悪者さんの運び方? これは真似してイイモノカシラ?
『ではな。さらばじゃ♪』
お出掛けの準備が整い、悪者さんの運搬準備も完了しました。
最終確認を済ませた所で、リムがふわりと浮き上がり、お別れの時が来ました。
「リム…」
「またね、リム」
う~。
昨夜が楽しかったせいで、お別れが寂しい~。
泣きますよ? 泣いて良いよね?
リム~、行っちゃ嫌だ~。
フォーレお姉ちゃん、サラッとお見送りしないでぇ~。
「おい? ユナ、泣きそうなんだが…」
『? どうした、ユナ?』
「リム~」
落ち込んでいたら、ラメル姉さんに指摘されました。
パタパタと翼を動かし、私と目線の合う高さまで降りて来てくれたリムに、ぎゅうっと抱き付きます。
また会えると知っていても、お別れは寂しいです。
「…ユナの泣き虫は、健在…」
「お別れが寂しくなってしまったかな?」
リュニベール姉様が呟き、お父さんが優しく頭を撫でてくれます。
図星を指された恥ずかしさを、リムに額を擦り付けて誤魔化します。
『なんじゃ。そんな事か。ユナ、確かに別れは寂しいが、一時の間じゃ。
新しい住処が出来たら、其方等を招こう。
待っておれ。
この場所に負けぬ様な、素晴らしい住処を見付け、自慢してやるのじゃ』
「ん。うん。まってりゅ。また、あえるよね? ずっと、さよならじゃないよね?」
あっけらかんと笑い飛ばすリムの言葉に、一生懸命気持ちを立て直しました。
『当たり前じゃ。ユナと我は、友達なのじゃろ?
互いの命が尽きるまで、ずっと、ず~っと、仲良しじゃ♪
そうじゃ! ユナ、コレをやろう』
私の腕から抜け出して、リムが魔法を行使しました。
瞳を閉じたリムの額に、柔らかで暖かな紅色の光が集まります。
光は小さく小さく収縮し、やがて小さな球体となり、具現化しました。
私の小指の爪サイズの紅色の石となったそれは、艶やかさと透明感が無ければ、木の実と勘違いしそうです。
『コレはな、我等竜族が使う、通信手段じゃ。人の子等が扱う、魔道具みたいな物じゃ♪
我がコレを人の子に与えるのは、ユナが初めてじゃぞ。
ほれ、コレを飲み込め。
さすれば、何処に居ても、互いの位置が分かる様になる。
暫くして、身体に馴染めば、距離を無視して念話も可能になるぞ♪』
掌に受け止めた紅色の石を、リムに促されるままに飲み込みます。
コクリと飲み込んだ筈なのに、喉を固形物が通る違和感がありません。
身体がふんわりと温かくなった辺りで、何と無く前方が気になる感覚が生まれました。
「? リム? なんかふしぎ……リムがいるの、わかる…」
『かかか。面白かろ? 竜族の同族感知の能力を、少量のみ譲渡したのじゃ。
我等は幼生であっても、群れはせぬ。
しかし、僅かなりとも、同族との繋がりはある。
親子の縁よりも、種族の縁の強い我等じゃ。
互いの位置くらいは、感知しておるのよ。
我等は独立する際に、長より今の様に玉を頂く。
長だけが、我等総ての竜族と繋がっておるのじゃ───…代替わりの際は、面倒じゃがのぉ…』
楽しげに笑い、リムがクルリと私の周りを回った。
ん?
最後が聞き取れなかった…。
なんて言ったのかな?
『かかか。気にするな。さて、そろそろ我は行く。達者でのぉ。また、会おうぞ♪』
疑問を浮かべていた私に、楽しげな雰囲気だけを残して、リムは問答無用で旅立ちました。
「ま・た・ね~! げんきでいてね~」
お父さんの腕の中、遠ざかるリムの背中に、精一杯の気持ちを込めて叫びます。
声が届いたのか、リムが微かに振り返ったのが分かりました。
見えるかは分かりませんが、見えると信じて、思いっきり手を振ります。
──キュアァァァァァ。
柔らかくて優しい、ドラゴンの咆哮が響き渡り、泣きそうだった昂った気持ちが、静かに凪いでいきます。
後に残ったのは、清々しいまでに澄んだ空気。
「さて、私達も出発しようか」
気持ちを切り替える様に、お父さんが宣言します。
そうですね。
こんな空気の中で落ち込むなんて、この雰囲気を作ってくれたリムに、失礼ですね!
寂しくはありますが、次に会えた時の為にも、笑顔で過ごして、沢山お話しの種を集めましょう♪
次に会えた時は、夜通しお喋りするのも良いかも知れません。
楽しみは、まだまだいっぱい有りますね♪
*~*~*~*~*
「……おとぉさん…いいの? あれ……」
私はお父さんを振り仰ぎ、後ろを視線で示します。
「ん? 何か問題あるかい?」
いや…。
問題しかない気が…。
レグルスの背中に、お姉ちゃん・私・お父さん・姉さん・姉様の順番で騎乗して、街に向かって移動中です。
重量オーバーでは? 等と思ってましたが、レグルスはびくともしません。
レグルスが動けなくなる重さって、どのくらいなのかなぁ。
まぁ、それは兎も角。
今、私が気にしているのは、その後ろ。
お兄さんズを乗せたシリウスです。
前に乗るエディ兄さんは左手に、後ろに乗るクリスお兄ちゃんは右手に、それぞれ蔦を握ってます。
その蔦の先には…。
───悪者さん達が、阿鼻叫喚の様相を成してます……。
………。
うん。
地面スレスレを、浮遊したまま、引き摺られるとか、恐怖でしかないよね?
お父さんてば、容赦無いなぁ。