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女神様の娘になりました。  作者: 峠岬 嶺
第4章─初めまして! お父さん?
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お父さんのお弟子さん? ちょっとした騒動と、忘れ去られたモンスター。

「…ぁ、あの~」「お~い」


 お父さんに抱き上げられたまま、ベル姉様とキャッキャッとはしゃいでいたら、お父さんの背後から戸惑った様な男の子達の声がした。


 ………。

 そういえば、ちょっと前まで「シリアス展開突入ですか!?」な状況でしたね。

 いえ、忘れてた訳じゃ……。

 ごめんなさい!

 姉様達の日常的な行動と、初めて会ったお父さんの情報に、ちょっと前の非現実的な状況が、記憶から飛んでました。

 いや、これは言い訳ですね…。

 いくら雰囲気に呑まれたとはいえ、同じ場所にいる人の存在を忘れるとか…。

 駄目ダメです…。


「あの~、師匠? その子達って、師匠のお知り合いなんですか?」


 恥ずかしさでお父さんにしがみついていたら、栗色の髪の男の子が、お父さんに質問してきます。


「あぁ、私の娘達だよ。

 私と同じ髪色の子が、上の娘のベル。奥さんそっくりなこの子が、末娘のユナだよ。

 ユナは、君達の修行に出ていた間に生まれた娘でね。

 私も今日初めて会えたんだ♪」


「し、し、し、師匠の娘ぇぇぇえ!?」


 私達を抱えたまま、振り返ったお父さんの返答に、黒髪の男の子が、森中に轟きそうな声で叫んだ。


 にゃぁぁぁ。

 お耳痛い!?

 声、大きいです!


「エディ、喧しい! 叫ばないでよ!」


「痛っ!? (いて)ぇ、(いて)ぇっ!? 痛いって!

 (いへ)ぇっへ、つゅねりゅな!? クリス!」


 栗色の髪の男の子が、片側の耳を手で塞ぎながら、間髪入れずに黒髪の男の子の頬をつねりました。


 一度振り切られたのに、もう一度つねり直してます…。

 手加減無し、問答無用っぽいです。

 痛いぃぃ。

 見てるだけで痛いよぉ。


 余りの所業に、視線を逸らせば、男の子達の向こうに、上下に分断されたリビングデッドが、死に崩れて沈黙していた。

 切り口が綺麗にスッパリ断たれていて、切り口どうしをくっつけたら、復元出来そうな程だ。

 状況的には、お父さんが倒したのかな?

 居合い抜きの一刀両断とか、あんな感じだ。


 ………。

 武器は…、腰の刀かな…。

 シンプルだけど、拵えが綺麗で、うっすらと魔法を纏ってる。


 と、取り敢えず、現実逃避は止めよう…。

 お兄さん達のお名前は、黒髪のお兄さんが「エディ」さん。

 栗色の髪のお兄さんが「クリス」さんっていうんですね。

 うん。

 覚えました♪


「…はじめまして…ベル…です…」


 姉様がさっくり挨拶をしたので、私も続きます。

 お父さんにくっついたまま、今はちょっと低い位置にある男の子達のお顔を見て、きちんと挨拶をする。

 先程のやり取りを見ちゃったので、少々涙目ですが…。

 魔物さんの屍を直視しちゃったので、ちょっと血の気が失せて、ぷるぷる震えてるかも知れませんが…。

 挨拶は大事ですから。


「はじめま()て、ユナでしゅ()


 …ぁ…噛んだ…。

 すみません、お兄さん方。

 3歳児の滑舌に、完璧を求めないでいただけると嬉しいなぁ。

 結構沢山お喋りして、練習を重ねてるんですけど…。

 未だ滑舌が…。呂律が…。発音が…。


 恥ずかしくて、お父さんの首に抱き付く。


「俺はエドワルド・ランズゴートだ! エディでいいぞ」


「僕はクリストファー・リーシェンブルクです。クリスと呼んでください」


 直ぐ後ろで聞こえた声に、そぉ~っと振り返れば、元気いっぱいの温かい笑顔と、優しげで爽やかな微笑みが、姉様と私に向けられていました。

 2つの笑顔に安心して、身体に入っていた力が、ほわっと抜けます。

 釣られたように笑ってみせたら、2人の視線が私から外されました。


「「………(うわっ!? 可愛い!)」」


 無言でお互いを見やって、染々と頷き合う男の子2人。


「…妹は可愛い…けど…誰にもあげない…。…害虫は…駆除する…よ…?」


 男の子達の態度を見ながら、姉様がポツリと溢した。


 ? 「害虫」って何?

 森は緑でいっぱいです。どこかにお花でもありましたか?

 いや、「誰にもあげない」って事は、姉様が“私を連れて行く誰か”と戦うという宣言?

 何故、今、宣言したのかな…?

 そして、お父さん?

 何だかピリピリしてませんか?

 笑顔なのに、周りの空気が、肌に痛い…。

 精霊さん達も、周囲を勢い良く飛び回ってますよ。


「──さっきの失態もあるし、本気の組手稽古と行こうか?」


 お父さんが、私と姉様をそっと地面に下ろして、男の子2人に笑顔で通達します。


 おおっ!?

 ここで稽古ですか!?

 何故か話が跳んだ気はしますが、お父さん達がどんな修行をしてたのかは、もっと気になります!


「「─っ、ちょ、待っ!? 勘弁してください!」」


 突然の状況変化に、わくわくと気持ちを弾ませたのですが、男の子達は焦ってお父さんの傍から飛び退きました。


「…害虫は…滅殺…」


「僕の娘に邪な感情は向けないで欲しいなぁ」


 姉様とお父さんが、満面の笑顔で男の子達と対峙します。


 ぁ、この感じ…。

 覚えがありますね。

 にっこり笑顔なのに、周りの空気が凍って、気温がぐんぐん下がる感じ。

 お母さんが怒った時にそっくりです。


「──っ!? 俺は害虫じゃ無え! 誰が幼女愛好家(ロリコン)だ!?」


「──っ!? 流石にこんなに幼い子を、そういう対象には見ませんよ!?

 娘さんは兎も角、師匠まで疑わないでください!」


 男の子達が、姉様とお父さんの様子に、揃って声を荒げます。


 ………。

 ? ロリ? ……幼女愛好家(ロリコン)!?

 え!? 私、そういう対象!?

 いや、待て待て待て!

 お兄さん達は違うって言ったよ?

 って事は、姉様とお父さんの思い過ごし!?

 っ!? 止めなきゃ~!?


 余りの予想外な展開に、スキルの発動を振り切って、恐慌状態(パニック)に陥ります。

 3歳児の身体と精神に、極端な負荷は害悪です。

 感情に振り回され、目に涙が溢れます。


「───っふ、ぅえ、ふぇ、………ぅわあぁぁぁぁんん」


『止めんか!』『お止めください!!』『ユナ、泣かすな!!!』


 私が泣き出したと同時に、4人に向かって契約獣達の叱責が飛びました。

 2対2で牽制しあっていた4人が、3匹の叱責と私の泣き声とに空気を割られて、あたふたと慌て始めます。


「…ユナ…泣かない…で…」


「ご、ごめんよ、ユナ。突然殺気立てば、びっくりするよね」


「わ、悪ぃ…。泣くなよ…」


「ごめんね。恐かったかい?」


 オロオロと次々に声をかけてくれるんですが、私の涙は止まりません。

 嗚咽を我慢したくても、次から次へと引っ切り無しに洩れてしまう。

 泣き止めずに、引き付けを起こしそうな私を、ひょいっとレグルスの背中に乗せたのは、シリウスでした。


『帰りますよ。ここに居ては、悪化します』


『そうさな。ほれ、ちゃんと掴まれ。

 固定の魔法は俺が使う。

 ユナは、俺に抱き付いておけ。ちゃんと連れて帰ってやる』


『うん、うん。お家に帰ろう。

 帰って、ゆっくりお茶でも飲もう?

 ユナお手製の~シナモンアップルパイで~、お茶会~♪

 お家の中なら~、恐いことなんか~、1個も無いよ~♪』


 3匹が気遣ってくれる一言一言に、ゆっくり、じんわり、ふわふわと温かい気持ちが重なります。

 止まらない涙や、溢れ続ける嗚咽をそのままに、レグルスの背中に抱き付いて、ぐすぐすと疲労の溜まり始めた身体を休ませます。

 お父さんや姉様が、心配してくれるのは嬉しいですが、争い事はやっぱり苦手です。

 喧嘩するなら、お父さんも姉様も、知りません!

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