お母さんに報告です♪ 今日もとっても楽し……くぅ。
『お母さぁ~ん、聞こえる?』
今にも寝落ちしそうなぼやけた頭で、御祈りの姿勢をとって、お母さんに呼び掛けます。
『ふふふ。聞こえるわ♪ お疲れ様、ユナ』
私の状態が分かるのか、お母さんは苦笑しながらお返事をくれます。
『今日も色んな事があったよ~』
お母さんの声が優しくて、1日の終わりにお話し出来るだけで、染々と幸せだなぁと感じます。
『ふふ。リュニベールの授業は楽しかった?』
お母さんがお話しの切っ掛けをくれるけど、頭がぼうっとしてますね……。
眠い…です。
『ん。色んな…魔物さんがいたよ~。
不思議な…魔物さんもいた…し、凄く綺麗な…魔物さんもいた…の』
『レグルス達が一緒なら、大抵の魔物は敵じゃないけど、無理だけはしちゃ駄目よ?』
『うん。姉様にも…強い魔物さんを見掛けたら~、倒すより…も…逃げなさい…って…言われたも…。
危にゃい事は~、出来る…だけ…回避するよ~』
注意されたので、姉様としたお約束を、お母さんにも伝えました。
念話なのに、噛んじゃいました…。
眠すぎて頭が働いてませんねぇ。
『あらあら、眠そうね。いっぱい動いて疲れたでしょう?
今日はもう、寝ちゃいなさい。
お話しは、明日の朝に聞かせてちょうだい』
『ん~、もうちょっと…お話しした…い…』
お母さんにも指摘されましたが、お母さんの声は優しくて暖かいので、出来る事ならもう少し聞いていたいです。
あぁ、でも、お母さんの声が遠い…─────
『おやすみなさい、ユナ。旦那様、私達の娘をお願いね──』
★☆★☆★☆★☆★
─ラズヴェルト視点─
「おや、寝ちゃいましたね」
祈りの姿勢から、とさりと崩れるように倒れた娘に近付けば、健やかな寝息が聞こえ、その一途さに苦笑が溢れた。
私と彼女──フェリシア──の新しい娘。
彼女に良く似た外見。
確りしている様で、どこか放っておけない所が、彼女と重なる幼い娘。
初対面の見知らぬ大人を、彼女の夫だというだけで、無防備に近付いて、父親として受け入れてくれたのには驚いた。
ですが、愛しい彼女の娘であり、当たり前の様に私を父と呼んでくれる可愛らしい幼児です。
これから、私なりに愛情を注ぎましょう。
クラウディアでは、自由に動けない彼女の代わりに………。
妻を想いながら、娘の身体を抱き上げ、ベッドへと運びます。
まだ幼い身体は、思いの外軽いけれど、確りとした生命の重さが感じられます。
「…ユナ…寝ちゃった…?」
先にベッドに乗っていたもう1人の娘が、私の腕の中のユナを覗き込みます。
「…可愛い…」
普段から余り表情を変えない(変えられない?)娘が、妹となった存在をこれ程愛しげに見詰めるとは…。
「ベル、君もそろそろ寝なさい。私はシアと少し話してからにするから」
「…ん。おやすみなさい…」
「おやすみ」
おとなしく横になったベルの隣、ベッド中央にユナを寝かせ、私自身はフェリシアの女神像の前へと向かう。
さて、愛しい妻は、元気にしているかな…。
*~*~*~*~*
『聞こえるかい? フェリシア』
『ふふ。聞こえているわ。ラズヴェルト』
『やあ、1日ぶりだね、奥さん』
『ふふ。ええ、いつも連絡を有難う、旦那様。ユナに会えたみたいね♪』
いつものやり取りをしながら、愛しい奥さんの声に耳を澄ませる。
彼女の声は、どこまでも優しい。
ふふふ。
こんなにも穏やかなのに、怒ると無機質な雰囲気になるんだよね。
それはそれで、可愛らしいけどね?
『ああ。シアに似て、可愛らしい娘だね。シアが大切にしてるのが良く分かるよ』
『他の娘達には、突然だったから、驚かせてしまったけれどね…』
『あはは。だろうね。あの娘達には、久し振りの“新しい経験”だからね。
驚いただけで、嫌悪しなかったのなら、上等だよ。
3人とも個性的に育ったもの』
娘の事になると、心配性な彼女が、彼女が生み出した3人の女神達が、新しい娘の存在を受け入れられるかと、不安そうにしていたのは、記憶に新しい。
『それがね♪ 3人が3人とも、ユナに陥落。
妹が可愛くて仕方無いらしいわ♪
リュニベールやフォーレなんて、転移体を使わずに、実体化で会いに行っちゃったもの!』
『おや、それは凄いな。でも、ちゃんと叱ったかい? シアは娘に甘いからなぁ』
嬉しそうに弾んだ声から、彼女の満面の笑みが脳裏に浮かぶ。
時々、娘達にまで嫉妬してしまいそうな自分が怖いが、それもシアを愛するが故だと思えば、御する事など雑作もない。
彼女をからかいながら、娘達の事を考える。
確かに、ユナは何処と無くシアに似ている。
外見は当たり前だが、仕草や行動が似ているのは不思議だ。
考え方や物事の捉え方が違うから、全く同じでは無いけれど、親子と言われて、否定できないくらいには、良く似ている。
姉となった3人が、ユナを気に入るのも当然かも知れない。
『ラズはどうだった? ユナを頼んでしまって大丈夫だった?』
『大丈夫だよ。シアに似て可愛らしいからね。
最初は驚かせてしまったけど、嫌がらずに父親として受け入れてくれたし、多少なりとも甘えてくれてるみたいだよ?』
『良かった。以前は甘え下手だったみたいだから、少し甘やかすくらいで大丈夫だと思うわ♪
……でも、甘やかし過ぎては駄目よ?』
『ふふ。焼きもちかい?』
『─っ、違います!』
図星だったのか、慌てて否定する彼女が可愛い。
時々シアを弄りつつ、暫く娘達の事を相談して、幸せな時間を過ごす。
明日に響かない様に、終わりを切り出すのは、いつだって彼女の方だ。
私を気遣い、寂しさを押し込める様に、小さな声で終わりを告げる。
彼女の優しさに甘え過ぎている自覚はある。
だからこそ、私は本音を告げるよ。
『やっぱり、シアに会えないのは辛いね…。時々、酷く寂しく感じる時があるよ』
『─っ、私だって…私だって寂しいわ。
でも、こうしてラズが毎日声を聞かせてくれるから、寂しくても頑張れるわ。
ラズヴェルト、愛しています。──娘達をお願いね?』
『ああ。私も、フェリシアを愛してる。任せなさい、必ず守るよ。
おやすみ、シア。また明日』
『おやすみなさい、ラズ。良い夢を…』
*~*~*~*~*
話を終えて、ベッドへと戻れば、愛らしい娘達は、既に夢の中。
シアよりも高い子供の体温を感じつつ、私も眠る。
明日も良い1日であることを願って。
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ユナちゃんが寝落ちしたので、後半お父さんに乗っ取られました。
ラズさんは、どこまでも、シア様一途です。
1つ間違えば、ヤンデレ化しそうですが…。
まぁ、取り敢えず、お父さんとお母さんは仲良しだということで。