腐れ縁
珈琲とチョコレートを楽しみながらゆっくりする。そんな日が一ヶ月に一度ぐらいあってもいいと思う。だから明日はそんな日にしたい。
「ところで、どうしてお前はそこにいるの」
そう昨日思っていたのに朝起きたら親友が俺の部屋でゲームをしていた。
「いやさ、この前見て面白そうだったからどうしても」
「せめて事前に連絡ぐらいしろよ」
「一応したんだけどさ、俺が来たときお前寝てたし」
言われて携帯を確認すると確かに連絡は来ていた。ただ、もちろん寝ている時間だしそういう意味で事前に連絡しろと言ってるわけじゃない。
「俺が返事返してから来いよ」
「まーまーいいじゃないか。あ、鍵は大学のロッカーにあったやつ使ったから」
「確かにそこにあるって教えてあるけどさ」
何を言っても無駄なのはわかってる。別に嫌がってるわけじゃない。ただ、俺は構わないけど誰彼構わずこんなことをしているのかと思うと小言も増える。友だちを作っては喧嘩別れを繰り返すのを見ていると、親じゃないけれど心配になる。そんな奴だ。
「コーヒー飲むか?」
「安いやつでいいよ」
「高いやつなんか買ってないよ」
どうせコーヒーメーカーで淹れる奴だ。味が気に入れば安いやつで十分。あとは適当に甘いものがあればそれでいい。
「ありがと」
親友がゲームをするのを眺める。こいつはゲームがうまい。俺は多分ほとんどのゲームで負けるだろう。どうやらある程度のところまではすこし練習すれば簡単にこなせてしまうらしく、ルールを理解してあとは慣れだよといつも言っている。今やってるゲームも俺のほうがやってる時間は長いのに、こいつのほうが難易度が高くても先に進んでる。
というか、これネタバレなんだけどなー、と思ったけど言うのはやめておいた。楽しそうだし、水を差すのはよそう。
「なんか甘いものない?」
「ようかん」
「んー正直どう思う?」
「わりとあり」
「じゃあそれで」
コーヒーは意外と和菓子と合う。和菓子の中でもようかんは特に相性がいい。
「ん、いけるね」
コーヒーを飲み、ようかんを食べたら親友はまたゲームを始めた。俺はコーヒーを飲みながらそれを眺めるだけ。しばらく続けると中ボスらしきなにかが唸り声をあげて逃げていくのが見えた。あ、こいつまだ生きててさらに逃げるんだとか思いつつ、そこでセーブして電源を切ったのでさりげなくまだやってなかったんだけどなーと言っておいた。
「いや、知ってたけどね」
「そりゃないぜ」
「セーブデータ見ればわかるじゃん?お前のデータ4章って書いてあるし」
わかってるくせに先に進んでさらにそれを見せるとか、こいつ容赦ないな。
「そんで、もうやめるの?」
「お前も起きたし、きりが良いしもういいかな。ちなみに俺今日暇なんだけどお前は?」
「お前が暇なのは見ればわかるよ。そして俺も暇だ」
「じゃ、出かけますか」
ということで電車をつかって二駅移動して、多少歩いたらそこは和菓子喫茶とか言うところだった。
「この店この前友達と見かけてないわーって言って笑ってたんだけどさ、今朝コーヒーとようかんで思い出したわけよ」
「なるほどね。お前にしてはいい店選びじゃないかな」
朝コーヒー飲んだんだけどね。一日に何杯も飲むほどコーヒーが好きってわけじゃないんだけど。ま、こういう店で飲む珈琲と家でいれるコーヒーは別物だと思ってるしまぁいいか。
メニューにはブレンドの文字が。というか珈琲の選択肢はブレンドしかなかった。そのすがすがしさに心の中で拍手。どうせいつもブレンドだし。そしてフードメニューには軽食と数種類の和菓子。あとはソフトドリンク。裏にはセットメニューと大きく書かれていて、コーヒーと軽食、和菓子が付いて千円らしい。
「これでいいか」
「これでいいだろ」
二人して同じものを頼んだ。
そして歩いている間、電車に乗っている間から今に至るまで、親友はずっと何かしゃべり続けていた。俺はそれに少しの相槌をはさんだり短く自分の意見を伝えるだけで、あとはずっと彼の話を聞いているだけ。
たまに疲れないんだろうかと思っても、一切その気配は見られなかった。逆にしゃべらなくなった時が危ないのかもしれない。
「これ、サービスね」
店の店主らしき人が小皿に乗ったチョコレートのようなものを置いていった。若い人が来るのは珍しいから、ということらしい。ありがたく頂戴する。和菓子喫茶なのにチョコレート、とおもいきやコーヒー豆をチョコで包んだものだった。親友が食べた緑色の奴は抹茶チョコに小豆だったらしい。こう言うのもたまには悪くない。
「お前といるとこういうところに来ようって思えるからありがたいよ」
彼は漫画を描いていて、たびたびこんななんでもないようなことをネタにするらしい。今日は半分それが目的だったんだとか。こんなのと一緒に過ごした時間がそうやって役に立つのなら俺もうれしい。ぜひ頑張ってもらいたい。
そういえば結局ゆっくりと珈琲とチョコレート、というわけにはいかなかったなと思う。ただ、そうするよりもずっといい一日が送れた気がするからよしとするとしよう。ただ、今度からいろいろと先に言ってほしい。準備とかいろいろあるから。
と、ここまで書いて人のこと言えないよなと思う。俺だってこうやって小説にしているんだ。まだ彼には見せたことはないけれど、いつか見たときにうれしく思ってもらえたらいいと思う。