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元空手マンの異世界転生録  作者: 間宮緋色
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決着と混乱

 拮抗した力と力のぶつかり合い。初めてこの身体で本気を出したその威力は凄まじく、そして、ジンの力もまた恐ろしい威力を伴っていた。だから、その二つが至近距離でぶつかり合った当然の帰結として、俺とジンの右腕は消し飛んでいた。

「ユーリさん!」

「ユーリ!」

 後ろで見ていた二人が俺の名前を呼んだ。気持ちは解る。仲間の腕が吹き飛んだんだ。穏やかじゃないだろうし、心配もする。実際、痛みに耐性があるこの身体ですらめちゃくちゃ痛い。だが、俺は魔族でありこの身体はアストラルで構成されている。だから、俺が消し飛んだはずの右腕に集中すると、光のようなものが集まり、右腕は元通りになった。再構成という奴だ。

 もちろん消耗があるし代償は少なくないが、右腕がなくなることに比べれば些細な事だ。

「ユーリ、あんた……」

 後ろからそんなアリアの驚いた声が聞こえた。どうやら、アリアは俺のことを人間だと思ってたみたいだ。だけど、その話は後でいい。俺は同じく右腕の吹き飛んでいるジンへと目を向けた。

 いくらジンが強かろうと、その身体は生身であり、これで形勢は完全に俺へと傾いた。

「俺の勝ちだ」

 だから、俺はそう宣言する事で、戦いを終わらせようとした。殺してもいいとは思ったが、殺さずにすむならそれに越した事は無い。

「ちっ、マジかよ……」

 ジンは再構成された俺の右腕を見て忌々しそうに舌打ちをした。だけど、その直後、再びふてぶてしく笑った。

「いや、今なら出来る気がするなぁ」

「?」

 何だ? まだ奥の手があるのか?

 そう思って再び戦闘態勢をとった俺の目の前で、信じられない事が起こった。

「あぁああああああああ!!」

 気迫を込め雄叫びを上げるジン。その右腕が、元通りになっていく。いや、元通りどころじゃない。生身だったその腕は完全にアストラルで構成されている。再構成した箇所だけだが、ジンは生身をアストラルへと置き換えたのだ。

 意味が解らない。アストラルで身体を構成するのは魔族だけじゃなかったのか? 目の前のジンは人間じゃないのか?

 頭の中にある知識との矛盾に混乱する俺。だが、ジンはその隙に襲い掛かってくることはしなかった。

「ははっ、流石に消耗が激しいな。おい、ユーリ。今回はここまでだ」

「何?」

「俺はこの仕事は降りる。その代わりに見逃せや」

「それが通ると思ってんの?」

 答えたのは俺じゃなくてアリアだ。だが、その返しも考えていたのだろうジンはあっさりと言葉を返す。

「いいのか? その場合俺は確かにユーリにやられるだろうが、その間にお前ら二人は殺せるぜ?」

「ちっ」

 ジンの言葉は真実であり、それをアリアも解っていたのだろう。だからそれ以上食い下がることはせずに、舌打ちだけしてアリアは黙った。

 そう、最初からジンはやろうと思えば俺をスルーして後ろの二人を狙うことも出来た。それをしなかったのは、単純にジンの目的が戦いを楽しむためだったからだろう。最初のアリアへの反撃は余計な手出しはするなという警告だ。

「って訳で、どうだ?」

 ジンが改めて俺に聞いてくる。ここで見逃せばジンはまたやってくるだろう。しかも今より強くなって。だが、俺も消耗しているし、二人を完全に守りきる自信もない。だから、俺はその要求を飲むしかなかった。

「行けよ」

「ありがとよ。じゃ、またな」

 俺の言葉を受けたジンはそう言って、懐から取り出したスクロールを使用した。恐らく拠点帰還用の使い捨てのアイテムだろうそれは数秒で効果を発揮し、ジンの姿はその場で掻き消えた。

「ふぅ……」

 俺は周囲に気配が無いことを確認して、ようやく肩の力を抜いた。それと同時に、背中に衝撃。

「ユーリさん!」

 俺の名前を呼びながら抱きついてきたセラは、よっぽど怖かったのだろう涙目で震えていた。だから、俺は少しでも落ち着くようにとその頭を撫でてあげた。

「やばかったわね、あいつ」

 そう言いながらアリアも若干ほっとした様子を見せながら近づいてきた。

「確かに……正直やばかった」

「見てて冷や冷やしたわよ。あんたの右腕が消し飛んだ時とか特に。しかし、強い強いとは思ってたけど、まさかアストラルに至ってたとわね」

 その言葉を受けて、俺も先ほどの疑問がぶり返してきた。

「その言い方だとまるで強くなったらアストラルになれるみたいに聞こえるぞ」

 だから、俺はそんな風に返した後、自分の発言と、アリアとセラからの視線でその事に気づいた。

 考えもしなかったことだ。何故ならそれは、最初から常識として俺の頭に詰め込まれていたのだから。

 先ほどの光景を思い出す。生身だった右腕を再構成したジン。アストラルに至るという表現を使ったアリア。つまり、間違っているのは俺の知識であり、その事実は俺に更なる混乱をもたらしたのだった。

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