フランの目的
「はぁ、はぁ……」
荒い息を吐きながら俺は爆心地へと近づいていく。魔法を使えない俺はさっき初めて魔力を使ったわけだが、半分に抑えたというのに自分の中の何かがごっそり消えたのが解った。半分でも結構な量だったのでそう感じたんだろうが、そこそこ疲労感もある。
これ全部つぎ込んでたら倒れてたかもしれないなーと自分の英断を褒め称えつつ爆心地に到着する俺。土煙の晴れた結構なクレーターのその真ん中にボロボロのフランが横たわっていた。
ボロボロだけど命に別状はなさそうだ。両腕は結構痛そうな感じになってるが、本人の意識はあり、加えてその表情は苦笑なので何ていうかまだ余裕はありそうだ。流石にこれ以上戦う気はなさそうだが。
「いやー、まいったね。ここまでとは想定外だった」
俺に向かってにこやかにそんな事を言うフラン。
「悪かったな」
その態度にすっかり毒気を抜かれた俺はそんな返ししか出来ない。
まあ、殺されかけたわけでもないしな。多分、フランが殺す気だったら、俺は今生きていないだろう。もちろん俺じゃなかったら死んでたって攻撃ばっかりだったが、逆に言うとそれ以上の攻撃はしてこなかった。その辺の匙加減をどうやって決めてたのかは解らんけどな。
「ふふ、今のはポイント高いね。現状を正確に理解して、その言葉とは。ボクに止めを刺さなくてもいいのかい?」
「それはこの後決める」
「そうか」
相手に殺意がなかったのと許すかどうかってのはまた別問題だ。その前に俺は確認しなければならない事がある。
「何で俺が生まれたてだって知ってたんだ? それに、何で俺は二つ目の能力が使える」
「うん。まあ勝者の当然の権利だし、元々話す気で居たから答えよう。前者は占い。後者は知らない」
「占い?」
いきなり胡散臭くなったなと一瞬思う。だが、ここは日本ではない。魔法がある世界の占いならば的中率なんかも凄いのかもしれない。俺のその考えを裏付けるようにフランは言葉を続けた。
「ボクの占いは特別性でね。対象を名指し指定できない代わりに、その対象にトレーサーをつける事が出来る。そして、つい最近になって反応が現れたから生まれたてなんだと思ったのさ」
「この姿なのにか?」
「うん。流石にそこはボクもびっくりした。だけど、ボクは自分の魔法を信じてるから。魔法が間違えていないなら、目の前の結果を受け入れるしかないでしょ?」
なるほど。まあ、大魔法使いなんて名乗ってるぐらいだし、魔法の自信は頷けるな。
「なるほど。で、もう一つの方だが」
「嘘じゃないよ。ボクはキミが二つ目の能力を使ったなんて知らなかった。てっきりボクみたいに髪色を変えてたのかと思ってたんだけどね」
「何?」
髪色を変える?
疑問に思った俺に論より証拠とばかりにフランが自身の髪を指差すと、赤かったフランの髪の色が変わっていく。そして、あっという間にその髪は白と黒と青の混色へと変わった。
「これが本来のボクの髪の色だよ。目立つし不意をつけるから普段は変えてるんだよね」
そう言っていたずらっぽく笑うフラン。っていうかその髪の色よりもなんで気がついたら手の怪我が治ってるのかそっちの方が気になるわ。全く油断も隙もない。
「しかし、まさか二つ目の能力だったとはね。たいした赤系の能力だし、キミの生まれはよっぽど特殊なんだね」
「……で、結局俺の何を確認したかったんだ?」
自分の生まれをフランに言うべきか一瞬悩んだ。だけど、よく考えればフランの目的は解らないままだ。なら、判断はそれを確認した後でもいいだろう。他にも聞きたいことは色々あるが。
俺のその質問は今回のフランの行動の核心をついたものだった。いったいフランはどういう条件で占い、俺がそれに当てはまったのか。
フランは俺のその言葉を聞くと、それまでの笑顔をすっと消し、そして佇まいを正した。
そして、いきなりの事に身構える俺の前ですっと跪き、言った。
「確認したかったのは資質。そして、ボクはキミにそれがあると確信した」
そこで言葉を切り俺と目線を合わせるフラン。その表情は真剣で、初めて見るフランのその表情に引き込まれそうになる。そんな俺の内面を知ってか知らずか、フランはそのまま俺へと告げた。
「ユーリ、混色の王にならないか?」
「はい?」
予想外のフランの言葉に、俺は間抜けにもそんな風に聞き返すことしか出来なかった。




