お母さんは怒ると恐いです。串焼きとギルドの噂?
初めてのお買い物を無事クリアした私は、その場で食べる許可をおじ様とお母さんに貰いました。
串焼きの香ばしい匂いには、腹ペコ娘じゃ勝てません!
お母さんが“自分の”【無限収納】から出した木皿に、3本分の串焼きを串から外して盛り付けて、足元にいるレグルスとシリウスの前に置いてます。
場所を取りすぎない様に、大きめの木皿に纏め盛りしてますね。
「仲良く食べるのよ?」
木皿の中身を確認して、レグルスとシリウスが『いただきます』を言ってから食べ始めます。
勿論、アルタイルも私の肩から木皿の縁へと場所を移して、参戦してる。
一瞬、喋って良いのかな? と思ったけど、よく考えたら、レグルス達の声は、【念話】のスキルが働いて初めて聞こえるものです。
スキルを持たない人には聞こえないし、スキルを持っていてもレベルが低ければ、会話は成立しないんだった。
残った1本を、お母さんと2人で半分こします。
や~、この大きさを1人で食べるのは無理です。
だって、私は3歳児……いや、以前のままでも無理か?
……間食無しで、部活後だったら……なんとか……いや、うん。
無理だって! この大きさは無理!
3つが限界だろうなぁ。しかも、晩ご飯が入らなくなる……。
………。
取り敢えず、食べよう!
今なら、お母さんと半分ずつだから、大丈夫!!
うん、食べよう♪
「いただきます!」
─はぐっ!
お母さんに串を支えて貰いつつ、最初の1つに食い付きます。
フフフ、豪快にいきますよ♪
だって、串焼きは豪快に食べるのが、ベストな食べ方だよね?
豪快に食べてこそ、本来の美味しさが分かる!…はず…。
いや、私の持論だから、上品に串から外して食べるのも、アリだとは思うよ?
ま、多少お行儀が悪くても、今の私なら許されるよね?
──モグモグ、ムグムグ。
ごっくん!(うま~♪)
屋台の前で立ったままと、ちょっと不作法な状態だけど、串焼きの美味しさは本物でした!
美味しい物って凄いね♪
今なら、周りの空気にお花を飛ばせそう♪
「お~。美味そうに食うなぁ。どうだ? 嬢ちゃん、気に入ったか?」
「うん。おいし~い♪」
「そりゃ、良かった! たんと食え」
「ふふっ。私も貰うわね。──あら、本当に美味し♪」
お母さんも私が食い付いたお肉とは別のお肉を齧ります。
結構大きめに齧ったのに、口許を手で隠しながら咀嚼する姿は、上品さを纏って麗しい。
口調は雑な感じなのに、仕草は上品……。
お母さんは、お忍びのお嬢様ですか?
いや、“元お嬢様な凄腕冒険者”な設定なのかな?
まぁ、確かに、物語の魔女そのものとは思ったけど、お母さんの今の姿は、クラウディアにおける貴族の奥方や、愛人(?)にも見えなくはない。
着ている服も、動き易さを重視しているからか、少々挑発的な印象はあるけど、下品だとか破廉恥だとかいった嫌な印象は皆無で、気品ある美しさが際立ってる。
なのに、第一印象は魔女。
恐ろしさ重視の陰険なイメージじゃなくて、悪戯好きで気紛れな美女のイメージの魔女。
………。
うん。考えるだけ無駄っぽいね♪
お母さんは、女神様。
クラウディアを創った、創造神様だよね♪
美味しい串焼きを堪能しながら、ふと浮かんだ疑問は、取り敢えず無かったことにしておいた。
「ところで、姐さんは冒険者か?」
「? どう見ても冒険者じゃない」
「あ、やっぱりそうなんか! いや、格好だけだと、ちと迷ってなぁ」
「なぁに? この格好に文句でも?」
にっこり笑顔なのに、お母さんの周囲の温度が、徐々に下がっていきます!?
(ぅにゃっ!? さ、寒いです! 恐いです! 緊急事態です!
誰かぁ~助けてください!)
救いを求めて、辺りを見回します。
!? 皆さん、お店を避けてませんか!?
足元に視線を落とせば、シリウスもレグルスもお母さんを見上げて、ちょっと及び腰です。
アルタイルに至っては、お肉を啣えたまま固まってます。
「違う、違う! 姐さんにゃ良く似合ってるし、文句なんざ1個もねぇよ。
そうじゃ無くて、冒険者ならギルドに行くだろうと思ったんだよ」
おじ様も少々青ざめつつ、速攻で否定と説明を口にしました。
うん。お母さんてば、恐かった……。
「ええ。ギルドには行くわよ?」
「やっぱりなぁ。姐さん、大きな声じゃ言えないが、副ギルドマスターには気を付けな」
おじ様は声を潜めて、お母さんに言い難そうに注意する。
お店の周りで、微かに魔素が動いた。
お母さんが魔法を使ったみたいだ。
魔素が魔法に変わると、キラキラと優しくて綺麗な光に見える。
使われた魔法の属性の色の光。
今は、ライムグリーン。少量の金色が混じってる。
風と光の属性だ。
防音と認識疎外? ……ぁ、結界だ。
おじ様と内緒のお話かな?
「アイツぁ、女に目がなくてなぁ。
若い新人や余所から来た渡りの冒険者、目を惹く様な見目の良い奴に、無理難題をふっかけちゃあ、喰いもんにしてるって噂がある。
姐さんはこの街じゃ見ない顔だが、随分腕がたつ様に見える。
姐さんだけなら、どんなに別嬪だって心配なんざぁしねぇ。
けど、嬢ちゃんが一緒なら話は別だ。
奴が姐さんに目を付ければ、嬢ちゃんが捲き込まれるかも知れん」
おじ様が心配そうに私を見ます。
上から覗き込まれると、影になってちょっと怖い……。
お母さんのドレスの袖を握って、お母さんの後ろに避難します。
お母さん越しにおじ様を見上げる私の頭を、私が掴んだ方とは逆の手で安心させる様に撫でて、お母さんは優しく笑います。
「有難う。気を付けるわ。
まぁ、娘に手を出す様なら、問答無用で排除するから、心配しなくても大丈夫よ。
うふふ。ちょっとしたつてもあるし、目に余る様なら夫に告げ口するのも手かな♪」
「ん? 姐さんの旦那、強いのか?」
「ええ。私の旦那様は最強よ♪」
悪戯を思い付いた子供みたいに、お母さんはにっこり笑った。