたため、一切の明かりがなくなり、暗闇に包まれる。
どうやら、相手は最初からそのつもりだったようだ。建物の中は警戒していたが、外にまでは警戒を向けていなかった。普段のアリアならしないミスだ。だが、迷いを無理やり打ち消しているアリアの思考は、普段よりも精彩を欠いていた。
「くっ!」
だが、それでもアリアは流石の判断で魔剣をそのまま射出する。背後の相手へと四発、左右に二発ずつ撃ちだされる魔剣。背後からは金属音。恐らく弾かれたのだろう。そして、一拍遅れて左右からも金属音。
「!?」
予想外の手ごたえにアリアの動きがまた止まる。だが相手はそれ以上仕掛けてこなかった。ただ、明かりを灯し、暗闇に照明が生まれた。
背後から襲ってきたのはやはりベロニカたちだった。全部で四人。クオーリアで出会った時と変わらない面子。そして、アリアからしてみれば一人知らない人物。前パーティを組んだときには居なかったフードの男。
ベロニカは青髪で、右頬に傷のある男は白髪のグリゴイ、そして影のようにそれに従う赤髪のセリネ。それがアリアが一緒にパーティを組んでいたときの面子だ。
「さて、一人で来た言い訳を聞こうかアリア」
「言い訳? 私は誰か連れてくるつもりなんて最初からなかったけど?」
ベロニカの言葉に強気で言い返すアリア。
「おいおい、家族がどうなってもいいのかよ。アリアちゃんよぉ」
「別に。もう家族じゃないし。それにここにはいないみたいだけど?」
「ええ、いないわよ。だってとっくに死んでるんだもの」
「え?」
見捨てる覚悟もいざとなれば殺す覚悟もしてきたアリアは、しかし、既に死んでいることまで考えていなかった。故に、その言葉を聞いた瞬間、アリアには完全に隙が出来、
「ふっ」
「しまっ」
その隙を突いたセリネの能力による攻撃をもろに受けるアリア。そのまま吹き飛び、壁へと叩きつけられる。
「がはっ!」
防御力の低いアリアはそのまま床へと崩れ落ちる。そのまま薄れ行く意識の中、アリアへとベロニカから声がかけられた。
「あんたの両親はとっくに死んでる。だから、あんたに人質になってもらうことにするわ」
それを聞いてようやくアリアは最初から敵の狙いがそれだった事を知ったが、しかし、どうする事もできずにそのまま気を失ったのだった。




