大賢者フランキヌス
「仲間?」
「うん」
聞き返したアリアに笑顔のまま頷く少女。だが、その笑顔が今の俺たちにはとても胡散臭く見えた。
黒き腕の差し金か、それとも混色である俺たちを利用しようという魂胆か。どうせ、そんなところだろう。程度の差はあれその認識は俺たち三人の共通認識だった。
そんな俺たちの思いを知ってか知らずか、少女は言葉を続ける。
「ああ、ボクはフランって言うんだ。今は食事中だろうし、詳しい話は食事が終わってからでいいよ。この町の北にある街道で待ってる」
そう言って、俺たちの返事も待たずに去っていくフラン。その背中が店の中から消えるまで見送った後、最初に口を開いたのはアリアだった。
「罠ね」
「だろうな」
俺とセラも頷く。頷くが、俺はどこか釈然としないものを感じていた。罠だとは思う。指定した場所が人気のないところだという事も含めて怪しい。だけど、怪しすぎる。
こんなあからさまな罠で俺たちが怪しまないと本気で思っているなら、そいつの頭はかなりお花畑だと思う。それにフランの言葉に俺は悪意を感じなかった。
俺はこの身体になってから悪意と敵意には敏感になっている。と言っても今まで俺たちを騙そうと近づいてきた奴は生憎居なかったし、戦ったジンからも悪意や敵意は感じなかったので、サンプルケースが少なすぎるってのはあるが。
しかし、どうしたものか。罠であるなら相手がフラン一人とは考えがたい。伏兵のことも考えると、防御能力を手に入れたとはいえ、セラとアリアを連れて行くのは得策ではない。
かといって俺が一人で行ってる間に、二人の方へと別働隊が来ないとは限らない。いや、でも流石に宿の中に居れば安全か? 人が多いところで騒ぎを起こすのは流石に相手にとってもリスクが高いはずだし。
という事はそれを見越して俺一人が狙いという可能性もあるのか? うーむ、解らん。解らんが、仮に罠じゃなかった場合待ちぼうけというのも可哀想だな。
「よし、決めた」
「どうするの?」
「俺が一人で行ってみる。二人は部屋で警戒していてくれ」
「解った」
「はい」
俺の言葉に二人が頷く。二人ともジンの時みたいになれば足手まといになる事を解っているのだろう。ジンは俺との戦いにしか興味がなかったからよかったが、今回の相手がそうである可能性のほうが低いだろうしな。
行動を決めた俺たちは中断していた食事を早々に終わらせ、二手に分かれた。
「気をつけてください」
「油断はしないようにね」
「ああ、そっちもな」
という訳で俺は早速待ち合わせ場所へと向かった。だが、そのまま真っ直ぐ向かったわけではない。西側から大回りするようにしてわざと遠回りで行った。相手は俺が南からくると思っているだろうし、伏兵が居るなら逆にこっちが奇襲してやろうという魂胆だ。俺だって脳筋だが馬鹿ではないのだ。
そんな感じで待ち合わせ場所の西側へとついた俺。まだだいぶ距離があるがこの身体の視力と暗視があれば相手を発見するのは容易い。という訳で早速気配を探ったわけだが。
どういうことかいるのは一人だけだ。それも間違いなくフランだろう。自分の気配を隠しもせずフランが悠然と立っているだけ。
という事はジンみたいに一人で行動するタイプなのか? うーむ、解らん。だが、ジンの時とは違いこっちは今回俺一人。逃げようと思えば簡単に逃げられるはずだ。
流石に身を隠せる場所が無いのでこれ以上隠れて接近するのは無理だ。なので俺はとりあえず、普通にフランへと歩み寄った。途中で俺の姿に気づいたフランは、相変わらず構えもせず俺が近づいてくるのを待っている。
そして、何も起こらないまま俺は普通に会話が可能な距離までフランの近くへとやってきた。
「よう」
「やあ」
とりあえず、挨拶する俺にフランも挨拶を返してくる。そして、俺の方を少し確認して言った。
「二人は置いてきたんだね」
「ああ。何か問題があるか?」
「いや、ボクも話があるのはキミにだから」
やはりジンみたいな戦闘狂タイプなのか?
思わず身構える俺を見てフランはくすりと笑って、とんでもない事を言ってきた。
「まずは自己紹介を。ボクの名前はフランキヌス。普段はフランで通してるけど、フルで名乗ったらみんな知ってるぐらいの有名人なんだ。この間生まれたばかりのキミには解らないと思うけど」
「なっ」
フランの言葉に衝撃を受ける俺。何でこいつがその事を知っているんだ。だが、素直に驚き続けている余裕もない。フランはそのまま続ける。
「警戒してるね。その方がボクにとっても都合がいい。ボクは君を確かめに来た。だから、さあ、構えて」
「何を」
「構えてとボクは言ったよ」
言葉と同時に悪寒を感じた俺は咄嗟に身体を横へと傾けた。その瞬間、さっきまで俺の胴体があった場所を赤い光線が貫いた。
その光線はそのまま飛んでいき、直線上に偶然存在していた木に当たり、そして、そのまま消え去った。恐らく消えたのは射程距離の問題だ。何故なら木に当たったその光線の威力はまったく衰えを見せず、そのまま綺麗に貫通痕を残して消えたのだから。
その威力に戦慄している俺に、赤く目を輝かせながらフランは言う。
「ボクはフランキヌス。エレメンタルマスター、ワイズマンなんて呼ぶ人も居るけど。まあ要するに大魔法使いだよ」
そして、俺の初めての魔法使いとの戦いが始まったのだった。




