始まりに続く祈り…。『笑顔でいてね』
決めるべき事は決めましたし、あとは彼等を紹介しましょうか。
私は召喚の鐘を手にして、軽く振る。
手のひらサイズのそれは、空気を浄きよめる様な、澄みきった音を響かせます。
リ───ンッ
澄んだ音が草原全体に響き、少し離れた場所に、3つの魔力塊が召喚された。
ガサッ! ガサガサガサ───ッ
私の右手側の草が、不自然に揺れました。
来たみたいですね♪
音のした方を見て、結愛は絶句してました。
仕方無いでしょうねぇ。
結愛の背丈で見れば、倍くらい背の高い草の上を、結愛にとって常識外の大きさの鷹が、翼を畳んだ状態で滑っている様に見えるでしょうし。
私には、天鷹は天虎の頭に、止まっているだけなのが、感知出来ているので、驚く事では無いのですが。
ああ。
草を割って出てきた虎の鼻に、状況を理解したみたいですね。
結愛の近くで、おとなしく座ったのは、頭に金褐色の天鷹を乗せた、真っ白な天虎。
その後から、優雅に歩み寄って来たのは、銀色の天狼。
2頭並んで、同じ様に座る守護獣を見上げて、結愛は呆然としてますね。
「この子達が、結愛の【家族】よ」
精神感応で掛けていた、“恐怖心へのロック”は、とっくに解除してあるのに、呆然とする程の驚きはあっても、恐怖は無いみたい。
良かった。
結愛は不安定な体勢で、椅子を滑り降りて、自ら彼等に近付いてみるみたい。
ほてほて歩いていく姿が可愛いですね。
彼等との対比が、彼等の大きさを強調してますねぇ。
顔を見ようとすれば、近付く度に、見上げる角度が直角に近付きます。
真正面まで行けば、ほとんど垂直に近い程、頭が後ろに傾いてますね。
転ばない様に支えるべきかしら?
頭の重さにふらついたのか、やはり尻餅をつきそうになった結愛の背中を支えれば、それに寄り掛かる形で私を振り仰ぐ。
やっぱり、直ぐ後ろに居て正解ですね。
「ふふっ。3匹とも、早くお話したいみたいよ? さ、名前を付けてあげて♪」
優しく抱き上げ、右肘に座らせる様に固定します。
こうすれば、丁度良い具合に3匹と目線を合わせられる高さになる筈です。
私に抱っこされたまま、3匹と見つめ合う結愛。
新しい【家族】に、名前を付ける大任に、ほんの少し緊張気味に考え込んで、思い付いたのか、直ぐに瞳を輝かせ始めました。
「貴方はシリウス」
触り心地の良い、青みを帯びた銀色の毛並み、綺麗な蒼の眼の【天狼】の鼻先に右手で触れて宣言ひとつ。
「貴方はレグルス」
銀にも見紛う純白の体毛に、蒼灰色の縞模様、鮮やかな翠みどりの眼の【天虎】の頬にも、左手で触れて名を与えます。
「君はアルタイル」
金色の嘴は鋭く、金褐色の翼、濃い琥珀色の眼の【天鷹】を、2頭から離した両手を伸ばして、抱き締める様に撫でる。
それぞれの名は、以前の世界の星の名前である事が結愛から伝えられ、3匹も嬉しそうに受け取った様ですね。
『有難うございます。ユナ様』
頭に直接響く感覚で、柔らかな女性の声が聞こえます。
あぁ、天狼ですね。
「ふぇっ!?」
キョロキョロと、声の主を探す結愛が、ちょっと面白可愛い。
初めて【念話】スキルが発動すると、今の結愛みたいになるのよね。
「ふふっ。それ、多分シリウスの声よ? 早速スキルが発動したのね♪」
「!? お母さんが言ってた【念話】?」
スキル【念話】は、契約獣を持つことで取得出来る、上位スキルです。
本来は、スキル取得後も、練度を“熟練”まで上げないと、お喋りは出来ないのですが。
結愛には最上位スキル【獣契約】を、レベル“神業”の“上限達成”状態であげましたから、早速お話しが出来たみたいですね。
「そっかぁ。シリウスの声、綺麗だねぇ」
『ふふっ。有難うございます』
「えへへ」
シリウスと結愛は、お互いに意思疎通が可能になった事で、照れ笑いを浮かべる。
『主、事情は聞いたか? これから、よろしく頼む』
落ち着いた低めの声も、頭に響く。
同時に、天虎が結愛に顔を近付けて、頬擦りしていた。
「わぁ、レグルスの声、格好良い~。よろしく」
『……主は、聞いてた以上に、幼いな……』
照れた様にそっぽを向いて、ほんのちょっと意地悪な言葉を返すけれど、結愛は嫌われた訳じゃない事を、ちゃんと理解出来てるみたいですね。
『ユナ嬢、ユナ嬢。僕ともお喋りしよう♪』
そっぽを向いた天虎を、じ~っと見つめる結愛に、天虎の頭の上にいた天鷹が、存在を主張するみたいに鳴きます。
「おぉ! アルタイルの声は、まだ可愛い感じだね~。でも、聞いてると楽しくなる、音楽みたい♪」
『あははっ。そりゃ良かった! 僕はお喋り大好きだしね♪』
天鷹は、お喋り好きだけれど、人見知りでもあると、リュニベールが言っていました。
初めは、少し本来の性格と違う言動が、あるかも知れないのでしたね。
今は……どうなのかしら?
天虎は生真面目で、世話焼き。
天狼は穏やかで、働き者。
天鷹は甘え上手で、甘やかし上手。
三体三様だけど、あの子達を補佐していた実績もあるし、守護獣としての強さも、信頼がおけます♪
3匹とも、結愛を頼みますね。
『『『─────っ』』』
あらら。
3匹ったら、結愛を見たまま固まっちゃったわね。
結愛の初めてのおねだりは、可愛いものねぇ。
身長差から生じる上目遣いと、小さく可愛い所作が、ポイントかしら?
不安げな表情も、庇護欲に訴えかけてるわね。きっと。
「ふふふっ。契約獣は、本来“契約者”とは“主従関係”になるの。でも、結愛は“対等”が良いのね?」
結愛達のやり取りに、嬉しくなって、聞いてみます。
「ん。だって、お母さんが、“この子達は家族”だって言ったよ?
家族なら、対等だよね?」
不安そうに、私に確かめる結愛に、苦笑してしまいます。
以前の世界で、結愛は“守る”のが当たり前で、“愛情を与える”立場だったのでしたね。
その逆は、結愛には許されていなかった。
けれど、今は私が、“母親の愛情”を与えられます。
クラウディアに行ったら、家族とお互いを思いやる様な関係を、築いて欲しいです。
クラウディアでならば、今までより“自分に素直”になっても、咎める者はいませんからね。
「そうね♪ それが良いわね♪」
私が笑って肯定すれば、結愛も嬉しそうに満面の笑顔を見せてくれます。
3匹も、契約内容に戸惑いながらも、対等である事を了解していました。
結愛の笑顔が、曇る事の無い様に、私が出来る精一杯で支え、守ってみせますからね♪