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元空手マンの異世界転生録  作者: 間宮緋色
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アリアの理由

 アリアは少し焦っていた。目の前にいるのは実に二十人以上のゴブリンで更にそのうち数名が上位種であるホブゴブリンだった。

 アリアの現在の能力で一度に複製できる魔剣の数は三十二。一人一撃の計算なら持つが、万全を期すためなら一人に二本は欲しい。それに加えてホブゴブリンには二本ですら確殺は怪しい。

 それだけなら問題はなかった。アリアの能力は完全に後衛向きだが、スカウトとして冒険者として前衛能力が無いわけではないのだ。背中に背負った宝物だって使いこなすとまではいかないが、きちんと扱う事はできる。

 アリアにとって誤算だったのは今、自分の後ろにセラがいることだ。いや、相手の数がもっと少なければ、ホブゴブリンが混ざっていなければ、守るべき対象がいなければ。どれか一つでもそうでなければ問題がなかったそれが、偶然にも今アリアを追い詰めているのである。

 ゴブリンたちは一応統制が取れているようだが、アリアたちの姿を見て明らかに殺気立っていて、話し合いはできそうにない。ユーリが入って少ししてからの事なので出てくるのにはもう少し時間がかかるだろう。

 セラを逃がすのも不可能だ。アリアたちは囲まれているし背後の洞窟に明かりなしで入ったところですぐさま追いつかれるだろう。

 アリアが行動を決めあぐね迷っている間にも時間は進んでいく。そして、当然ゴブリンたちはすぐさま行動を開始した。

 敵の行動は全員突撃。これでまた一つアリアは不利になる。半数以下で様子見をしてくれればその間に数を減らす事が出来たのだが。

「セラ! 私の後ろから出ないで!」

 返事を聞く余裕もない。アリアは自分が今複製できる最大数で、尚且つゴブリンに少しでも効きそうな特殊効果を持った魔剣を相手に放つ。空を裂き相手へと向かっていくそれは次々に相手へと命中する。だが、やはりアリアの不安は正しく、何人かは撃ちもらし、更にホブゴブリンにいたっては無傷が二人。考えうる限り最悪のパターンである。

 しかし、それでもアリアは自分にできる事をやるしかない。背中に背負っていた大剣を手にアリアは構えた。その魔剣の銘はベリト。アリアは知らない事だが、ある世界に存在するソロモン七十二柱の魔神の一柱である地獄の公爵の名前である。

 付与された能力はたった一つ。斬撃の複写。この剣における傷は例えかすり傷だろうとその能力により大きくなる。普通に命中すればまずその部位を斬り飛ばす事が出来る。

 だが、それは命中すればの話だ。アリアは魔剣使いであって剣士では無い。最初に襲いかかってきた撃ちもらしたゴブリンたちはその能力により、あっさりと屠られた。次に残ったホブゴブリンのうち一人も、受けた武器ごと破壊しそのまま首を斬り飛ばす。

 しかし、最後に残ったホブゴブリンはその斬撃を避けた。目の前で死んだ仲間の様子から、詳細は解らずとも触れればアウトだと気づいたのだろう。そして、この至近距離ではもう魔剣の複製も間に合わない。

 死が目前に迫ったアリアの脳裏をよぎったのは諦めより、無念だった。

 アリアも自身の性癖がおかしいのは自覚していた。通常であれば人が異性に恋するように、アリアは刃に恋をした。その趣味は誰にも理解されず、すぐにアリアは孤立した。家を出て冒険者になってもそれは変わらず、近づいてくるのは邪な考えを持った奴らばかり。それに辟易し、思いっきり撃退したら、誰にも声をかけられなくなった。

 そして、一人アリアは引きこもった。別にそれでいいと思った。自分はこの世界で一人、このまま朽ちていくのだろうと。そんな時にアリアは二人とであったのだ。

 まるで一振りの刀のように鋭利なユーリ。自分を心から慕ってくれているセラ。二人との出会いはアリアにとっての救いだった。

 確かに二人がアリアに会いに来たのはスカウト役を欲しての事だった。だが、二人は一度だってアリアを利用しようとはしなかった。

 アリアがどれだけ自分をさらけ出しても、その趣味を理解できないと思っても、ユーリもセラもそれがアリアだと受け入れてくれた。

 だからアリアはジンに襲撃され、二人の事情を知った時にも、縁を切ろうとは思わなかった。あの時アリアがいった言葉は嘘ではない。もう、そこに至る間での短い時間の中で、アリアは二人の事が好きになっていたのである。

 もっと二人と一緒に居たかった。けれど自分はここまでのようだ。だから、せめてセラだけは助けよう。

 そんな決意と共にアリアは自身の背後に魔剣の複製を開始した。自分を殺し隙が出来た相手へと自分ごと最後の魔剣を叩き込むために。

「あーあ」

 刹那アリアの口から漏れたのはそんな言葉だった。本当に残念だと、最後に二人の顔を思い浮かべ、

楽園創造イデアル!」

 聞こえてきたのはセラの声。それと同時にアリアへと迫っていた相手の武器が弾かれる。何が起きたのかは解らない。けれど、セラが自分を助けてくれたのは解る。

「ありがと!」

 だからアリアはいつものように偽りのない感謝をセラへと述べ、そして、体勢を崩している最後の相手の首を刎ねたのだった。

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