管理倉庫の番人? ファンキーお爺ちゃん登場~♪
「坊主共! その素材見せてみろ」
モル兄の驚愕を余所に、管理倉庫の受付らしき場所から、しゃがれてはいるが、張りのある男性の物らしき声が聞こえた。
お兄さんズを坊主と呼んだのは、受付カウンターから頭がやっと出るくらい小柄なお爺ちゃん。
黒のパンツに、赤い大輪の花が描かれたシャツ、深緑のベストを着て、黒い丸眼鏡に紫メッシュの白髪。
色鮮やかで、ちょっと奇抜な可愛らしさがあった。
「おや? トリ爺。お久し振りです」
「ん? なんじゃ、銀雷。お前さんも居ったのか。
ほら、坊主共。さっさと見せぃ」
お父さんがトリ爺と呼んだお爺ちゃんは、お父さんの存在を認識した直後に放置し、お兄さんズを急かします。
「ん」「どうぞ」
急かされつつも、素直に素材を差し出すお兄さんズは、良い人ですね。
お爺ちゃん、割りと態度が酷いと思いますが……。
まぁ、終始笑顔なので、態度というより、口が悪いのかな?
「ほぉ。状態は優良……これは、どうやって手に入れた?」
「? 普通に戦って勝った、戦利品」
「戦闘時に、抜けたり折れたのを貰いました」
「ブハッ! ワハハハハハハッ! マジか! 通りで、多少とはいえ、傷があるはずだわのぉ~。ククッ。
銀雷、お前さん、採取方までは教えとらんのか?」
素材をじっくり観察し、重さや固さ、傷の有無なんかを確かめたお爺ちゃんが、再びお兄さんズに尋ねます。
取得方法を聞いてるのかと思ったのか、お兄さんズが答えましたが、お爺ちゃんは爆笑。
お爺ちゃんが知りたかったのは、採取方法だったみたい。
戦闘時に抜けたり折れた爪や羽根は、大なり小なり破損があり、採取方法としては、いまいち。
羽根なら自然に抜けたもの、爪なら切り取ったものの方が、断然状態が良いので、巣まで行って回収するか、その場で切るのが良いんだって。
ラメル姉さんが教えてくれました。
ただし、グリフォンに勝利する事が前提条件で、爪の入手は相手を屈伏させることが必須らしいです。
「この子達は、剣士として弟子入りしましたからね。採取方なんかは、二の次になってますよ。
まぁ、僕の教え方は、実地実践が全てなので、“観て盗め”としか言ってません」
お父さんが苦笑気味にお兄さんズの修行内容を教え、お兄さんズが閥が悪そうに視線を逸らします。
「成る程のぉ。で? お前さんの納入分は?」
お爺ちゃんは、納得したのか、直ぐ様お父さんの持ってるグリフォン素材に興味を移し、早く寄越せと手を差し出します。
「ええと…爪がこれで…羽根がこれ。必要ならもう少し出せますよ?」
「ほぉほぉ。状態は、毎度の事ながら、最高じゃな。使わんのなら、持ってる分は全部出せ」
お父さんが取り出した素材を確認し、残りの分も早く出せと急かします。
言葉のやりとりだけを聞いていると、強奪されそうな強引さを受けるのに、お爺ちゃんの表情は常ににこやか。
満面の笑顔が眩しいです。
グリフォンの爪や羽根を見たのは初めてですが、爪は光沢があって艶々、羽根は色味は渋くとも濃淡が鮮やかで、とっても綺麗。
「ほぇ~、きれぇねぇ~」
あまりにも綺麗で、ついつい溜め息と共に可笑しな声が溢れました。
「ユナ? 欲しいのかい?」
私の呟きに、爪と羽根を1つずつ手にして、お父さんが手渡そうとしてくれました。
「ん~ん。いりゃない。いつゅか、じぶんでもらいにいく~♪」
駄目ですよ?
それは、お父さんが大変な思いをして採取してきた素材です。
娘といえど、タダであげちゃいけませんよ?
いえ、状況にもよりますが……。
切羽詰まった緊急時などなら兎も角、目的も無く欲しがった場合は、与えてはいけないと思います。
大丈夫!
欲しければ、必要になった時に、自力で取りに行きます!
ぁ、その時は、レグルス達に助力をお願いするつもりです。
一人で挑むのは、流石にちょっと恐いので……。
「嬢ちゃん、グリフォンは強いぞ? 自分で取るなら、AAランクくらいまで強くならなきゃいかん。大変じゃぞ?」
「? おはにゃし、できにゃい?」
お父さんの行動と私の声に、私やお姉ちゃん達の存在を認識したらしいお爺ちゃんが、採取がどれだけ大変かを、冒険者ランクを例にして教えてくれます。
はて?
グリフォンって、言葉は通じないのかな?
気性は荒くないと本で読んだのですが…。
「ん? ………まさか、話し合いで手に入れる気か!?」
「ぁい。ぶつゅぶつこぉかんしてもらいましゅ♪」
お爺ちゃんが、前提条件の食い違いに気が付き、唖然としています。
勿論、言葉が通じるのなら、争う必要なんてありませんよね♪
友好的な関係を築き、需要と供給を満たせば、細々とでも長く良いお付き合いが出来る筈。
魔物さんの爪や羽根は、私達の爪や髪と同じで、定期的に整えたり、自然と抜け落ちるものなので、いらない物が必ず塒にある筈です。
自分にとって不要な物と、欲しい物とを、お互いに交換出来るのは、とっても良い事ですよね♪
交換するのは、お菓子なんかじゃ、駄目かなぁ。
………。
ところで、びっくりしたままの、このお爺ちゃんは、誰なんでしょうね?
紹介ってされてませんよね?
ぁ、私も名乗ってません!
自己紹介しても、大丈夫でしょうか?
それとも、お父さんが紹介してくれるのを、待つべきですか?