密談と契約
そろそろ夜が明けるだろう時間帯。宿の一部屋で、俺とフランは向かい合っていた。
と言っても別段珍しい光景でじゃない。俺にとってもフランにとっても睡眠はあまり重要なものじゃないし、俺は結構忙しく働いているので、フランと顔を合わせられるのはこの時間ぐらいだからだ。
だから、今も俺たちはいつも通り、セラの成長報告やその他諸々を報告しあっているところだった。
「とまぁ、そんな感じで、セラに攻撃魔法は今は無理だね。才能自体はあるし使えないことは無いだろうけど、感情に左右されやすいからねセラは」
「仕方が無いさ。セラはまだ子供だしな」
「ユーリはセラには甘いよね」
「そうか?」
「そうだよ。まあセラにって言うより仲間に甘いんだろうね。おかげでボクが駆けずり回る羽目になってるけど」
「ああ。そっちの調子はどうだ?」
フランの言葉に弛緩していた空気が引き締まる。
「だいたい裏も取れたし、順調だよ。そっちの仕込みは?」
「言われた通りにやった。けど、俺は演技とか下手だし騙せたかはわかんないぞ。相手は百戦錬磨って感じだし」
「まあ、そっちが失敗してもフォローは出来るからいいんだけどね。だけど、本当にいいのかい?」
「何がだ?」
「これからの事だよ。一度宣言したら、もう引き返せないよ?」
「解ってる。これでも考えた上での行動だ」
「一人で、でしょ? 二人に話したほうがいいとか考えない?」
フランの言葉は別に俺を責めているわけじゃない。純粋に気遣ってくれている。だけど、俺はその質問に対する答えはもうだしてあるのだ。
「考えない。二人は俺の都合に巻き込まれるだけだ」
「本当に二人には甘々だね、ユーリは」
「…………」
自覚は多少はある。だけど、別におかしな事じゃないのだ。セラとアリアは多分俺に感謝とかしてるんだと思う。二人の俺に対する過剰な信頼度を見ていればそれぐらい解る。
だけど、逆なのだ。俺は確かに一人でも生きられるぐらいの強さを持ってるけど、それは戦闘とかそういうものに関してだけだ。自分でも気づいていなかったけど、セラが俺についてきてくれて、アリアが俺を見捨てないでくれて、俺は本当に救われていたのだ。
だから、許さない。俺は二人を守るためなら、いくらでも手を汚せる。
黙った俺に対して、フランもそれ以上何も言わなかった。フランについては二人ほど大事だと思ってるわけじゃない。だけど、今回の事で奔走してくれて、気軽に話せる相手として、俺はフランのことも仲間だと思っている。フランがどう思ってるのかはまだ解らないけど。
俺はフランの方をそっと見る。すると目が合ったフランはくすりと笑い言った。
「さて、それじゃ、報酬を頂こうか」
「解った」
今回の件で散々働いてもらったしな。それは問題ないし、こっちにも利がある事だ。だから、俺はフランへ右手を差し出した。
「なるほど」
それを見てフランは頷きながら、その手を握ってくれた。今から俺がするのはフランとの契約である。そう、俺の黒の能力である魂魄契約だ。
まだ条件等を教えてないので、フランは疑わずに俺の右手を握ってくれた。多分、契約の証が出たらセラの契約印の位置についてあれこれ言われるだろうが、今解らなければ大丈夫だ。
今解ってたら絶対フランは自分も額にキスとか言い出しかねない。だがフランは男だ。男なのだ。握った手がめちゃくちゃ可愛らしくて柔らかくても男なのだ。
という訳で、俺は能力を発動する。その瞬間、フランの声が聞こえた。
キミの願いは必ずボクが果たす。
そんな力強い言葉が。それと同時にフランと繋がった感覚がした。契約は成功したようだ。だけど、今の声は。
フランの方を見るが、フランは自分の右手を見ていて気づかない。
「なるほど。触れたところに契約印が出るのか。いや、しかし、凄いなこれは。めちゃくちゃ強くなったのが自分で解るよ」
そこまで言ってからフランはようやく俺の視線に気づいた。
「ん? どうかしたかい?」
「いや……」
さっきの声の事に関しては気づいてない様子だ。セラの時にも聞こえたし、相手の強い想いが聞こえるのかもしれない。さっきのフランのキミという対象は明らかに俺へ向けられてなかったし、過去の事なのかもな。
まあ、今はいいか。それより、フランの能力を確認しよう。
そんな訳で俺は自然に二人目の契約者であるフランの能力を確認し、
「ふぁ!?」
その内容に思わず口から変な声が漏れたのだった。




