その頃のセラとフラン
「それじゃ、やってみて」
「はい」
フランに言われたセラはもう一度かざした右手へと集中する。自分の中にある魔力を注ぐイメージ。ここで重要なのはそのまま注いでしまっても相手に魔力を送るだけになってしまうという事だ。それもそれで需要はあるのだが、今やっているのは回復魔法の練習であり、注ぐ直前に生命力へと変換する必要がある。
意識を集中する。だがイメージというのは思いの他難しい。特に今回のような概念的なものであればなお更。だが、セラは元々固有能力で治癒が出来る。その為その感覚を応用すれば難しい事ではなかった。
「癒しの力よ」
短いながらもしっかりと詠唱する。そして、直後魔法が発動し淡い光が放たれた。数瞬後、セラの手元には傷のない綺麗な子供の皮膚があった。
「わー!」
治療をしてもらった少年は嬉しそうに立ち上がると、セラへ笑顔でお礼を言った。
「ありがとう、お姉ちゃん!」
「うん。気をつけてね」
「はーい! じゃあねー!」
少年はセラへと手をぶんぶん振りながら走り去っていく。気をつけてと言った傍からのその行動にセラは少し苦笑するが、子供では致し方ない。かつて平和に過ごしていた頃にいた弟も今の少年と似たようなものだった。
「ふむ。合格だよセラ」
「ありがとうございます」
フランの言葉に嬉しそうに笑うセラ。二人は今、魔法の修行の休憩中であり、気分転換に散歩をしているところだった。そこで偶然転んで怪我をした少年を見つけ、ここぞとばかりに授業に利用させてもらったのだった。
何せ回復魔法は怪我をした相手でなければ効果を実感できない。当初フランは自分の腕を切っては治してを繰り返そうとしていたのだが、セラが全力で拒絶した。心の優しいセラにとってそれは許容できる内容ではなかったのだ。
「まあ、回復魔法については後はもうひたすら慣れるしかないね。呼吸するように自然に発動できるようになれば一人前だ」
「はい」
「それより問題は攻撃魔法だね」
「はい……」
そう。セラは今そこで行き詰っていたのだった。ここ三日でセラが習得した魔法は、回復魔法と防御魔法と便利魔法だけである。理由はセラの優しさにあった。相手を傷つけるというイメージを上手くもてないセラは攻撃魔法を上手く発動できないのだ。
そこで行き詰ってしまったために二人は今気分転換に散歩をしていたのだ。まあ、その件についてはフランの中では既に答えが出ていた。そして、先ほどの一件でセラも落ち着いたようだと判断したフランはセラへと言葉をかけた。
「まあ、攻撃魔法は諦めようか」
「え!?」
「苦手な事を無理にやる必要は無いよ」
「でも!」
フランの言葉にセラは焦りを隠せない。やっと、仲間の役に立てるようになると思ったのだ。今までずっと守られてばかりだったのだから、今度は自分が守りたい。それはユーリと出会ってからずっとセラが抱えていた悩みであった。だけど、フランはそれをばっさりと切り捨てる。
「適材適所だよ。セラはセラにしかできない事をやればいい」
「私にしかできない事?」
「うん」
言いながら内心フランは苦笑する。フランは今セラにしか出来ない事をやればいいと言ったが、セラは既にずっとそれをし続けている。気づいていないのは本人だけだ。だが、フランはその事をセラには言わない。
何故なら言ったところで届かないと解っているからだ。それは信頼を築いた相手からの言葉か、時間をかけてゆっくり解決していく問題であり、この間パーティに入ったばかりのフランではどうしようもない事だ。
「いつかキミにしかできない何かが訪れるよ。その時にキミはキミのできることをすればいい」
まあ、すぐ来るけどね。とは流石に言わない。フランは占いによってこの後一悶着起こることを知っている。そして、その解決にはセラが必要不可欠だという事も。
「まあ、だから今はできる事をやろう。差し当たっては今使える魔法を自由自在に操れるぐらいにならないとね」
「解りました」
まだ完全に納得したわけでは無いがセラは頷いた。ユーリやアリアの役に立つために、少しでもできる事を増やしておきたいからだ。
そうして、休憩を終えた二人は再び魔法の練習を再開したのだった。




