幸せな午後。大好きな人達と過ごす時間は、何よりの贅沢です♪
冷たくなり始めた風が、まだ眠っているフォルお姉ちゃんの髪を撫でていく。
緩めの三つ編みにされた濃い焦茶色の髪。
両サイドに一房ずつ、他よりも短い部分がある。
左右にあるその短い部分だけ、鮮やかな緑色をしてる。
お姉ちゃんの髪は、三つ編みの状態で背中の3分の2の長さがあるから、解けば腰に届くくらいだと思う。
色の違う短い部分は、それより少し短くて、肩を少し越したくらいの長さしか無い。
フォルお姉ちゃんとベル姉様、どちらも“絶世の美少女”だけど、雰囲気は全然違う。
ベル姉様は、左目尻の泣き黒子と、黒髪緑眼の神秘的で、しっとりした静謐な雰囲気。
フォルお姉ちゃんは、感情豊かにくるくる変わる表情と、焦茶髪飴色眼の躍動的で、ぽやぽやした華やかな雰囲気だ。
ベル姉様曰く、三柱の女神は3人3様の雰囲気で、外見にそれぞれちょっとした特徴(チャームポイント?)があるらしい。
会えば直ぐに分かるだろうから、楽しみにしててって内緒にされちゃったけど…。
実際、会えたら本当に“分かりやすい特徴”だったよ。
ベル姉様は泣き黒子。
フォルお姉ちゃんは両サイドの色違いの髪。
ラメル姉さんは、どんな感じなのかな♪
───っ、くしっ……っくしょんっ!
風に撫でられて、体感温度が下がったのか、お姉ちゃんが連続でくしゃみをする。
睡魔によって弛緩していた身体に、唐突に力が入った為か、お姉ちゃんがゆっくり眼を開けた。
「……おはよ~…!? ユナ!?」
「おはようごじゃいましゅ、オルねぇね」
眼が覚めて一瞬、腕の中を確かめる素振りを見せたお姉ちゃんだったけど、自分が何も抱えてない事に驚き、焦った様に飛び起きた。
視線が合ったから、にっこり笑顔でご挨拶。
ぁ、噛んじゃった…。
…さしすせそ…難しいな!
フッ。
こうなったら、開き直っちゃうもんね!
いっぱい練習してやるわ~っ!!
『起きたか…』『じゃあ、戻る~?』『戻りましょうか』
滑舌の悪さに憤ってたら、レグルス達にピクニックの終了を促された。
そうだね~。
寒くなってきたし……。
ん?
何か忘れてる気がする…。
何だろう?
………。
……。
…。
「あっ! ちぇんちゃくもの! ちけちゃう!?」
あぅっ。噛み噛み…。
と、それよりも!
思い出したのは、午前中に干した洗濯物。
空気が冷え始めた以上、折角良い感じに乾いた洗濯物が、いらない水気を吸い込んじゃうよ!
ピクニックの片付けを放り出し、一目散に物干場を目指して駆け出す。
一生懸命走るけど、悲しいかな…。
3歳児の足では、“ぽてぽて、とたた”っと可愛らしい擬音語が当て嵌まりそうな速度しか出ない。
自分の不甲斐なさに、泣きたくなった途端、くいっと身体が引っ張られた。
目まぐるしく景色が変わり、気が付いたらレグルスの背中に“ちょんっ”と乗せられてます。
「レグルしゅ?」
どうやら、首の後ろを支点に、放り投げられたのかな?
…うん。
目まぐるしく変わった景色の中に、一面の大空があったから、合ってるよね?
視界がライムグリーンに染まってた気もするから、力業+魔法で放り投げたんだね…。
『ちゃんと掴まれ。落ちるぞ。物干場であろう?
一人で行っても、洗濯物に届かんだろ』
『ピクニックの片付けは~、シリウスとフォーレ様が引き受けてくれたよ~。
僕とレグルスが、ユナのお手伝いだね~♪』
呆然としてたら、小さいままのアルタイルが肩に止まった。
「アりゅタイゆ…レグルスも…あいがとぉ…」
視界が涙に歪み始めたのは、さっきまでとは違う理由です。
前の世界では、色んな問題全部を、自分一人で解決するのが当たり前だった。
だけど、クラウディアでは、家族が一緒に解決してくれるんだね。
一人で焦って、一人で頑張る必要は無かったんだっけ。
寝起きの働かない頭だったから、判断を間違えちゃった。
馬鹿だなぁ、私。
お姉ちゃんやシリウスにも、後でちゃんと“ありがとう”を伝えなきゃね♪
“ごめんなさい”は、思ってても言わない方が良いかな?
私を好きで、私の事を考えて動いてくれたお姉ちゃん達に、“ごめんなさい”は何か違う気がするから。
『急ぐぞ』
レグルスの宣言に、落ちないように風の魔法を展開して、レグルスの背中にしがみつく。
魔法を使っているから、普通に座っていられるんだけど、今はレグルスにくっついてたい。
肩に止まってたアルタイルには悪いけど、レグルスの背中に寝そべる様にして、しがみついてみた。
一度中空に羽ばたいたアルタイルが『仕方無いなぁ』って呟いて、私の後頭部に止まる。
…。
絵的には、“私…アルタイルに頭踏まれてる?”な状況だけど、今はレグルスにくっつくのが優先だもんね。
*~*~*~*~*
無事に洗濯物を取り込めました♪
干していた場所が高めの位置だったから、レグルスの背中に、靴を脱いで立たせてもらいました。
勿論、魔法でサポートしましたよ?
じゃないと不安定で、直ぐに落ちますからね♪
洗濯物を留めていた洗濯挟みを、アルタイルに外してもらって私が回収。
洗濯籠じゃなくて、【無限収納】にそのままポイ。
魔道具の家と同期させてあるから、こうすれば畳まなくても、クローゼットに自動的に仕舞われる。
こんなに楽で良いのかな?
全部を取り込み終った頃に、お姉ちゃんとシリウスが荷物を抱えて戻って来た。
「片付け終わったよ♪」
「ねぇね、シリウしゅ、ありがと~♪」
ピクニックバスケットを抱えたお姉ちゃんを、シリウスが背中に乗せて近付いて来る。
目一杯の笑顔で、二人に御礼を届けます。
今日も嬉しい事がいっぱい。
今夜のご飯も張り切って、美味しいものを作りましょう♪
何がいいかな♪