お父さんの“うっかり”と、お兄さんズの“アイタタ”冒険者ランク事情。
「───ぅにゃむぅ~」
「ブハッ」
?
なんでしょう…誰かが吹き出した?
心地好い揺れと、温かな塊。
塊に抱き付いて、おでこをグリグリと擦り寄せます。
「むぅ~」
トクン…トクン…と、落ち着くリズムの音も聞こえます。
あぁ、そう言えば、睡魔と戦ってましたね。
私ってば、負けちゃったのかぁ…。
「…父様…ユナ、起きた…?」
「いや、寝言の様ですよ。可愛らしいですねぇ」
「あら、御父様。ユナが可愛いのは当たり前よ! 私達の妹で、御父様と御母様の娘だもの。
可愛くなかったら、嘘だと思うの」
「あ~、あたしも、そう思う。こんな可愛い存在、滅多にいないよな!」
「…ん…絶対、守る…」
「ね!」「だな!」
「ふふ。頼もしいお姉さん達だね」
「はぁ~。3人は、揃いも揃って、妹馬鹿だな」
「そう言う、エディもね」
遠くでお姉ちゃん達やお兄さんズの声がしてます。
温かくて安心できる此処で、ちょっとだけ寝ちゃいましょう。
起きたら……皆とお出掛けの……続きですね……楽し……み……くぅ。
*~*~*~*~*
目が覚めると、そこは管理倉庫でした。
お父さんの腕から、エディ兄さんに移される軽い衝撃で、眠りの深淵から、うっかり浮上してしまいました。
状況が分からず、ちょっと愚図ってしまいましたが、エディ兄さんに抱っこされて、あやされます。
軽く揺らされ、再度睡魔に襲撃されそうになりましたが、なんとか起きますよ。
あれから結局、皆揃って移動する事になり、部屋を出た所で、狐の獣人夫婦と別れたらしいです。
そのまま、一度解体作業場を通り、素材管理課のトップを交えて、今いる倉庫へとやって来たそう。
その間ずっと、私はお父さんの腕に抱っこされて爆睡。
途中、エディ兄さんが、私の寝言に静かに爆笑してたらしいです。
愚図る私に、後からシリウスが教えてくれました。
むぅ~。
ノルドさんとアナさんに、ちゃんとお別れ出来ませんでした…。
ギルドから出る時に、もう一度会えるかな?
エディ兄さんが爆笑する、私の寝言って……?
幾つか疑問はありますが、取引の邪魔はしちゃダメです。
大人しく待ちますよ~。
3歳児とはいえ、空気はちゃんと読めるのです!
……たまに、失敗しますけどね?
「───成る程。いいよ、言い値で売ろう。爪は5本、羽根は20本くらいなら持ってるよ」
「助かるわ~。グリフォンに勝てる冒険者ってAAからだし、それだってピンキリで、完全に供給不足だったのよ~」
「あれ? そんなに難しかったかな?」
「ん~、私達の全盛期より、最近は質が落ちた気がするわ。強い子が減ってるのよね…」
モル兄……全盛期って…。
まだまだ現役なのでは?
ギルド前の騒動の時の覇気は、普通に強者の物だと思うの。
「?………ぁ、エディ! クリス! 君達ランクってどうなってた?」
モル兄の言葉を聞いていたお父さんが、不思議そうに小首を傾げていたかと思えば、ふと何かを思い出したのか、お兄さんズを呼びました。
ランクの確認ですか?
そう言えば、お父さんがSランクだとは聞きましたが、お兄さんズのは聞いてませんでしたね。
修行中、お父さんに随行するには、冒険者としての身分が必要らしく、「登録はしてるぞ〈よ〉」と言ってましたが。
「へ? 俺はCランクから上げてないぜ?」
「僕もです」
おおっ! Cランク!
………って、あれ?
登録して3年はたってる筈なのに、まだ“半人前”なんですか?
BとAの間には、厚い壁が在るなどと云われてますが、「CからBに上がるのは、割りと簡単」だと、お母さんは言ってましたよ?
「師匠が一緒だと、どこでも“出入り自由”ですから、上げる必要性を感じませんよ…」
「あぁ、やっぱり。うっかりしてましたねぇ」
お父さん!?
お父さんが原因ですか!
「なぁに? あんたってば、弟子にランクアップ試験受けさせて無かったの!?」
「ええ。忘れてましたよ。手加減しているとはいえ、私に附いて来られるので、試験さえ受ければ、AAの実力はある筈なんですが…」
「はぁ!? AA!? って、ちょっと待って、あんたはここ最近のレベル低下を知らなかったのよね?
って事は、私達の全盛期時代のAAランクの実力!?
もしかして、貴方達もグリフォンの…「持ってるぞ〈ますよ〉?」………ホントなの!?」
呆れていたモル兄が、お父さんの台詞に、驚愕を隠せず叫びました。
お兄さんズを振り返り、恐る恐る尋ねるモル兄の台詞に、お兄さんズが被せるように肯定して、モル兄を再度驚かせてます。
「爪なら在るぜ」
「僕は羽根ですね」
それぞれが、腰に着けたウエストポーチから、巨大な爪や羽根を取り出して見せます。
お兄さんズも魔導鞄を持っていて、ウエストポーチとメッセンジャーバッグが、それに該当してます。
それにしても…でっかいですねぇ。
爪1つで、私の掌幾つ分でしょう?
両手でも持てるか、疑問です。
羽根なんか、私の半分くらい…。
下手をすれば、4分の3は在るかも…。
冒険者なのに、ランクアップを、忘却の彼方に放置する強者達……。
描写が分かり難いかもなので、補足説明。
お父さんは、自分の弟子達がある程度の実力を示していたので、他の冒険者の質には無頓着。
その上、自分が最高ランクに達しているため、ランクアップ試験が、頭からサックリ抜けてしまってた、天然のうっかりさんです。