街中散策は終了です。またね、農産の街ラディオール♪
「おっ! 昼間の嬢ちゃんじゃねぇか!」
門前に辿り着き、手荷物検索を終えて、門を潜ろうとした時、門番をしているおじ様が声をかけてくれました。
! 昼間のおじ様だ!
お仕事の邪魔をしちゃったのに、優しくしてくれたおじ様です!
ドライフルーツは、食べてもらえたでしょうか…。
「おじしゃま!」
検査の為に、抱っこから解放されていた私は、覚えていてくれた事に、嬉しくなっておじ様の脚に抱きつきました。
さっきまで頭の上にいたアルタイルは、お母さんの肩に移動してますから、勢い良く動いても大丈夫です!
「おっと!? はははっ。昼間は砂糖漬けの果物を有難うな!
美味かった! 交代の連中も楽しみにしてるぞ?
で? どうだったい? 街は楽しかったか?」
突然抱きついた3歳児に、嫌な顔ひとつせず、頭を撫でつつ屈んでくれます。
視線を合わせて、楽しそうに笑いながら、ドライフルーツの御礼と感想をくれて、街の感想を聞かれました。
良かった、ドライフルーツの差し入れは、喜んでもらえたんだね♪
「うん。すっごく楽しかった!
“やたい”でね、“くしやき”食べたよ♪ おいちかった!」
「おっ!? もしかして、ガザンの親父さんとこか?」
「に? おじしゃま、知り合い?」
「おうっ! 親父さんは俺の親代わりみたいなもんだ!
ガキの頃から世話になりっぱなしさ」
う~っ。さっきから噛み噛み…。
やっぱり、“さ行”は天敵かぁ!?
気が急いてるとは言え、3回か4回に1回しか、ちゃんと発音出来てない…。
みんな気にしてないから、多少恥ずかしさは薄れてきたけど、きちんと発音出来る様に頑張るぞ!
………。
あれ? ちょっと待って。
ガザンさんが親代わりって?
兄代わりで無く?
衛兵のおじ様って何歳?
おじ様って呼んでて大丈夫?
ガザンさんは、40代くらいだと思うけど…。
聞かなかったからなぁ。
「…おじさまは、お兄しゃん?」
「おっちゃんでいいさ。もうすぐ35だ。
嬢ちゃんくらいのチビッ子にとっちゃあ、おっちゃんだろうからな!」
れ? やっぱり、お兄さん代わりじゃないかな?
歳が近すぎない?
ガザンさんが、童顔なのかな?
今度来た時、ガザンさんに年齢ちゃんと教えてもらおう。
ぁ、それより、衛兵のおじ様の名前知らない…。
昼間は泣いちゃったから、挨拶のタイミングが分からなかったんだよね。
色々疑問はあるけど、衛兵のおじ様への挨拶が先だよね!
名前も知らないおじ様に抱きつくとか…。
ダメ駄目デスネ。
「…! ごあいさつが、おそくなりまちた。
ユナです。よろしくおねがいちましゅ」
またも噛んでるし! 泣いちゃうぞ!?
本当に、さ行は天敵デスヨ…。
“噛み噛み”に落ち込み、視線を落とした私の目に、心配そうなシリウスとレグルスが入り込みます。
レグルスは、私が気付いた途端、ふいっと全然違う方を向いてしまった…。
でも、お耳が私の方を向いてるよ?
やっぱり、ツンデレさん?
シリウスは、目が合った後も、じっと心配そうに私を見つめます。
…シリウス…。
慰めてくれますか? 有難うございます。
あぁ、子犬のふかふか感が……癒されます…。
そっとしゃがんで、無言で差し出した腕に、シリウスが身体を預けてくれたので、青銀色の毛並みを堪能しましょう。
シリウスを抱っこして立ち上がると、右足にするりと何かが巻き付いた。
見るとレグルスの尻尾だ。
私の足元で背中を向けつつ、尻尾で慰めてくれるんですね?
「ふははっ、丁寧にどうもな。おっちゃんは、ブロドってんだ!
こっちこそ宜しくな!」
落ち込みから、現実逃避をしつつ、2匹を構い始めた私に、衛兵のおじ様改め、ブロドさんはガザンさんと似た雰囲気の豪快な、でもとっても優しい笑顔をくれた。
「ブロドおじしゃま」
シリウスの毛並みに埋めていた顔を上げて、ブロドさんの名前を呼んでみます。
「言い難かったら、名前じゃなくて、おっちゃんでいいぞ?」
「おじしゃま?」
「あっはっはっ。様付けされるような柄じゃねぇさ」
(ぇ、様付け禁止ですか? 敬称は?)
「まぁ、その方が呼びやすいなら、それでもいいけどな」
不安が顔に出てたのか、ブロドさんがサクッと折れてくれた。
よしっ! じゃあ、やっぱりおじ様で!
「おじしゃま♪」
嬉しくて、渾身の笑顔でブロドさんを呼んだら、驚いたのかブロドさんが固まった。
どうしたのかな?
笑顔を見せると、びっくりして固まる人が多くない?
お~い、ブロドさ~ん。
「呼び方は決まった?」
困惑しつつ、ブロドさんを眺めていたら、お母さんが笑顔で近付いて来た。
振り返って、レグルスを御伴に、シリウスを抱っこしたまま、お母さんに駆け寄ります。
「おかあさん、ブロドおじしゃま♪」
辿り着いて、ブロドさんをお母さんに紹介します。
お母さんもブロドさんの名前は知らなかったよね♪
「ふふっ。仲好しさんになれたの?」
「うんっ♪」
シリウスを両腕で抱えたまま、笑顔で頷く私の頭を、お母さんが優しく撫でてくれます。
もうすぐお別れだけど、大丈夫。
ちゃんと頑張れます!
シリウスやレグルス、アルタイルも居るし、今日出会えた楽しい? おじ様達もいるもんね♪