晩ご飯のあとは? お風呂タイムは至福の時間♪ でも……
料理も出来たし、ワゴンに乗せて、“さぁ運ぶか”となって、またもや問題が………。
ワゴンが高くて、運べません‼
いや、そりゃそうだよね。
3歳児の身体に、通常サイズのワゴンじゃ、前が見えないし、押手が頭の上にある。
どうしようかな?
『ユナ? どうしましたか?』
「ぁ、シリウス。おりょうりできたけど、はこべないなぁって」
『ん? このワゴンを運ぶのですか?』
料理の匂いに惹かれたのか、ダイニングに留まっていた3匹のうち、面倒見の良いシリウスが、キッチン脇で固まった私を心配して、近付いて来てくれた。
3匹とも、料理中はキッチンには、立ち入り禁止を言い渡してました。
大きな身体のままだと、事故が起きかねないからね。
「うん。わたしがはこぼうと思ってたんだけど……。まえが見えない……」
『あぁ。では、私が運びましょう』
「! ありがとう~♪」
シリウスが、ワゴンの押手を啣えて、ゆっくりと料理を運んでくれる。
私は、マットをもって、少しだけ先行。
食卓の準備をしよう。
まずは、ダイニングテーブルの右端の床に、毛足の短いラグマット(小)を、ランチマットの代わりに、向かい合う様に2枚敷いた。
次は、テーブル。
1番出入り口に近い2席を使うつもりだけど、サイズはやっぱり大人用……。
どうするか………。
椅子に乗らなきゃ、テーブルに届かない。
取り敢えず、椅子を引こう。
ぁ、この椅子も、魔道具だ……。
じゃあ、大丈夫かな?
……………。
「ほにゃっ!」
椅子に触ったまま、考え込んでたら、いきなり身体が吊り上げられて、変な声が出た。
『これで、届きますか?』
「ふえぇ。びっくりした~」
ワゴンを運び終えたシリウスが、洋服の首の後ろ部分を啣えて、子犬か子猫みたいに持ち上げてくれたみたい。
椅子の上に、そっと下ろしてくれた。
無事に椅子に乗り、ランチマットを敷いて、カトラリーやグラスを準備。
滑り下りて、正面の席にも、同じ様に乗せてもらって、そこにもランチマットを敷く。
再び椅子を下りて、それぞれのマットの上に、シリウスが運んでくれた晩ご飯と、グラス代わりの水の入った深皿を並べます。
テーブルの上は、また椅子に乗せてもらって、ワゴンを寄せてもらいました♪
一緒にワゴンに乗せてた、お水のピッチャーも、準備万端。
「ん、よしっ! じゅんびオッケー。みんな、ごはんにしよう♪」
私の声に、様子を伺ってたレグルスとアルタイルが、縮小化して近付いて来る。
「なんで、小さくなったの?」
『元の姿より、小さい方が、腹いっぱい味わえるからな』
レグルスの言葉に、アルタイルも頷く。
シリウスも、ワゴンを壁際へと寄せてから、縮小化して戻って来た。
シリウスとレグルスの分は、床に用意しました!
椅子に座るのは、難しいよね……。
安定感が………。
アルタイルの分は、私の目の前の席に、縁から少し離して用意しました!
この位置なら、テーブルの上に直に乗って食べられるよね。
お行儀悪いかな? ………まぁ、いいか。
椅子に座って、魔力を込めると、テーブルの高さに合わせて、椅子の足が伸びた。
(おおっ! やっぱり、魔道具って凄い!)
「じゃあ、食べようか? かんしゃをこめて……いただきます!」
『『『いただきます?』』』
私にとって、当たり前の【いただきます】に、3匹が揃って首を傾げた。
「うん? “いのちをつなぐかて”になった、すべての生き物にかんしゃをつたえる言葉だよ? しらない?」
『知らない~。人族がフェリシア様に捧げる【食前の祈り】みたいなもの~?』
「あ、クラウディアにも、あるんだね。うん。前は、“みじかい言葉”に“つよい思いをこめる”っていうならわし? しゅうかん? があって、どこの家でも、親がしっかりしてれば、しつけの1番さいしょ、あいさつといっしょに教えられるみたい」
『そうなのですね。短い言葉に、多くの思いを込める。素敵な慣わしですね』
「ね♪」
『そうだな。俺達も、ユナに倣うか』
「じゃあ、もう一度。せ~のっ」
『『『「いただきます!」』』』
*~*~*~*~*
家族で食べた晩ご飯は、とっても美味しかった。
3匹も、それぞれに『美味しい』って誉めてくれた。
上手に出来て良かった♪
お母さんとも一緒に食べたかったな……。
……はっ! いけない、いけない。
落ち込んでちゃ駄目だよね。
会うことは出来ないけど、お話は出来るんだもん。
時刻は、20刻(午後8時)まで、あと20分程。
お片付けも終わったし、お風呂に入って、寝る準備をしましょう。
寝る前に、もう一度お母さんとお話するんです!
約束したもんね♪
*~*~*~*~*
お風呂のお湯は、魔法を使ってみました。
人生“初”です!
お水を溜めるのも、沸かすのも、一瞬だった。
使う度に興奮し、はしゃぐ私に、3匹は苦笑気味でした。
だって、魔法ですよ!?
はしゃぎたくなるのは、当たり前ですよね!?
落ち着いたところで、レッツお風呂です!
洗い場にあった石鹸は、泡立ちが良くて、匂いも優しい【牛乳石鹸】みたいだったし、洗髪剤は、カモミールの香りがした。
驚いたのは、リンス? というか、コンディショナー? まであったこと。これも、カモミールの香りだった。
あわあわモコモコになりながら、3匹を洗って、自分もさっぱりしてから、湯船に向かいます。
「ほわぁ~。きもちいい~♪」
桧の薫りに包まれながら、温かいお湯に浸かる。
至福です。
『良いお湯ですねぇ。ホッとします』
『確かに。いい湯だ』
『ね~。気持ちいい~♪』
3匹も、それぞれ専用風呂に浸かって、リラックス出来てるみたい。
………? あれ? 猫科って、水とかお湯キライじゃなかったっけ? 鳥って、水浴びはともかく、お湯に浸かるっけ?
あれ?
……………。
うん。まぁ、いいか。
皆は聖獣ダモンネ。
普通の動物と一緒にしちゃいけません。
「ふいぃ~。そろそろ上がらないと、のぼせちゃうねぇ~。わたし、そろそろ上がるね~」
3匹に声をかけて、その場で立ち上がります。
このお風呂は、思いのほか深さがあります。
水の無い状態で、1番低い場所に立つと、洗い場の床が、私の頭の上にくる。
泳ぎの練習が出来るね♪
……………。
壁に沿って、30セタくらいの高さの段差が、幅50セタくらいで2段あるので、1番上の段に居れば安心だけど、1段下りただけで……。
完全に溺れます……ね……。
……気を付けましょう!
………これって、所謂【フラグ】ってやつかな?
いやいや、気にしたら負けだ!
大丈夫、私は転ばない。転ばないったら、転ばない!
慎重に湯船から脱出し、無事お風呂から上がれました♪
頑張った、私!
*~*~*~*~*
お風呂に入る前に、【無限収納】から下着と寝間着を見付けておいたので、それに着替えて皆を待ちます。
(……皆は何処で寝るのかな?……)
脱衣場の壁際にあるソファセットのソファに身体を預け、近くに設置されていた小型冷蔵庫から持ち出した苺牛乳を、一緒に冷やされてたグラスに入れて、ちびちびと啜ります。
お風呂上がりの【イッキ飲み】には憧れるけど、お腹を壊すのが怖いので、牛乳イッキは回避します!
『良いお湯でした』
『湯浴みが、これ程気持ちいい物とはな』
『うん、うん。もうちょっと、浸かりたかったかも~♪』
「おつかれさま~♪」
皆が出てきたので、苺牛乳を啜るのを止めて、3匹を迎える。
『ユナ? 何を飲んでいるのですか?』
「ん? いちごぎゅーにゅー。おいしいよ? みんなものむ?」
『む。貰おう』『僕も飲む~♪』『私もいただきます』
「しゅるいがいろいろあったよ? どれがいい?」
『何があるの~?』
アルタイルに聞かれたので、答えるためにソファから滑り下りて、小型冷蔵庫に向かいます。
苺牛乳は、ソファセットのテーブルに置いてきます。
「え~と。ふつうのぎゅーにゅーと、いちごぎゅーにゅーと、こーひーぎゅーにゅー。フルーツぎゅーにゅーと、バナナミルク。まっちゃミルクに、りんごミルク。あとは、りょくちゃとむぎちゃと、なぜだかビール?」
お茶や、牛乳各種はいいけど、麦酒って……。
3歳児の飲み物ではないよね~。
誰が飲むの?
「どれがいい?」
『では、果汁牛乳をいただけますか?』
『俺は、珈琲牛乳』
『僕は、林檎ミルクがいい~♪』
リクエストされた3種類を、やっぱり一緒に冷やされてた深皿に用意する。
ソファセットのテーブルに、それぞれ乗せた。
ダイニングと違って、テーブルが低いから、大きい身体のままなら、床に置くより飲みやすそうだ。
皆が飲んでる間に、自分の分を飲み終え、風呂上がりの身体を拭いてあげようと、大判タオルを持って近づく。
シリウスの身体に触れたら、全然濡れてない。
「あれ? 濡れてない?」
『ユナ? どうしましたか?』
「シリウス、お風呂上がりなのに、何で濡れてないの?」
『あぁ。魔法で乾燥させたのですよ。ユナの髪も乾かしましょう』
『ああ、それなら、俺がやろう』
シリウスと話してたら、飲み終わったらしいレグルスが、参加してきた。
『風の魔法は、この中では、俺が1番得意だろ』
レグルスが言った途端、私の周りを暖かな風が取り巻いた。
優しくて、暖かい風が止むと、さっきまで水分を含んだままだった髪が、サラサラに乾いていた。
必要な水分はそのままなのか、艶が無くなる様な事はなく、この分なら“天使の輪”も健在だろう。
「すごいねぇ~♪」
『このくらい、慣れてしまえば、ユナなら簡単だ』
レグルスが、そっぽを向きながら、呟いた言葉に、嬉しさが込み上げる。
照れながらも、私のことを気にかけてくれる、レグルスの気持ちが本当に嬉しい。
「ありがとう、レグルス。こんど、わたしにも教えてね♪」
ちらりとこちらを見やり、そっぽを向いたまま、レグルスはちゃんと頷いてくれた。
さあ、お部屋に行って寝る前のお喋りだ!
おっと、その前にグラスと深皿を片付けて、洗濯物を運ばなきゃね。