表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
元空手マンの異世界転生録  作者: 間宮緋色
11/53

ダンジョンリベンジ

 あの後、アリアはギルドに俺たちのパーティに入る手続きをしに行き、ついでに今の家を引き払った。あんなに膨大な数の武器があるのだから大丈夫かと心配したのだが、アリアが抱いて寝ていた大剣以外は全部アリアの能力による複製品らしい。

 アリアの能力は魔剣の主(ブレードマスター)というらしく、その効果は刃のついた武器の複製と射出と鑑定。複製は一度覚えれば無限に行える。ただし複製は実物が無いと無理だし、今はアリアが言うところのAランクまでの武器しか複製できないらしい。

 そして、アリアが現在唯一所持している大剣はSSランクの魔剣らしく、まだ複製が出来ないから手放さなかったようだ。それ以外の奴は泣く泣く売り払ったらしい。借金こそないもののアリアも結構ピンチだったというわけだ。

 そんな訳でアリアも俺たちと同じ宿に拠点を移し、これを機にちょっと大きめの部屋に契約を変えた。少々値が張ったが変わりにベッドは四つで大浴場の使用許可もついている。これはアリアの主張であり、セラもその意見を支持していた。というか、アリアの奴上手くセラを懐柔したもんだ。イゴールの言ってた通り歳の近い同性ってのは大事なのかもな。

 まあ、そんな感じで俺たちは着実に準備を整え、前と同じダンジョンへとやってきた。リベンジである。ベースキャンプにつくと、アリアがいるからか(本人の有名度もそうだが背中に大剣を背負ってる)前以上に注目されたりしたが、やることは変わらない。俺たちは三人で魔方陣へと乗り、二回目のダンジョン探索が始まったのだった。


 俺たちが今回出たのは出口が一つしかない所謂行き止まりの部屋だった。今回の俺たちの隊列は、前方にアリア、中心に俺で後ろにセラだ。アリアが得意なのはロングレンジだがスカウト的に前にいてもらわなければ仕方ない。近接は俺がカバーに入ることでフォローすることになる。うーむ、もう一人ぐらい近接戦闘系が欲しいところだが、今は無いものねだりをしてもしょうがない。

 というわけで早速探索を始める俺たち。ちなみに今回からマッピングはセラが担当している。回復以外にも何かしたいと言われた結果である。戦闘はこっちに任せていただこう。

 そんな感じで始まった二度目のダンジョン探索だったが、思いのほか順調だった。俺の出番もないほどに。俺ほどではないにせよスカウト能力の高いアリアはその気配感知能力も高く、間合いに入るより先に敵を発見しては魔剣を文字通り雨のように降らせ戦闘終了という有様である。

 アリアによるとこのダンジョンで出る敵は主に獣系であり、遠距離攻撃も撃ってきてもミドルレンジのブレス系が大半な為、能力との相性が良いらしい。実際何体かであったモンスターは全員四速歩行だった。

「ほいっと」

 軽い感じで、三つ目の宝箱の罠を解除するアリア。その罠は俺たちが受けた例のアレだったらしいのだが、アリアはあっさりと宝箱を持ち上げて別の場所においてから普通に開けた。こうすることで宝箱を開けてもその反応が壁の方へといかなくなるらしい。もちろん、宝箱事態に罠がかかっていたら台無しであるため、改めて罠の感知能力の偉大さを思い知った俺とセラである。

「んー、これも外れっぽいなぁ」

 そう言ってアリアが取り出したのはポーションだ。ダンジョンの宝箱に入っているポーションには二種類あり、その違いはダンジョン内でしか効果を発揮する事がないか否かである。そして、外れとは所謂持って帰れない系のアイテムであり、このポーションもその類だったようだ。前二つの宝箱に入っていたのも同様のポーションだった。

 一応、今手に入れたのは疲労回復用のポーションらしく、回復役のいる俺たちのパーティでも一応使う用途があるので完全に外れというわけではない。だが、俺たちが求めているのは金である。

「ダンジョンってこんなもんなのか?」

 何てつい聞いてしまうのはやはり人間だった頃にやったゲームと比べてしまっているからだ。

「そりゃまだ三つ目だしそんな簡単に手に入るもんじゃないわよ」

「それもそうか」

「そそ。そんな簡単に稼げるならみんな冒険者やってるって話」

「だよなぁ」

「でも、アリアさんは凄いです。前の時は宝箱を開けた瞬間に矢が飛んできてユーリさん危なかったですから!」

「それは……よく生きてたな?」

「まあな」

 俺も死ぬかと思ったよマジで。

「んで、その時もポーションだったの?」

「ん? いや短剣が一本入ってただけだ」

 そう言えばあの短剣すっかり存在を忘れてたな。などと思いながら荷物から取り出してアリアに見せる。

「ほら、これ」

「んー、どれどれ?」

 アリアが鞘から短剣を引き抜く。そして、その刀身を見た瞬間、

「オホゥ!」

と、奇声を上げた。女の子が出していい声じゃない気がするが、アリアだしもういいや。っていうかアリアのこの反応は、

「何だ。お宝なのか?」

「お宝もお宝よ! これ、普通にAランクの魔剣だわ」

「なにぃ!?」

 マジかよ! アリアの能力基準だからいまいちよく解らんがAランクって響きだけで間違いなく値打ち物だってわかるこの安心感。流石だ。

「付与効果は斬撃強化と炎付与にリジェネ、それにアポート。売ったらかなりの値がつくこと間違い無しだわ。特にリジェネがやばいわね。これがついてるからどんなスタイルの奴が持ってても腐ることなんてないし、じゅるり……」

「おい、よだれよだれ」

「おっと」

 アリアに突っ込みを入れつつ、内心ガッツポーズをとる俺。マジか、目的もう達成してるじゃん。どれくらいかは解らんけどアリアのこの反応からしてしばらくは安泰っぽいし、よっしゃー!

「なんだよ。じゃあもう帰ってそれ売ろうぜ」

「え?」

「え?」

 何かアリアに凄い顔で見られたんだが、俺おかしな事言ったか?

「これを、売るの?」

「う、うん」

「反対反対、大反対!」

 俺の言葉に手を振り回して全身で遺憾の意を表明するアリア。えー、まあ若干そうなる気もしてたけどさー。だが、お前も金は無いって言ってたし、そもそもそれは俺とセラがゲットしたもんだからな?

 という事を俺が伝えようと口を開こうとすると、

「あの……」

 セラがおずおずと手を上げた。何か言いたい事があるようだ。

「どうした?」

「私も、売るのは反対です」

「なにぃ!?」

 なにぃ!? 思わず心の内でも外でも同じ反応をしてしまったぞ。それぐらいビックリした。だってセラはなるべく俺の機嫌を損なわないように今まで気を使い続けてきてたのだ。誰かに促されでもしない限り俺に反対するような事は言わなかった。そんなセラが……。

 うーむ、何か嬉しいな。それってやっぱり俺とセラの距離がちょっと縮まったってことで良いんだよな? もうそれだけで売る気はなくなったが、一応理由も聞くか。甘やかすのは良くないしな。血の繋がった妹はそれで結構な甘えん坊になってしまったのだ。

「セラは何で反対なんだ?」

「だって、それは、初めてユーリさんと二人で手に入れた思い出の品、だから……」

 後半になるごとに声が小さくなっていったがちゃんと最後まで言い切るセラ、なんだろう。娘の成長を見守るお父さんってこんな感じなのだろうか? 俺まだ二十歳未満だけど。

「解った。じゃあ、これはセラに上げよう」

「え?」

「ちゃんと無くさないようにな」

 俺はそう言ってアリアから短剣を取り上げると鞘にしまいなおしセラへと手渡した。セラは少し戸惑っていたが、それでもよっぽど嬉しかったのか、

「ありがとうございます!」

と言ってはにかむように笑った。その笑顔に俺も思わず笑みがこぼれる。

「これからも思った事はどんどん言って構わないからな」

 そう言って頭を撫でる俺に、

「ありがとうございます」

まだ硬い言葉ながらも頷くセラ。思えば、俺とセラはこの事をきっかけに本当の仲間になれたのかもしれない。もちろん、この時の俺はそこまで大げさな事は考えてなかったんだけどな。


 余談だが、アリアはこの後もしばらく俺に向かってぶーたれていたのだが、一応セラに渡すという事に関しては賛成の意を示していた。文句を言っていたのもまあ、いつもの自分を演じる照れ隠しみたいなものだったのだろう。多分。きっと。うん。

 そうだよね?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ