街に入る前に。通用門にいたのは、気のいい“おっちゃん”でした。
お待たせしました。
なんとか復活です!
お休み前より“短め”ですが、息切れ防止策なので、ご勘弁を。
前回まで──農産の街ラディオールにやって来たユナちゃん達……門前での一悶着? から解放されて、チェック待ちの列に並びました。
「次の者」
ぁ、何で遊ぶか迷ってる間に、順番が来ちゃいました…。
ショックです!
「な、なんだ? どうしたんだ? 嬢ちゃん?」
余程絶望的な表情になってたのか、順番を促した衛兵さんが、慌て出しました。
衛兵さんには申し訳ないですが、視界が涙でぼやけ始めてます。
あぁ、もう。これは、駄目です。泣いちゃいます!
「気にしないで。待ち時間に遊んでようと考えてた所だったのに、思いの外早く順番が回ってきたから、決めきれなくて考えるだけで終わっちゃったのよ」
嗚咽は我慢してるけど、涙が止まらない。
お母さんが頭を撫でながら、衛兵さんに説明してくれます。
「大丈夫、またあとで遊びましょ? 今は先にしなくちゃいけないことがあるでしょ?」
「すまんなぁ、嬢ちゃん。おっちゃんが、もう少し待ってやれたら良かったんだが…」
衛兵さんの言葉に、頭を横に振ることで、衛兵さんは悪くないことを訴えます。
口を開けば、嗚咽が洩れちゃう。
これ以上、衛兵さんを困らせてはいけません!
「大丈夫、大丈夫。時間はまだまだ沢山あるでしょ?」
お母さんが私の頭を自分の肩に抱き寄せて、ゆっくり背中を撫でることで、呼吸を宥めてくれます。
お母さんにしがみついて、泣き声が洩れないように、一生懸命泣き止もうとしますが、何故だか感情に振り回されて、涙が止まらない…。
「うぁあ…、本当にごめんなぁ」
「ふふっ。大丈夫よ? この子、凄く賢いから、誰も悪くないことは、ちゃんと理解出来てるもの。
お昼寝が出来なかったから、感情の制御が甘くなってるみたいね」
衛兵さんとお母さんの話を聞きながら、(あぁ、そうか…)と納得する。
精神は身体に引き摺られ易いというけど、これもその1つだ。
身体の眠気に引き摺られて、感情抑制機能まで低下してる訳か。
「さぁ、ユナ。身分証を出して。出来る?」
ふぐえぐと微かな嗚咽を洩らしながら、首に下げてある身分証を引っ張り出します。
「これ~。っく」
「おおっ! 有難うな。ちゃんと見せられて偉いな!」
衛兵さんは、私が出した身分証を確認して、そっと頭を撫でてくれた。
お母さんに抱っこされたままだから、衛兵さんの優しそうな笑顔が、はっきり見えます。
「ひっく…おかぁさん、下ろ、して?」
「どうしたの?」
「リュック、から出したい、もの、があるの~」
怪我をしないように、しゃがんで下ろしてくれたお母さんに、お礼を言ってから、リュックを下ろす。
ごそごそと漁って、中から瓶を取り出した。
「これ、あげましゅ」
(ぁ、噛んじゃった…)
「ん? なんだ?」
衛兵さんは、子供である私と目線を合わせるために、地面に片膝を付いて屈んでくれた。
私が取り出したのは、【ドライフルーツの入った瓶】の1つで、苺・オレンジ・葡萄・林檎の4種類が1瓶に詰められた物だ。
5つある瓶の内、この瓶だけは、多種類が混ざってた。
「おいおい!? こりゃぁ、砂糖漬けの瓶詰めじゃないか!
泣かせちまったってのに、こんな“高級品”貰うわけにゃいかねぇよ…」
「ふふっ。だからじゃない?
泣いて困らせちゃった、お詫びの品の積もりだと思うわ。
ね? ユナ」
「ん。ごめんなさい…」
「嬢ちゃんは、まだ小さい。何にも悪いことなんざ無いさ」
「ん~ん。おしごとのジャマしちゃった…。
おじしゃまたちのおしごと、とっても大事なことなの知ってるよ?
だから、“ごめんなさい”と“がんばってください”です!」
呼吸が落ち着いて、涙も止まった。
精一杯の謝罪と感謝、応援の気持ちを伝えたい。
「うっ、そんなキラキラした目で見られたら、おっちゃん断れねぇじゃねぇか…」
「ふふっ。賄賂じゃなくて、差し入れなんだし、受け取ってあげて?
貴方だけじゃなくて、ここの皆さんにってことで。ね?」
「いいのか? なら、皆で大事にちょっとずつ味わうからな!」
お母さんが援護してくれたので、衛兵さんも漸く受け取ってくれました。
美味しい物は、皆で食べるのが良いですね。
衛兵さんは、私の頭を再び撫でて、嬉しそうに笑ってくれました。
「はぁ、にしても、女の子ってのは、こうも可愛いもんかねぇ。
うちは、男ばかし3人だから、可愛げってモノがありゃしねぇ…」
「あら、うちとは逆なのね♪ うちは、女の子ばかり4人だから、かしましいけどね」
「いや、男はつまんねぇな。ガキの頃は悪戯三昧で、でかくなりゃあ生意気ばかり言いやがる。
1人くらい女の子がいれば、違ったかもなぁ」
「ふふっ。でも、肉体言語で会話が出来るのは、男どうしだからこそじゃない?
女の子相手じゃ、口喧嘩が精々で、最後には言い負かされる様になるわよ?
貴方みたいに剛毅な性格してれば、女の子相手に手なんか挙げたら、罪悪感に潰されるんじゃない?」
「うっ、違いねぇ。っと、次の奴が待ってんな。あんたら親子は、通っていいぜ。ラディオールの街を、楽しんでくれ」
世間話のあと、門の中へと促された。
私がリュックを漁っていた間に、お母さんも身分証を提示してたらしい。
再び抱き上げられて、運ばれます。
レグルス達も、小さいまま足下を歩いたり、私の頭に止まったりして付いてきてます。
お母さんの肩越しに、衛兵のおじ様に手を振れば、満面の笑顔で振り反してくれました。
いい人でした♪
さぁ、いよいよラディオールの街です!
どんな人がいて、どんな物があるのかな?
楽しみです♪
すみません。
やっと街には入れたけど、話は進んで無いよね…。
本当にごめんなさい。
次回こそは、ラディオール散策となるのでしょうか?
作者にも、ユナちゃん達の行動は予測不可能です…。