やっぱりレグルスは速いです。ただいま、マイホーム!
帰りの買い物中に、水の鐘が鳴ってたから、今の時刻は16刻を過ぎたくらい。
お母さんがクラウディアに居られる時間も、1時間を切っちゃった。
「ブロドさん。昼間は有難う。挨拶が遅れてごめんなさいね。
ユナの母親で、シアよ。この街に拠点を移したの」
シリウスを抱えたままの私を抱っこして、お母さんがブロドさんに挨拶する。
「冒険者としてよりも、薬師か魔道具技師として過ごすことになるわ。
ユナにも、お使いを頼むことが多くなる筈だから、良ければ気にかけておいて貰える?」
お母さんはクラウディアに長くいられないもんね。
普段は、用事があっても、シリウス達3匹と来ることになるね。
「私は、あまり一緒に居られないから、私の夫や娘達が一緒に来ると思うわ。
最悪、1人で来させる事もあるかもだけど、その時はこの子達を付けるし、冒険者ギルドのギルマスが知り合いだから、大丈夫」
ん?
お父さんや、お姉ちゃん達?
一緒に居られるの?
不思議に思って見つめる私をスルーして、お母さんはレグルスやシリウスに視線を投げて、アルタイルに頬擦りしてます。
ぁ、いいなぁ。
「これから、宜しくね」
お母さんが満面の笑顔でブロドさんにお願いします。
さっきまで固まってたブロドさんも、真面目な顔で頷いてくれました。
「こっちこそ。
嬢ちゃん1人で来た時は、誰か一緒にいさせてやるよ♪
にしても、こんな可愛い嬢ちゃんを、1人で行動させなきゃなんねぇとは…。
なんか理由があるんだろうが、心配だろうになぁ…」
お母さんに抱っこされた私の頭を、ブロドさんが優しく撫でてくれます。
お母さんやモル兄の撫で方とも、ガザンさんの撫で方とも違う、傷付けないようにと、そっと気遣う撫で方は、ちょっと物足りない。
でも、凄く大切に扱われているのが分かって、くすぐったい様な感覚に襲われる。
へにゃっと笑う私を見て、お母さんも何処かホッとした様に、苦笑を浮かべた。
「ふふっ。有難う。確かに心配だけど、荒事に関してだけよ?
ユナは賢いから。安全面は、この子達が居れば八割がたは保証されるしね」
ブロドさんの申し出を快く受け取り、心配事の内訳を告げるお母さんに、ブロドさんが訝かる。
「後の二割は?」
「ん~。権力者とか神殿関係…かな…」
「あぁ。成る程なぁ」
ブロドさんは、お母さんの答えに、躊躇い無く納得したらしい。
……え~……納得出来ちゃうんだ……。
お姉ちゃん達が、慌てて『殺っちゃうか』思考になったのも、仕方無かったのかな?
私的には、其処まで心配しなくても、大丈夫だと思うんだけどなぁ。
「まぁ、宜しく」
「おうよ! 任せとき!」
ブロドさんの応答に、再び苦笑するお母さんに、ブロドさんが力強く請け負ってくれました。
おっと。
そろそろ帰らないと、お家に着く前にお母さんとお別れしなきゃいけなくなっちゃう。
お母さんも気付いた様で、ブロドさんに会釈して、門を潜るために歩き出しました。
抱っこされているので、私も必然的にブロドさんから離されます。
いけません!
最後のご挨拶がまだです。
振り返るのは難しいので、お母さんに抱き付くかたちで、お母さんの肩越しに、ブロドさんに手を振ります。
「おじしゃま、またね~♪」
「気ぃ付けてな!」
笑顔で見送ってくれるブロドさんに、精一杯の笑顔を返しましょう♪
今日は何だか、色んな大人に会ったなぁ。
修道女のお姉さんと、ギルド受付のお姉さんの名前聞き忘れたなぁ…。
まぁ、次の時でいいか。
*~*~*~*~*
数時間ぶりにお家に帰って来たよ~♪
レグルスの背中から滑り降り、玄関口に駆け寄ります。
「ただいまぁ~♪」
玄関扉を勢い任せに引き開けて、帰宅の挨拶をしながらホールに飛び込みます!
「ふふっ。お帰り、ユナ。 ただいま」
「おかえりなさい、おかあさん♪」
後ろから、お母さんがお迎えの挨拶と一緒に、ホールに入ってきました。
ホールの中央で出迎えた私を抱き締めて、帰宅の挨拶もしてくれます。
嬉しくて、お母さんの首に飛び付いて、お迎えの挨拶を返した。
お母さんの後ろからは、シリウス達3匹が、本来の大きさで入ってきた。
ぁ、数時間ぶりの大きいシリウスと、アルタイルだ!
レグルスは、街を出た所で大きくなってくれたけど、2匹は小さいままだったんだよね…。
「シリウス、レグルス、おかえりぃ~。
アルタイルもおきゃえり!」
シリウスとレグルスの首に、両腕で抱き付き、大きいもふもふに埋まりつつ、お迎えの挨拶を。
レグルスの頭の上にいた、アルタイルにも抱き付こうとしつつ、挨拶を…した…。
………。
噛んだ!?
“か行”も噛んだ!?
気が急いたり、興奮すると滑舌が悪くなるの?
“さ行”だけでも恥ずかしかったのに!
ショックを受けながらも、レグルスが頭を下げて、抱き付きやすくしてくれたアルタイルに飛び付く。
照れ隠しの如く、アルタイルの胸元の毛並みを堪能してたら、3匹も帰宅の挨拶を返してくれました。
『『『ただい…ま?』』』
「? なんで、ぎもんけい?」
返された疑問形の挨拶に、不思議に思ってアルタイルを抱えたまま、シリウスとレグルスを見上げます。
……アルタイルの重さに、座り込んじゃいましたからね……。
3歳児に、両腕が回りきらない大きさの動物は、重い……。
お腹の辺りに抱き付くときに、翼を開いてくれてたから、落っことす事にはならなかったけどね。
『ずっと一緒にいただろう?』
『一緒に帰ってまいりましたよ?』
『だね~』
腕の中のアルタイルまで、2匹に同調してますね。
「うん。でも、お家に帰ってきたから。
“おかえり”は、戻ってきてくれてありがとう。
“ただいま”は、待っててくれてありがとうだけど、たいしょうは生き物だけじゃないよ?
むきぶつだけど、“家”だってわたしたちを待っててくれたでしょ?
“おかえり”と“ただいま”は、一緒にいられなかった時間を、おたがいにさびしかったねって、教える言葉だよ♪」
『成る程。つまり、ユナが“家”の言葉を代弁したと言うことか…』
『私達が口にした帰宅の挨拶は、留守にしていた“家”に、帰ってこれて嬉しいと伝えるための言葉でもあったのですね』
『そっか~。そうだよね~。
誰も居なかったら、“家”だって寂しいかも~』
「ね♪」
3匹に理解して貰えて、嬉しい気持ちを隠さずに、お母さんを振り返る。
お別れまであとちょっと。
ずっと笑顔でいたいな…。