2人目のお姉ちゃんと、再びのさよなら? ううん、「いってらっしゃい 」ですね♪
「おっいひ~い♪」
今、私の隣では、焦茶色の髪を2本の緩い三つ編みにした女の子が、口いっぱいにおむすびを頬張ってます。
鮮やかな若草色のエプロンドレス姿は、古いカントリー映画の子役を彷彿させる愛らしさですね。
今日のお昼ご飯はお弁当。
サンドイッチ各種に、おむすび各種。
お稲荷さんに、ちらし寿司。
ホットドッグや、ベーグルサンド。
ミニハンバーグに卵焼き、唐揚げ、オムレツ、カプレーゼ。
グラタン、コロッケ、茸のソテー。
じゃが芋ゴロゴロポテトサラダに、さっぱりマリネ。
筑前煮に金平牛蒡、ほうれん草の胡麻和え。
スパゲッティにローストビーフ、キッシュにムニエル。
魔法って凄いね♪
時間短縮の魔法を使って、食べ切れない程のお弁当を作りました!
残るようなら、冷蔵庫か【無限収納】に仕舞いますから、何も考えずに、思い付くまま気の向くままに、姉様と大量生産しましたよ♪
「ん~♪ 美味しいわ、ユナ」
「…フォーレ…自己紹介…」
頬張ってたご飯を飲み込み、幸せそうな笑顔で感想をくれたお姉ちゃん? に、ベル姉様が突っ込みました。
「あ。え~と…は、初めまして!大地の女神、フォーレです!」
「はじめまちて。ユナでしゅ。
会えてうれしいでしゅ。フ…ォーレぉねぇちゃ」
途端に愕然とした表情を見せたお姉ちゃん? は、一瞬だけ視線を逸らして、直ぐに向き直り自己紹介をしてくれました。
お~♪
フォーレお姉ちゃんでしたか!
噛み噛みですが、会えて嬉しいです!
ちゃんと呼べなくてゴメンナサイ…。
「? もしかして、お姉ちゃんって言い難い?」
「…3歳児だから…さ行の発音…苦手…みたい…。…あと…末尾が“ん”になる…言葉?」
「でも、“おかあさん”はちゃんと言えましゅよ?」
「…ん。多分、慣れ…と寸前の音…かな…」
「寸前の音?」
「…ん。末尾の1つ前…。…“さ”と“ちゃ”の違い…。
…“ちゃ”の方が、発音しずらい…」
ベル姉様がフォルお姉ちゃんに、私の滑舌の悪さを説明してくれます。
お母さんは呼べるのに、お姉ちゃんは呼べないって…。
自分が情けなくなってきますね。
3歳児の滑舌め…早く成長しなさい! …してください。
「あぁ、そっかぁ~。じゃあ、慣れるまでは、ユナの呼びやすい呼び方でいいよ♪
いっぱいお喋りすれば、その内慣れるよ♪
慣れたら“お姉ちゃん”って呼んでね?」
「あい。ねぇね」
ちゃんと呼べない私にも、お姉ちゃん達は優しいです。
やっぱり、大好きだなぁ。
「「──っ、可愛い!」」
嬉しくて幸せで、ふにゃっと笑ったら、両側からお姉ちゃん達に抱き締められました!
にゃ!?
お姉ちゃん達、やっぱり妹補正が掛かってませんか?
「ぁ、滑舌の問題だと、もしかして“フォーレ”も“フォル”も呼び難い?」
「…かも…オルじゃ駄目?…」
「あ、良いね♪ そうしよう。
ユナ、慣れるまでは、“ねぇね”か“オル”って呼んでね♪」
フォーレお姉ちゃんとベル姉様の間で、さくさくと呼び方の変更が進められてます…。
良いのかな…?
「オルねぇね?」
ちょっとの不安と、さくさく決まる状況の変化に、思考が追い付かず、首が傾げます。
取り敢えず聞き取れた単語で、呼び方を変えるのかと、疑問形になりつつも、新しい呼び方でお姉ちゃんを呼んでみた。
「「~~~っ、可愛いっっ!」」
お話しする為に、一旦抱き締める力が緩んでたお姉ちゃん達が、再び力一杯私を抱き締めます。
ふにゃあぁぁぁっ。
褒め殺しは止めてください~!
恥ずかしすぎて、泣いちゃいますよ!?
お顔だって、真っ赤っかですよ!?
う~~っ。
…分かりました…。降参です。
お姉ちゃん達の「可愛い」は、“妹補正”による“褒め殺し仕様”だと、諦めましょう…。
お姉ちゃん達の「可愛い」は、多分知らない他人から掛けられる「良い子ねぇ」みたいな感覚なんじゃないかな…。
うん。
きっとそうだ! そう思っておこう!
じゃないと、恥ずかしさと嬉しさで、変な人になっちゃうよ…。
うん。自己防衛って大事だよね。
*~*~*~*~*
3人プラス3匹での賑やかなピクニックを楽しんで、時間はもうすぐ13刻。
ベル姉様がお仕事に戻る時間です。
寂しいです…。
お料理するのも、洗濯物を干すのも、お勉強だって、ベル姉様が一緒に楽しんでくれたから、私も楽しかったんです。
本当の妹みたいに、ちょっとした事で心配してくれたり、一歩後ろで見守りながら世話を焼いてくれたり、ベル姉様は優しくて暖かい最上級の“お姉ちゃん”でしたから。
仲良くなれて、嬉しいと大好きでいっぱいになった気持ちが、離れる寂しさで、ギュギュッと圧縮されて苦しい…。
「…ユナ…そんな寂しそうな顔しない…出来るだけ…早く戻るから…。
…大丈夫…フェリシア様…ううん、母様…よりは…一緒に居られる…と思うよ…」
「そうね。フェリシア様…私達の御母様だと、クラウディアへの影響が問題だけど、私達眷族なら“転移体”さえあれば、御母様よりは長く一緒に居られるわ」
「ん。…急いで“転移体”を用意する…」
「「だから、笑って」」
前からベル姉様に、後ろからはフォーレお姉ちゃんに抱き締められて、ちょっとだけ泣いちゃった。
だけど、傍に居るための方法を考えてくれる姉様達に、嬉しいのと心配なのとで、困ったみたいな笑顔になった。
目尻の力が抜けちゃってるから、八の字眉毛のへにょへにょ笑顔かな…。
無理はしないでね?
寂しいけど、ちゃんと待ってるよ。
お母さんとおんなじ様に、女神像を通してお話しは出来るし、今日みたいに、一緒に過ごす時間もこれから何度もあるんだよね?
大丈夫。
お母さんも、ベル姉様も大好きだから、ちゃんとお留守番出来るよ。
レグルスやシリウス、アルタイルがずっと一緒だし、今はフォーレお姉ちゃんも一緒に居てくれる。
だから、笑ってお見送り出来るもん。
「ベルねぇしゃま、いってらっしゃい」
「ん。…行ってくる…待ってて…」
小さな笑顔を残して、ベル姉様はパチンッと泡が弾ける様に姿を消した。