状況整理
「さて、それじゃ改めて話してもらうわよ」
あの後、とりあえずリオネルに帰還した俺たちは、そのまま宿に戻り、改めて状況を確認する事にした。街の中なら街道よりは断然安心だが、今は優先すべき事があるという事で夕食は後回しにし、とりあえず、三人が席に着くのと同時に開口一番のアリアの言葉がそれだった。
まあ、無理もない。アリアは今回完全に巻き込まれた形であり、パーティを抜けると言われても不思議じゃないのだ。だから、俺はセラと出会った時の事を包み隠さず全て話した。
セラが奴隷商人から逃げていた事。そのうちの一人をうっかり殺してしまった事。セラの出身がバンホルトに滅ぼされた黒魔族の国である事。俺の身体の事は話していないのでうっかり殺してしまったのところでアリアはちょっと変な顔をしたが追求してくることはなかった。
そして、全て聞き終えたアリアは一息ついた後に言った。
「だいたい解ったわ。とりあえず、明日リオネルを出ましょう」
「何か解ったのか?」
「そうね。それじゃ、こっちも話しておこうかしら。まず、セラを追ってた連中だけど、これは解らない。単純に情報が少なすぎるわ。ただまあ、間違いなく帝国に拠点がある奴らでしょうし、そうなると大きな組織である可能性も普通にあるわ」
「ああ」
「それとは別に私が知ってるのは、さっき襲い掛かってきたジンって奴。名前と戦い方で思い出したけど、赤青の剣鬼って呼ばれる便利屋よ。強者と戦うのが好きな戦闘狂で、引き受けるのはそういう類のものばっか。でもその実力は見たとおり本物よ。おまけにさっきアストラルに至ったわね。能力は五体武器化。自身の身体を剣へと変え、更に自身の気や魔力を剣にして撃ち出すって力」
思い出すのは先ほどの死闘。お互い生きてるし数分程度の戦闘だったが、俺にとっては充分に死闘だった。身の危険を感じた戦闘も初めてだったしな。それにあの能力。攻防一体で遠近両方対応できるかなりの強さだ。多分、かなり成長してるのだろう。
「それで、ジンは仕事を下りるって言ってたから次が来る可能性は高いわ。それも近日中に。なら、帝国から離れたほうが安全でしょ。というわけで王国に向かいましょう。なんなら、そこから海に出て東方大陸に向かってもいいわね」
「一ついいか?」
「何?」
「アリアはついてくるのか?」
「当たり前でしょ」
俺としては割りと覚悟しての確認だったのだが、アリアは何をいまさらと言う感じであっさりと頷いた。
「いいんですか?」
聞き返したのはセラだ。一緒にいたいと思う反面、自分の所為で迷惑をかけたくないという気持ちもあるのだろう。そんなセラの気持ちがわかっているのだろう。アリアは(アリアにしては珍しく)優しげな笑みを浮かべてセラの頭を撫でた。
「いいのよ。まだ会ってからちょっとしかたってないけど、私はセラもユーリも好きだから」
「アリアさん……」
「ほらほら、泣かないの」
苦笑しながらセラの涙をぬぐってやるアリア。何か今アリアの株が上がったな俺の中で。まあ、口には出さないけど。
だが、とりあえず、話し合いは一段落ついたといっていいだろう。今後の方針もアリアの行動も決まったしな。なので俺は、不自然にならないようにいたって普通を装って探りを入れることにした。
「そう言えば確認してなかったけど、セラは魔族なんだよな?」
「? そうですけど」
不思議そうに俺を見てくるセラ。何を今更って感じなのだろう。
「アリアは人間?」
「そうね。急にどうしたの?」
俺の言葉にちょっと不審げに俺を見てくるアリア。あー、やっぱタイミングおかしかったかな。
「いや、ちょっと確認しただけ」
腹芸の苦手な俺にはそんな返ししか出来ない。まあ、ちょっと不思議に思われるだろうが、流石に俺が実は生まれたときからこの身体で、ついでに生まれて一週間ぐらいしかたってない転生者だとは解らないだろう。っていうか解ったら怖い。
しかし、やっぱりそうなのか。セラは生身でも魔族。アリアは生身で人間。俺の中にある知識と食い違いが発生している。これは一体何を意味しているのだろうか。
一瞬、打ち明けてしまおうかと言う考えが浮かぶ。だけど、俺はなぜかその事にやっぱり躊躇ってしまう。まあ、転生者ってどう説明しろって話だし。
とりあえず、落ち着いたら隙を見てその辺の知識との食い違いを直していかないとな。
「明日出発するとしてギルドには挨拶に行ったほうがいいかな?」
「いいんじゃない? 行き先は言わないほうがいいだろうけど」
「解った。それじゃ、今日は疲れただろうしもう寝るか」
「そうね」
という感じで話し合いは終了になったのだった。
余談だが、その後アリアがもぞもぞし始めたので様子を伺っていると、どうも俺とジンの戦いを思い出して興奮していたようで、うわー変態だと俺の中で再びアリアの株が下がった。
一応変な事はしてないようだったが、セラの教育にも悪いし、拳骨を一発落として落ち着かせたのだが、次に宿を取るときはアリアだけ別の部屋にしたほうがいいのかもしれないと俺は割りと本気で思ったのだった。