始まりへ続く祈り…。『助けたい!』
シアお母さん視点の番外編的物語です。
ユナちゃんが寝ている間に、フェリシア様に主役を張っていただきましょう♪
───危ないっ!
私はその瞬間、咄嗟に世界に干渉していました。
その世界の【管理者】が衝撃緩和の結界を施すのに合わせ、その内側に波紋相殺の結界を巡らせる。
咄嗟だったので、守りきれたかは分からないけれど、少なくとも世界の崩壊は、免れた様ですね。
「───ァアッ! 嘘っ!? 消えちゃった!?」
「!? どうしました!? まさか、間に合わなかったのですか!?」
「………どうしよぅ………」
久方振りの勉強会の会場提供者である【管理者】が、一点を見つめて、呆然と呟きました。
彼女の視線の先には、小さな小さな罅。
「その罅…まさか!? “消えちゃった”って、空間がですか!?」
「…うん…」
途方に暮れた幼児の様な仕草で、まだ若い彼女は頷きます。
それを見た他の【管理者】達も、慌てて彼女の世界を修復せんと、干渉し始めました。
勿論、私も早々に参加しています。
「うわっ!? 他も歪み始める! 一度空間を隔離しろ!」
「オッケ~ィ。隔離成功~っと。修復始めるよ~」
「ちょっと!? 遊び心は要らないわよ!」
「丁寧に…正確に…」
「………」
複数で作業にあたった為、迅速な修復が行えました。
無言で修復作業に集中し、他の【管理者】達の軽口は、取り敢えず放置です。
「ん。修復完了~♪」
「大分綺麗に戻せたんじゃない?」
「うむ。上出来だろう」
「……(良かった)」
「んじゃ、そぉっと戻せ………あ? っ!? ちょっ!? チョイ待ったぁぁぁ!」
修復作業を終え、安堵しました。
隔離していた空間を戻そうとした時、とある【管理者】が頓狂な声を上げました。
何事かと、他の【管理者】達と一緒に、視線を彼に集めます。
「!? ちょっと!? なんなの!?」
「………この空間、誰かいたんじゃねぇか?」
「は!? え? ちょっと、冗談………」
「!? すぐ、確認する!」
「ぁ、冗談じゃないね~。痕跡が…」
「な!? ─────居た! 見つけました!
あぁぁ…酷い……このままでは、彼女まで消えてしまいます。
助けなくては…」
【管理者】の1人が、存在の痕跡を見つけたと告げたと同時に、私はその痕跡を辿り、あの娘を見付けたのです。
───これが始まり。
私の娘となる、優しいあの娘と対面するまで、後少し……。
*~*~*~*~*
ヒュッ
スパァ─────ン!!!
「ッ痛ァ───ッ」
鋭い風切り音の後、空気を震わせる乾いた打撃音と、後頭部に走る軽くとも確りとした衝撃。
同時に、悲鳴をあげて、小さく蹲まる私……。
………。
「いきなり叩かないでくださいっ!」
「何で?」
「───っ」
上体を起こして後頭部を抑えつつ、私が猛抗議すれば、私の斜め前で【ハリセン】片手に佇む彼女は、不思議そうに小首を傾げました。
“何故抗議されたのか分からない”といった風情の彼女に、私は数秒間絶句するという、珍しい体験をしてしまいました…。
え? え?
謝ろうとしている相手を、問答無用で叩くのは、常識なのでしょうか?
違いますよね?
え?
私が非常識なのですか?
「と、とりあえず状況説明するので、実力行使は止めてください。お願いします!」
頭の中は、疑問符でいっぱいでしたが、私は謝罪に出向いたのです。
私の疑問は横に置いて、お話を進めなくては!
涙目になりつつも、話を聞いて欲しいとお願いすれば、彼女は軽く溜め息をつきながら頷いてくれました。
「良いよ。聞いてあげる。まぁ、何となく予想はつくけど……」
何を置いても、謝罪が優先です。
私達【管理者】の都合で、理不尽に存在を否定してしまった彼女を、どうしても助けたい。
これも、私の我儘ではありますが、こんなにも穏やかで優しい精神を、消してしまうのだけは、絶対に嫌ですから。
私の説明を聞き終えた彼女───結愛さんは、私達の愚かさを赦し、謝罪を受け入れてくれました。
世界の成り立ちや、結愛さんが受けた被害についても、1つずつ説明していきます。
今の結愛さんの状態は、私の能力でなんとか補完してはいますが……。
消滅だけはさせません!
助けてみせます。
だから、どうか、私の提案を受けてください。
*~*~*~*~*
「それで? 私はこれからどうなるのかな?」
「はい。結愛さんは、今現在“精神のみ”といった状態です。
本来の身体は、すでに消滅してしまっているので、元の世界には戻れません」
結愛さんが再び話を戻して、私は真剣に彼女の“これから”を伝えました。
出来ることなら、元の世界に戻して差し上げたい……ですが、それは出来ません。
「本当なら、精神のみとなった後は───」
彼女が不安になっていないか、様子を伺うかがいながら、転生についてのリスクを、ひとつひとつ教えます。
本当なら、【浄化】や【治療】を行い、精神体を治します。
魂に刻まれた傷も、僅かであれば、精神を強くするために必要なので、多少傷痕を残しておくのは重要です。
ただし、傷の残し具合で次の世界での性格が変わるので、【治療】の施し方は、とても慎重に行わなければなりません。
凄く難しいので、【治療】の作業を思い出すと、無意識に眉間に皺が寄ります。
それは兎も角。
結愛さんの場合は、精神体についた傷が大き過ぎて、“消滅ギリギリ”の本当に危険な状態です。
本当に、ほんの僅かな衝撃ですら、消滅を促し兼ねないので、【浄化】を施す事──記憶や経験を消す作業──を躊躇ってしまいます。
「今は結愛さんの精神体に、私の加護を与える事で、一時的にこの場所に留めています。
これから、結愛さんには、本来の寿命まで眠って頂いて、その間に今回結愛さんを巻き込んだ全ての管理者に、それぞれ働いて貰います」
あの【管理者】達──言い争ってた人達──には、反省が必要です!
自分達で生み出した世界の住人を、何だと思っているのでしょうねぇ?
もう少し、感情を制御して頂かねば、また同じ様な事故が起きかねません。
気持ちと同時に、表情を引き締めて、結愛さんを安心させる為に、テーブルの上にあった彼女の両手を握ります。
絶対、絶~っ対、助けますからね!
このまま、ちょこっと続きます。
ラズヴェルトお父さん曰く、思考回路が似ているらしい母娘なので、話の流れは本編と変わらないかな?
ε- (´ー`*)
作者自身が、友人知人から、「そこじゃない」とツッコミをいただく、ずれた思考回路らしい─自覚は無いんですがねぇ─ので、主役を張らせると、その対象が誰であっても、ちょっと変です。
スミマセン。
σ( ̄∇ ̄;)